アフガンの行方、今後数日が命運

アフガンの行方、今後数日が命運 ブレマー氏特別寄稿
米ユーラシア・グループ社長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB194WI0Z10C21A8000000/

『アフガニスタン駐留米軍のまずい撤収は、バイデン米政権が初めて直面した外交上の大きな危機となった。

イアン・ブレマー氏

撤収の判断そのものが批判されるわけではない。失敗したのは戦略というよりも実行面だ。米軍のアフガン駐留の継続は急速に難しくなっていた。すでに多くの部隊を撤収させていたし、イスラム主義組織タリバンは素早く支配地域を広げていた。そして、米国民はもはやアフガンに関心を示さなくなっていた。

バイデン大統領が前任者から引き継いだのは、壊れた和平プロセスと、仮にトランプ前大統領が約束した米軍撤収を実行しなければ、タリバンとの戦闘が再開するという見通しだった。戦闘が終わらなければ米軍を増派しなければならない。それはバイデン政権の誰もが望んでいなかった。撤収は悪い選択肢のなかでは最良だった。バイデン氏がこうした見方を確信していることは、16日の同氏の演説でもわかる。

カブールを制圧したタリバンの戦闘員ら(19日)=AP

バイデン政権の安全保障と外交政策のチームの専門性と経験に照らし、衝撃的だったのは、実行に関しては、まったくなっていなかったことだ。失敗は4つあった。

情報、調整、計画、意思疎通を誤る

第1の失敗は軍事・情報だ。米情報機関はアフガン政府がタリバンの攻撃を受けても2、3年は持ちこたえられると考えていた。ところが、タリバンの攻勢が強まると、その見通しは2~3日に変わった。

特に驚くべきことは次の2点だ。米国は戦闘を拒否したアフガン政府軍に過去20年間で880億ドル(約9兆6千億円)を支払った。そして、米国はアフガン政府軍を20年間も訓練したのに、政府軍の能力が低く、戦う意思がないという事実を理解していなかった(あるいは理解したくなかった)。

第2の失敗は調整だ。米国は20年間、同盟国とともにアフガンで戦ったが、バイデン政権による部隊の撤収は単独だった。政策の見直し、決定、発表、実行だけではない。事後処理としての市民の退避、難民の受け入れ、人道支援の提供についても同様だった。

同盟国はトランプ前政権による「米国第一」の4年間が終わった後、米国が態度を変えると予想していた。米国は中国に関与する機会も逃した。米国も中国も、アフガンが「失敗国家」となり、再び国際テロの輸出拠点になる事態は望まない。米国と中国が真の意味で合意できる数少ない分野で、創造性に富む外交を実行する余地はあったが、その好機をむざむざ失ってしまった。

カブールの空港で、米軍輸送機のそばで走るアフガン市民ら(16日)=AP

第3の失敗はプランニング(計画・設計)だ。情報や調整で失敗したとしても、バイデン政権が別のシナリオを効果的に用意できていれば、必ずしも大きな被害につながったとは限らない。ところが、実際は、備えができていなかった。

米国は(市民らの)退避を支援するため、米本土から新たな部隊を派遣しなければならなくなった。アフガンの米軍は撤収開始時よりも(一時的に)3500人も多くなってしまった。首都カブールの空港は絶望したアフガン市民であふれ、滑走路を進む米軍の輸送機と一緒に多数のアフガン人が走った。離陸後、機体にしがみついていた3人が振り落とされ、亡くなった。

米軍を支えた何千人ものアフガン人の安全を保証する計画はなく、多くの人々は置き去りにされた。

第4の失敗はコミュニケーション(意思疎通)だ。バイデン氏は7月、米国民に向け、タリバンが「アフガン全体を支配する可能性は極めて低い」と保証した。「(在アフガン米大使館の)屋根の上からヘリコプターで脱出するような状況ではまったくない」とも話した。

ブリンケン米国務長官も「米国は残り、大使館は動かず、計画も続く。仮に安全が大きく損なわれるような事態になっても、それは金曜から月曜の間に起こることではない」と語った。こうした予言は、言っているそばから外れたため、かわりにバイデン政権はアフガンで「成功を収めた」と主張するようになった。

痛みを伴うが必要な決定だったはずのアフガン駐留米軍の撤収作業は大きく失敗した。バイデン氏の政敵は、同氏がこの敗戦の責任をとるべきだと突き上げた。20年の月日と2兆ドルの資金が浪費された。その責任の一端をバイデン氏は追及されている。

アフガニスタン駐留米軍の撤収についてホワイトハウスで演説するバイデン米大統領(4月)=AP

米国のテロリスト監視能力は低下

これからの数日間が決定的に重要な意味を持つ。アフガン政権は崩壊し、大統領だったガニ氏は出国した。しかし、多くの米国人やそのほかの国の人々がカブールにとどまり、多数の米兵が救出に向かっている。タリバンは退避しようとする米国人の誘拐や殺害を試みるだろうか。混乱の中で事故が起き、米国の記者、援助団体職員、外交官、兵士が死亡するだろうか。

ホワイトハウスは1979年の(イラン革命に伴う)テヘランの米大使館占拠、それに続く80年のイランからの人質救出作戦の失敗を連想させる最悪のケースを想定したいくつかのシナリオを検討している。このリストに2021年のカブールでの出来事が加わるかどうか、近いうちにわかるだろう。

仮にバイデン政権が事態の一段の悪化を防いだとしても、その後の見通しは極めて暗い。タリバンは米同時テロからちょうど20年となる9月11日、カブールの米大使館を含む市内各地にタリバンの旗を立て、プロパガンダ(政治的な宣伝)に励むだろう。

米国が残した数十億ドルもする兵器がカブール市内のパレードに参加するはずだ。タリバンは残虐な支配を確立するとみられる。なかでも犠牲になるのは年齢にかかわらず、女性だ。米メディアはそんな事態を見過ごさない。米議会は公聴会を開き、バイデン政権の高官を厳しく調べることになる。

アフガンは再び国際テロの温床になるとみられる。タリバンが率先して過激派を迎え入れるだけではない。さらにあり得るのは、タリバンがアフガンの領土をコントロールできず、過激派の侵入を許すことだ。1980年代のアフガン、90年代のボスニア、2000年代のイラク、10年代のシリアでみられたように、紛争地は世界から(イスラム過激派の)ジハーディストをひきつける。

過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロが欧州で続発したことで、ISには各国から新たな参加者が相次いだ。こうした人々はシリアやイラクに渡り、それから(テロを起こしかねない過激派として)出身国に戻った。

米国がアフガンにいるテロリストのグループを監視し、攻撃する能力は今後、限定される。現地での情報収集能力が欠如し、この地域での軍事力も限られるからだ。アフガンを巡る「何かはわからないけれど、何かがあることはわかっている」という事柄はこれから、飛躍的に増えていく。それだけでも米国にとっては悪いニュースだ。

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。

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