少女よ大志を抱け 「理系は男性」の偏見さよなら

少女よ大志を抱け 「理系は男性」の偏見さよなら 
思い上がれない女性たち(2)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC29DH10Z20C21A7000000/

『「少年よ大志を抱け(Boys, be ambitious)」は1876年に札幌農学校の初代教頭に就いたクラーク博士の名言だ。それから月日は流れたが、果たして現代の「少女」はどうか。自分の信じる道を大手を振って歩めているだろうか。

「母親から、そんな男の子ばかりの進路はやめなさいと言われるんです」。一般社団法人「Waffle」には、女子中高生からこうした相談が舞い込む。2019年設立のWaffleはIT(情報技術)分野におけるジェンダーギャップの解消を掲げ、オンラインでのプログラミング教室やアプリコンテストを実施する。

Waffleの共同代表を務める田中沙弥果さん(左)と斎藤明日美さん(東京都千代田区)
代表理事を務める田中沙弥果さんは「男の子と同じようにプログラミングを楽しんでいた女の子が、10代になると一気に遠慮がちになる。背景にあるのが社会のジェンダーバイアス(性的偏見)」と話す。IT関連のイベントに集まるのは男子が大半で参加することに引け目を感じたり、大学で理系に進むことを親や教師が不安視したりする。「このもったいなさすぎる状況をなんとか変えないと」

工学部、いまだに女性15%

経済協力開発機構(OECD)が実施する15歳の国際学習到達度調査(PISA)では女子の学力は男子を上回る。25~64歳で大学などの高等教育を卒業した比率はOECD平均で女性が約41%、男性が約35%だった。一方で課題となっているのが、STEM(科学・技術・工学・数学)分野における女性進出の遅れだ。

特に文理の選択を早く迫られる日本では、「女性らしくない」という偏見が人生の選択肢を狭めている。文部科学省によると、大学の理学部における女子生徒の割合は約28%。工学部に至っては約15%にとどまる。

2年待ったけど誰もやらなかった

Waffleの田中さんは外国語学部を卒業した「文系」だが、留学先の米国で初めてITの「クールな姿」を目にして女性の視野を広げたいと思い立った。最初は10代女子向けの活動を立ち上げてくれるエンジニアなどを探して奔走したが、2年間たっても本腰を入れようという人や団体は現れない。しびれを切らして自ら起業した。

田中さんと、もうひとりの共同代表である斎藤明日美さんにも、かつて「女性らしさ」をめぐる葛藤があった。田中さんは中学に進学すると「『モテ』を意識して自分から手を挙げなくなってしまった」。斎藤さんは入学した大学の農学部で女性が圧倒的に少なく、男子学生を立てて一歩引いていることに疑問を感じた。そんな思いが原動力になっている。
Waffleがこれまでに開いたプログラミング教室は26回、参加者は約130人に上る。好きなK-POPを紹介するウェブサイトを作成するなど、女子学生は思い思いの関心を形にしていく。Waffleとの出会いで、理系の大学に進む一歩を踏み出せたとの声も届いた。斎藤さんは言う。「女の子はもっと自分の進む道に自信を持っていい。そんな気持ちを応援できる、あたたかい居場所をこれからも作ってあげたい」

日本の若者は世界的にみても、男女ともに自分を肯定的に捉えられていないといった調査もある。内閣府が18年に各国の13~29歳の男女に調査したところ、「自分自身に満足している」の項目に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた日本の若者の割合は約45%。最も高い米国の半分程度だった。

自分の現状や進む道を肯定的に捉えられなくなるのは、周囲の環境や何気ない言葉などに原因がある。課題解決の糸口は、幼少期にもありそうだ。

ネジに「かわいい!」

乳幼児向けの玩具を手掛けるピープルで商品企画を担当する上原麻里衣さんは、モニターとして開発に参加した6歳前後の女の子を前に、本物のネジや工具を見せて驚いた。女の子たちは武骨な道具に飛びつき、口々に「かわいい」と思わぬ反応をみせた。

女の子向けのDIYおもちゃ「ねじハピ」のドライバー

従来のDIY玩具といえば「大工さんセット」といった男の子向けがほとんど。聞けば、最近はDIYに取り組む母親の姿を家庭で目にしたり、女性が工具を駆使して家を改装したりするテレビ番組が人気を集めたりしているという。

