中国政府調達、国産を優先

中国政府調達、国産を優先 医療機器など315品目
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM072P00X00C21A8000000/

『【北京=多部田俊輔】中国が政府調達で外国製品の排除を進めていることが明らかになった。地方政府への内部通知で医療や海洋、地質調査などに使う機器315品目の購入で国産品を購入するよう指示を出した。製品を輸入する外資企業に中国国内での生産を促す狙いもあり、各社の中国事業に大きな影響を与えそうだ。

財政省と工業情報化省が「政府調達輸入製品審査指導標準」(2021年版)という内部文書を5月に各地方政府に通知したことが分かった。41分野の315品目が対象で、国産製品の調達比率を100%、75%、50%、25%の4段階で指導する内容だ。調達比率が金額ベースか製品の数量ベースかは不明だ。

中国政府によると、19年の政府調達の規模は3兆3000億元(約56兆円)で、地方政府が全体の9割強を占める。今回の通知で示した機器がどの程度を占めるのかは明らかになっていない。

関係者によると、今回の内部文書で明らかになった製品は、習近平(シー・ジンピン)指導部が最重視する国家の安全を左右する先端機器だ。分野別では医療が200品目近くで最も多い。国民の生命にかかわるため国産化が必要と判断したとみられる。具体的には、磁気共鳴画像装置(MRI)やX線機器、外科用内視鏡などが含まれる。

防衛上の理由から国産化を求める機器も多い。航空向けの通信設備に加え、海洋や海中の施設の状況を調査する機器、国土の地質や気象を調査したり、人工で地震を起こして調査をする機器、トンネルなど地下施設の状況を測定する機器なども列挙した。

今回明らかになった内部通知には「政府調達」と記載してあり、地方政府の直接的な設備や機器の購入が対象とみられる。地方政府が出資や経営に関与する国有企業や病院などにまで通知の効力が広がれば、外資企業に大きな影響が出るのは必至だ。

高度な医療機器では、米ゼネラル・エレクトリック(GE)傘下のGEヘルスケア、独シーメンス、オランダのフィリップスが「ビッグ3」とよばれる。日本勢ではキヤノンや富士フイルムホールディングス(HD)、オリンパスが大手だ。

調達条件を中国の国産製品としていることから、高度な医療機器の生産移転を促す狙いがあるとみられる。先端技術の詰まった基幹部品も含めた国内生産までを求めているかは明らかになっていないが、北京の外国企業団体は「技術が中国側に流出し、中長期の競争力で悪影響が出る恐れがあるため、慎重に検討してほしい」と話す。

中国政府は18年ごろからパソコンやサーバー、複合機などのIT(情報技術)機器について、「安可目録」や「信創目録」とよばれる推奨企業・製品リストを作成した。データ流出の防止など安全保障上の理由から、調達先を外資の出資比率が一定以下の企業や経営トップが中国国籍を持つといった条件に当てはまる企業に絞るようになったとされる。

「安可目録」なども正式には公表されておらず、一部の都市や国有企業が従っているとみられる。中国に進出する日系企業の集まりである中国日本商会は同リストを念頭に、安易に外資企業を排除しないように基準を明確にするよう中国政府に求めてきた。

習指導部は17年にネットの管理を強化する「インターネット安全法(サイバーセキュリティー法)」を施行し、データの国際的な活用を制限するなど国内外の企業への統制を強めている。今年9月にはデータの統制を強化する「データ安全法(データセキュリティー法)」を施行する。

中国政府は外資参入を歓迎すると表明しているが、現実には非公式な内部通知で外国製品の排除を進めている分野もある。先端の医療分野などは米企業も得意としており、米中対立の新たな火種になるとの見方もある。

中国は、内外企業の差別を禁じる世界貿易機関(WTO)の政府調達協定に加盟していない。中国は協定加盟を巡って協議をしているとするが、双方の主張に隔たりがあるもようで協議は難航している。

米国ではバイデン大統領が7月下旬、政府調達で自国製品を優遇する「バイ・アメリカン」法の運用を強化すると発表。将来的には国産品とみなす条件について、米国製部材の使用を段階的に金額ベースで75%まで引き上げることを求める規則案を公表した。

現地生産で技術流出懸念

米国ではバイデン大統領が7月下旬、政府調達で自国製品を優遇する「バイ・アメリカン」の強化を表明した。中国も同様の「バイ・チャイナ」を打ち出したことで、グローバル企業は事業への影響が避けられない。これまでは効率を重視してサプライチェーンをグローバルで最適化してきたが、現地への生産移管など再構築を迫られる。

今回、最も標的となったのは医療機器業界だ。高度な医療機器では米ゼネラル・エレクトリック(GE)、独シーメンス、オランダのフィリップスが「ビッグ3」と呼ばれる。日本勢ではキヤノン、富士フイルムホールディングス、オリンパス、テルモなどが大手だ。いずれも中国で高いシェアを持つ。

中国市場は高い成長が見込まれ、各社は中国事業に注力している。テルモはカテーテル(医療用細管)では「今後数年で中国が米国を抜いて最大市場になる」という。内視鏡を手がけるオリンパスの中国事業は年10%を超える売り上げ成長が続く。

中国が政府調達で自国製品を優遇することについて、キヤノンの医療機器子会社のキヤノンメディカルシステムズは「中国は重要市場。現状は日本からの輸出が中心だが生産の現地化についても今後の状況を見極め検討する」と話す。一方で中国へ生産移管する場合は米国向けに販売できなくなるリスクへの配慮も必要になるという。

UBS証券の小池幸弘氏は「現地生産の拡大で技術流出のリスクもあるが、重点商品を決めて生産すればシェアを伸ばせる可能性もある。各社の事業戦略の巧拙が問われる」と話す。

生産の現地化はかつて2国間の貿易不均衡が引き金となったが、現在は米中の覇権争いが根底にある。自由貿易のメリットを享受してきた企業にとって、広がる自国優先主義をいかに乗り越えるかが課題となる。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授

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分析・考察 アメリカが始めたデカプリングに対抗する形で、中国もサプライチェーンの対外依存を減らし、デカプリングに備えている。しかし、見方を変えれば、これはソフトな保護主義であり、競争力の弱い産業であっても、経済安全保障の下で保護し、優先的に調達するということを意味する。それが結果として中国産業の競争力強化に結びつくのか、それとも競争力を失わせることになるのか。どちらにしても、アメリカも同じ運命をたどることになるだろう。経済安全保障の長期的影響を考える段階に来ている。

2021年8月12日 10:09いいね
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梶原誠
日本経済新聞社 本社コメンテーター

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ひとこと解説 外国企業は厳しいビジネス環境を強いられます。そもそも中国は、重要な分野について外国からの依存を脱却することや、国内における自国企業の支配を進めることを目標に掲げています。記事にある通り、中国ビジネスを続けたい外国企業は中国内での製造圧力がかかりますし、その場合も中国内での商売では国内企業が優遇される恐れがあります。中国で指名買いしてもらえる「オンリーワン」の製品やサービスがなければ、中国市場に頼りすぎる企業は他国へのリスク分散が検討課題に浮上するでしょう。

2021年8月12日 8:15いいね
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