中国・上海、小学生の英語試験禁止

中国・上海、小学生の英語試験禁止 習思想は必修化
北京、外国教材禁止 米中対立も背景か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM103LU0Q1A810C2000000/

『【上海=松田直樹】中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が教育分野の監督を強めている。上海市は9月の新学期から小学生の期末試験で、これまで実施していた英語の試験を除外する。試験の回数も減らす。学生の負担を軽減するためというが、同時に「習近平思想」を必修にして思想教育は徹底する。米国との対立長期化をにらみ、子供に強い愛党精神を植え付ける狙いもあるとみられる。

上海市は今月3日、新学期から3~5年生(上海市の小学校は5年制)の期末試験の対象科目を数学と国語に変更すると公表した。これまでは英語を含む3科目が試験の対象となっていた。一学期に中間と期末の2回実施していた試験の回数も期末試験の1回のみに改める。

習指導部は「(受験競争の激化が)放課後の自由な時間を奪い、小・中学生に多大なプレッシャーを与えている」と問題視する。放課後の学習塾や家庭教師の利用は教育費の増加につながっており、少子化を助長する要因にもなっている。中国最大の国際都市である上海市の取り組みは今後、ほかの都市にも広がる可能性が高い。

同時に思想教育は加速している。上海市は9月の新学期から「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の学生読本」と題した教材を使用する授業を小・中・高生の必修科目として新たに設ける。

小中は「道徳と法治」、高校は「思想政治」の授業の中でそれぞれ新教材を必修にする。授業では習氏の重要発言を暗記したりするとみられる。新教材は2021年7月に教育省が全国の学校で今秋から採用する方針を公表しており、今後は上海以外でも導入が進むとみられる。

北京市は外国教材禁止 米中対立も背景か
北京市も9日、当局の認可を受けていない外国教材を義務教育で使用することを禁止する方針を公表した。思想教育を徹底し若者の共産党への関心を高めるほか、香港でのデモ活動などでみられた社会運動の芽を摘むという思惑があるとみられる。米中対立が長期化しそうなことも底流にありそうだ。

中国政府は学習塾など教育産業の監督にも躍起だ。オンライン教育の大手15社に対し、虚偽の授業料を提示したとして6月に罰金を科した。高まる教育熱もあり、自宅で本格的な授業を受けられるとオンライン教育は注目されていた。だが、高額な授業料を要求する業者も少なくなく、返金トラブルなどの苦情も相次いでいた。

7月には学習塾の新規開業の認可を中止し、既存の学習塾は非営利団体として登記すると公表。今後は学費も政府が基準額を示して管理する方針だ。学習塾の株式上場による資金調達も禁止した。

監督強化の背景には少子化対策だけでなく、教育格差を是正する狙いもあるとみられる。小学3年生の子供を持つ江西省宜春市の主婦(29)は「将来は子供を北京や上海など大都市の大学に通わせたいが、今の教育制度では費用がかかり過ぎて不可能だ」と嘆く。北京大学の姚洋教授は中国メディアの取材に「地方で貧困から脱出した家族が、教育費の高騰により再び貧困家庭へと転落する可能性がある」と語った。

ただ、こうした政府の方針に冷めた視線を送る保護者も少なくない。教育熱心な家庭の多い上海市に住む主婦の韓さん(38)は「学校の試験が減っても受験競争がなくなることはない。学習塾を規制しても家庭教師をより多くの時間雇うだけだ」と話す。

韓さんは小学2年生の子供がいるが、学習塾や家庭教師代に年間約7万元(約120万円)払っている。上海市の20年の会社員の平均年収は12万元程度だ。中国では経済力がある家庭の子供ほど良い教育を受けられる傾向が鮮明となっている。政府がこうした教育格差をどこまで是正できるかは不透明な部分もある。

学生の負担軽減に向けた規制は、中長期的に人材の競争力をそぐ副作用もある。国際的な学力調査で北京や上海は世界トップの成績を誇り、こうした優秀な人材が中国経済の高速成長や旺盛な起業の土台になってきた。負担軽減策や思想教育が行き過ぎれば、人材の質にも響きかねない。

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池上彰
ジャーナリスト・東京工業大学特命教授
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分析・考察 この記事を読んで文化大革命時代を思いだしました。毛沢東の個人崇拝が進み、学校では、毛沢東の文章などをまとめた、赤い小さな本『毛沢東語録』さえ読めば、他の勉強はいらないという一大運動が繰り広げられました。今回は、英語より「習近平思想」。英語を通じて世界のことを知るより個人崇拝が大事。過去に戻りつつあるように思えます。

2021年8月13日 15:27いいね
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高井宏章
日本経済新聞社 編集委員

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ひとこと解説 一連の政策の根底にあるのは少子高齢化でしょう。
一人っ子政策を緩めても、高度な教育を求めて子どもの数を抑える流れを変えないと「効果」は上がらない。一方で富裕層・エリート層は海外留学などの恩恵を享受する。

個人崇拝による思想教育は階層の固定と1党支配の強化の一石二鳥を狙ったものでしょうが、どう考えても悪手です。

毛沢東の死去は1976年。文化大革命の惨禍を記憶する国民は多い。教育水準と社会階層の向上への欲求はすでに人為的に抑制するのは難しい。

それが分からないほど中国の支配層は愚かではないはずです。「それでもブレーキがかからないのはなぜか」という問いが、今の中国を見る大事な視点だと考えます。

2021年8月13日 12:49 (2021年8月13日 14:17更新)
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竹内薫
サイエンスライター

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別の視点 教育には多様性が必要で、受験オンリーの価値観で均一性が失われるのがまずいのだと思います。日本は、その均一化が極限まで達してしまっているので、ある意味、中国の「改革」がどのような方向に向い、どういった成果が出るのか、注目しています。個人的に、習思想の強化は余計だと思います。自分で考えて道を切り開くことのできる人材の育成につながるのか、単なる独裁的な規制で終わるのか…。

2021年8月13日 14:08いいね
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菅野幹雄
日本経済新聞社 ワシントン支局長・本社コメンテーター
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ひとこと解説 恐ろしい超大国です。習国家主席本人の発案なのでしょうか、それとも周辺の忖度による指導なのでしょうか。そこに興味があります。

真偽を確かめてはいませんが、中国共産党のトップの子息は大半が米国の名門大学に留学しているという話を聞いています。英語教育を制限することで過度な受験競争を是正するという説明が成り立つなら、前段の話は中国国民には届いていないということなのでしょうか。

制限があるとはいえ海外旅行すれば中国の統治の異様さに気づく機会は少なくないはず。コロナで移動がままならない隙をついて習思想の教育を強化しようということのようですが、若い人たちはこの強権主義をどう受け止めるのでしょうか。

2021年8月13日 11:41 (2021年8月13日 11:57更新)
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