テロ再び、世界秩序に試練

テロ再び、世界秩序に試練 アフガン爆発100人超犠牲に
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『【ワシントン=永沢毅、ドバイ=岐部秀光】アフガニスタンの首都カブールの国際空港周辺でおきた自爆テロは27日、犠牲者が米兵13人を含む100人超に拡大した。米同時テロから約20年を経ての惨事は世界がなおテロの脅威に直面している現実を浮き彫りにする。イスラム主義組織タリバンの「勝利」に刺激されたイスラム過激派による国際テロが拡散する懸念もある。

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AP通信は当局者の話としてアフガン人の死者が少なくとも95人にのぼったと報じた。犯行声明を出したのは過激派組織「イスラム国」(IS)だ。2015年にアフガンとパキスタンにまたがる地域を一方的に領有したと主張するIS系勢力のIS「ホラサン州」が関与したとみられている。米軍で中東地域を統括するマッケンジー中央軍司令官は「車両を使った自爆テロがおきる可能性が極めて高い」とテロが続発する可能性を指摘した。

ISは本拠地としていたシリアとイラクでの占領地域の大半を失ったが、その活動を信奉するテロリストが各地で勢力を維持している。アフガン全土をほぼ制圧したタリバンはISと対立関係にあり、制圧直後にIS「ホラサン州」のトップを処刑していた。今回のテロはその報復の可能性もある。

タリバンは首都カブール制圧にともない市内の刑務所に収容されていた国際テロ組織アルカイダ戦闘員ら過激派の多くに恩赦をあたえ数千人を解放した。それ以外にもアフガン各地の刑務所から多数の過激派が解放されたり脱走したりしたもようだ。

シリアでかつてアサド大統領が刑務所の囚人を一斉解放し、それがISの勢力拡大につながった歴史に重なる。さらにISがイラク軍の放置した兵器や銀行に保管してあった現金を手にして勢力を広げたように、アフガンでは米軍やアフガン政府軍の兵器が過激派の手にわたりかねない懸念もある。

アフガンにおけるタリバン支配の復活は世界各地のイスラム過激派を刺激しかねない。世界のテロはISのバグダディ指導者が「カリフ国家」の建設を宣言した14年をピークに減少傾向にあったが、今回のようなテロ作戦の「成功」を過激派が宣伝や戦闘員の勧誘につかうのは確実だ。

中東やアフリカ、アジアで圧政や貧困、格差といった問題に憤りをおぼえる若者たちの一部はイスラム過激主義に共感を覚えているとみられる。公共サービスが崩壊した国家では過激派が教育や弱者支援などの役割を担い、支持を広げる。

シリアとイラクの拠点を失ったISの戦闘員はリビアやシリア、イエメンなどの内戦国にわたったとみられている。アフリカのマリはイスラム過激派の活動が活発だが、旧宗主国フランスは6月に部隊の削減方針を発表した。後ろ盾を失って敗走を余儀なくされたアフガン政府軍の二の舞いを演じかねない。

アフガンで米兵に死者が出たのは20年2月以来で、バイデン米政権では初めてだ。バイデン大統領は26日の記者会見で「代償を払わせる」と述べ、IS系組織への報復計画の作成を米軍に指示したと明らかにした。

ただ、それはかつてのように米国が「テロとの戦い」に再び注力することを意味するわけではない。米同時テロがあった01年は米国が冷戦後唯一の「超大国」として世界秩序をけん引していた。しかし、当時は米国の8分の1にすぎなかった中国の国内総生産(GDP)は20年には約7割の水準にまで迫り、米国の国力は相対的に低下。「世界の警察官」として振る舞う余裕はなくなった。

バイデン氏はアフガンへの増派は不要との認識を示し、サキ大統領報道官は31日に迫る米軍の撤収期限も維持すると説明した。米国はなお1000人規模で残るとみられる米国人とアフガン人協力者の国外退避計画について、米軍撤収後も継続する方針を打ち出している。

ただ、現地に米軍がいなくなったあとどう円滑に続けるのかは見通せない。「タリバンと調整を続けている」。サキ氏はこう説明したが、詳細は明言を避けた。

テロ対策には各国の連携や貧困国への支援が欠かせないが、多くの国は新型コロナウイルス対策など国内問題で手いっぱいの状況だ。過激派は各国の協力の不在を見透かしている可能性がある。国際社会が対テロで結束を示せるかが問われる。』