危うい自国優先主義 中東安定へ試される結束

危うい自国優先主義 中東安定へ試される結束
アフガンの蹉跌 試練の世界秩序(中)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN171CD0X10C21A8000000/

『アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンの攻勢が強まりつつあった初夏。「少なくともあと数カ月は遅らせたほうがよい」。米軍高官は8月末に迫る米軍の撤収期限の延期を提言したが、バイデン米大統領は耳を貸さなかった。

米軍撤収のレールを敷いたのは「米国第一」を掲げたトランプ前大統領だ。だが、国際協調をうたい、「米国は戻ってきた」と宣言したバイデン氏も「際限なき戦いは米国の国益ではない」と、自国優先の考えを公言してはばからない。

【前回記事】民主主義、繁栄もたらせず タリバン復権招いた米国
約450人の兵士の犠牲を出し、北大西洋条約機構(NATO)の有志連合軍の中核を担った英国では、アフガンの状況に困惑が広がる。ラーブ英外相は16日、アフガンの現状について「私たちが望んだものではない」と心境を吐露した。

同盟国の慎重姿勢を知りながらもバイデン氏が撤収を推し進めたのは、米世論の動向だ。米シンクタンクのシカゴ評議会によると、8月に入っても米有権者の70%がアフガンからの米軍撤収を支持した。バイデン氏が所属する民主党支持層では77%に及ぶ。

米国はアフガンでの開戦から20年で2千人を超える米兵が命を落とし、2兆ドル(約220兆円)以上を費やした。終わりが見えず、劣勢の戦況を隠蔽したことも明るみに出て、有権者には厭戦(えんせん)気分が広がった。

米国にとって、中東の安定は原油調達という実利のうえで不可欠だったが、シェール革命でこの地域への依存度はほぼゼロになった。さらに、「唯一の競争相手」とみる中国への対処を優先していることも中東への関心を失わせている。

中東で米国の重しが外れたひずみは大きい。内戦が続くシリアでは独裁体制のアサド政権による自国民への抑圧がやまない。イラクやレバノンではイランが支援するシーア派武装組織が影響力を強め、サウジアラビアなど周辺国の警戒感は強まっている。

原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の安定が失われれば、中東に原油の9割を依存する日本を直撃する。その予兆はある。ホルムズ海峡に近いオマーン湾では7月29日に航行中のタンカーが攻撃を受け船員2人が死亡する事件が発生した。米英はイランの関与を主張している。

中東情勢がこれ以上混迷すれば、過激派の「ゆりかご」になりかねない。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、「(国際テロ組織)アルカイダが想定よりも早く復活する可能性がある」と上院議員との会議で述べた。

欧州では、15年に起きたシリア難民の大量流入の再来を懸念する。フランスのマクロン大統領は「欧州だけでは、現在の結果に耐えることはできない」と述べ、国際社会へ協力を呼びかけた。日米欧の主要7カ国(G7)は来週に開く緊急のオンライン首脳会議で、結束を改めて確認する。

この地域での新たな秩序づくりに民主主義陣営がどう関与していくのか。その行方は各国が注視しており、民主主義の行く末をも左右する。(ワシントン=永沢毅、ロンドン=中島裕介)

【関連記事】

・極限のカブール、欧米は市民・協力者の救出に奔走
・タリバン支配、恐怖の記憶 「イスラム首長国」建設示唆
アフガニスタン最新情報はこちら

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

渡部恒雄のアバター
渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員

コメントメニュー
分析・考察 バイデン政権が、トランプ大統領の敷いたタリバンとの和平と撤退を9月までにという期限を区切って、拙速で進めざるを得なかったのは、2016年の大統領選挙でトランプに投票して、2020年でバイデンに鞍替えした票をつなぎ留めなければ、2024年の再選は難しいと考えているからでしょう。

つまり、「アメリカファースト」は、トランプ大統領個人が作り出したものというよりは、今のアメリカの社会が作りだしたものであり、政権が交代しようとも続いているものだと考えなくてはいけないことを、我々同盟国も認識しなくてはいけない、ということでしょう。

2021年8月19日 7:49いいね
19 』