基軸通貨、民主主義が必要条件

基軸通貨、民主主義が必要条件 アイケングリーン教授
通貨漂流ニクソン・ショック50年 私はこうみる④
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16EGE0W1A710C2000000/

『米国の相対的な力が落ちるなか、国際通貨秩序はこれからどう変化するのか。より多極化すると予測する米カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授に聞いた。

――ドル一極ではなくユーロや中国・人民元の重みが増すとみていますね。

「英ポンドが基軸通貨の時代は仏フラン、独マルクも重要な国際通貨だった。1920~30年代はドルとポンドがほぼ同等の重要性を持っていた。1945年以前はポンドだけ、それ以降はドルだけが重要な国際通貨というのは誤解だ」

「異なる通貨建ての価格を比べたり、通貨を交換したりするコストは低くなった。スマートフォンのような技術が進歩し、他の人と同じ通貨を使うほうが得になるネットワーク効果も過去ほど強くなくなった。通貨システムは一極体制が絶対ではない」

――人民元がドルに並び立つのですか。

「中国はまず資本規制を撤廃し、自国の政治体制が基軸通貨の地位にふさわしいかとの問いに答える必要がある。米、英、オランダ、イタリアのジェノバやベネチアなど歴史上、真の国際通貨は政治的な民主主義、権力の均衡と抑制を備えた国や共和制都市国家の通貨だった。中国共産党が無制限の権限を持つ限り、人々は資産の多くを上海で保有することに消極的だろう。10~20年で人民元が重要な国際通貨になるかは疑問だ」

「トランプ前政権でドルは究極のストレステストを受けた。米国が信頼できる同盟相手かどうか世界に疑問を投げかけた。次期米大統領選でトランプ氏のような人物が当選し、米国の政策が不安定で予測不能になり、防衛同盟が再び分裂すれば国際通貨秩序の変化の速度は加速する。そうでなければ変化はゆっくり進むだろう」

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――米国は財政・経常収支の赤字が拡大し、政府債務が膨み、インフレが加速しています。ニクソン・ショック前夜に似ていませんか。

「財政赤字と金融緩和はブレトンウッズ体制の崩壊と1970年代の高インフレの原因になった。今は物価が10%上昇したら米連邦準備理事会(FRB)は想定より早く利上げするので、ドルの信頼を失うような高インフレの期間は生じない。新型コロナウイルス危機にFRBはドル不足の国を支援し、ドルの使用を支え続けた」

「ニクソン・ショック当時、多くの人が国際通貨体制が根本的に変わると考えていたが、変化は予想よりはるかに小さかった。今後も劇的な変化は起きないだろう。もっと多極的なシステムになれば世界はより安全な金融の場になるが、そこに至る道のりは長い」

――中国はデジタル人民元発行を急いでいます。

「国際通貨体制のゲームチェンジャーにはならないだろう。中国人民銀行が保有者の金融ビジネスを観察できるようになる。外国人の匿名性や情報の安全性はどうなるのだろうか」

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――超国家的な合成通貨を基軸通貨にすべきだとの意見もあります。

「世界的な覇権を握る合成通貨の後ろ盾となる世界政府はない。グローバルな政府がない限り、グローバルな通貨は存在しない」

――2016年に国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)への人民元採用を実現した後、中国の人民元国際化の動きは鈍ったようにみえます。

「中国の一部の人々にとって人民元の国際化は資本取引を自由化し、国内金融改革を裏から進める方法だった。ただかえって株価の乱高下や不安定を招き、自国が素晴らしい国だと示す方法は他にもあると知ったのだろう」

(聞き手はワシントン=大越匡洋)

Barry Eichengreen 国際金融、経済史を専門とし、ドルの行く末を分析した「とてつもない特権」などの著書で知られる。52年生まれ 』