18年に発売した「ねじハピ」は、電動ドライバーで箱や家を組み立てる。パステルカラーを使い、ねじを星形にするなど女の子も興味を持てる見た目にした。一方で電動ドライバーの使用感は本物さながらで、ネジも150個以上使う。

娘の興味を大事にしたい

購入の後押しをしているのが「興味のあることを応援したい」という親心だという。「最近の父母世代は男女のイメージに関係なく、欲しがる娘を受け入れ可能性を広げてあげたいと思っているのでは」(上原さん)とみる。

人生の初期段階で可能性が狭められることは、特定分野の人材不足や男女の賃金格差につながる。少女が様々な分野で「大志」を育める環境づくりが急務だ。

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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授

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貴重な体験談 母親が持っているバイアスは、すごく大きいと思う。「男の子はこういうもの、女の子はこういうもの」という自分の価値観を必死で子供に投影してくる。

日本の女の子は、毎日母親と戦い続けなければ、自己実現すらできない。

周り道に思えても、孤立した子育てを社会に解放して、母子が孤立しない環境を作り、「今、社会はこういう人間を求めている」というのが子育ての現場に届くようにすることが必要。

父親が子育て参加、母親が社会参加し、社会全体が子育てに関わる仕組みを作っていかなければ、今の日本の子育てから自己肯定感のある人間を作るのは難しいと感じている。学校の先生も案外世間知らずです。大人が子育てに関わってください。

2021年8月24日 9:21いいね
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野崎浩成
東洋大学 国際学部教授

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分析・考察 「リケジョ」という言葉が死語になるような世の中を目指したいものです。
そのためには、ねじハピのような「入口」の環境づくりをするとともに、卒業後の「出口」の環境整備も必要です。

たとえば、男職場の象徴とも言える建設・土木の現場における仕事環境の見直しです。国交省は「ドボジョ(土木女子)」をキーワードに業界への働きかけを行うほか、ゼネコン各社は現場での女性専用トイレやパウダールーム設置などハード面の配慮と育休などのソフト面での改善を図っていますが、大きな変化は見られないようです。

環境・制度面での見直しは当然として、女性が自然に働きやすさを感じるための、周りの意識変革が必要条件だと思います。

2021年8月24日 8:01 (2021年8月24日 9:19更新)
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村上臣
リンクトイン日本代表

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分析・考察 いまビジネスの世界ではダイバーシティが大きな課題となっており、そのための社員トレーニング等が盛んに行われています。代表的なものに「無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)」を認識して打破するといったものがあり、採用や昇進をより適切に行うことが期待されています。

このバイアスがどのように形成されるかについては諸説ありますが、家庭や教育環境に起因するものが大きいと考えています。間接的に影響を与えているメディアの役割は重大です。安易に「女性役員」「リケジョ」「美しすぎる女性議員」などとはやし立てることは、このバイアスを社会のコンセンサスとして追認することにつながります。

2021年8月24日 9:06いいね
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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別の視点 男女機会均等法が施行されたのが1986年。と思っていたら、その源流となる勤労婦人福祉法の制定は1972年に遡る。ほぼ50年前の出来事だ。ということは男女機会均等という案については、50年前から“気が付いていた”ということになる。

にも拘わらず、50年経っても、いまだに、こうした記事が出てしまう寂しさ。潜在的な思い込みや因習を根本から変えるには時間がかかる。「なんで男性には一般職採用がないんだろう?」と同じゼミの男の子が嘆いていたことを今も思い出す。

2021年8月24日 9:06いいね
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大湾秀雄
早稲田大学 教授
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分析・考察 男がヒーローで女は助けられるお姫様という筋書きの絵本など、子供の頃から教えられる性別役割分担でジェンダーバイアスが植えつけられる。

「女性らしくしなさい」という親の教えは、しゃしゃり出ず控えめに行動し、結婚市場で有利になるよう、大学での専攻も、主婦や母親志向をシグナル出来る家政学、教育学、文学が好まれる。

こうした傾向は日本や韓国でとりわけ強く、職業選択における男女格差とそれによる賃金格差を生んでいる。

日本人女性は国際比較で自己奉仕バイアスが低いことも示されているが、失敗すると反省を促し、成功すると周りに感謝するよう教える教育のせいだろう。これもキャリア選択やメンタルヘルスに影響を与えている。

2021年8月24日 7:50いいね
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