接種7割では集団免疫難しく

接種7割では集団免疫難しく デルタ型で目安8割超に
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『新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)の広がりで、ワクチンによる集団免疫の獲得が遠のいている。従来型ウイルスでは人口の6~7割の接種が目安とされたが、デルタ型は8~9割に上がった公算が大きい。接種率を最大限に上げる努力を続けつつ、コロナとの共存も視野に入れた出口戦略が必要になる。

「国民の70%が接種しても、恐らく残りの30%が防護されることにはならない」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は7月29日、こう述べた。実際、人口の6~7割が2回接種したイスラエルやアイスランドでもデルタ型の感染者が増えている。

日本政府によると国内で9日までに2回接種した人の割合は34%。月内の4割到達をめざす。
集団免疫とは免疫を持つ人が一定以上の割合になって感染の連鎖が起きにくくなり、流行が収束していく状態。無防備な集団で感染者1人が何人にうつすかを示す基本再生産数から、集団免疫に必要な接種率の目安(しきい値)をはじける。

仮に集団免疫が達成できなくても、接種率を高める意義は大きい。入院や死亡を防ぐワクチンの効果はデルタ型でも90%以上と高い。完全ではないが感染を減らす効果も確認されている。

達成が難しくなった最大の理由はデルタ型の感染力の強さだ。その基本再生産数を英インペリアル・カレッジ・ロンドンは5~8程度、米疾病対策センター(CDC)は5~9程度と推定する。

おたふく風邪(基本再生産数4~7)や風疹(同5~7)並みか、水ぼうそう(水痘、同8~10)に近い。5と仮定するとしきい値は80%、6なら83%に上がる。英国の有力医学誌ランセットの呼吸器内科専門誌も、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のマーティン・ヒバード教授の「基本再生産数が6~7であれば集団免疫のしきい値は85%程度」との見解を報じた。

従来型ウイルスの基本再生産数は2.5~3程度と推定されていた。2.5ならしきい値は人口の60%、3なら67%となる。これが集団免疫を獲得できる接種率の目安が「人口の6~7割」とされてきた根拠だった。

デルタ型に対してはワクチンの効果が下がる性質も影響する。イスラエルや英スコットランドでの調査によると、感染予防効果は米ファイザー製ワクチンの2回接種後で「64~79%」と英国型(アルファ型)の「90%以上」より低い。接種から時間がたつと感染や発症を防ぐ効果が下がる可能性も指摘されている。

京都大学の古瀬祐気特定准教授(感染症学)は「8割でコロナを撲滅できると思っていたが、ゴールが変わった」と指摘。逆に「6~7割の接種率では、緊急事態宣言が出る世の中が続いてしまう」と警鐘を鳴らす。

日本ではファイザーや米モデルナのワクチンの接種対象年齢は12歳以上。接種率8割を達成するには、12歳以上の9割近くに接種しなくてはならない。これに近い水準まで接種が進められれば、コロナの流行を小規模で散発的なものに抑えられる可能性があるが、ハードルは高い。

国立国際医療研究センターの氏家無限・予防接種支援センター長は「接種率を高めるのは難しい。ワクチン接種で先行する米国でも完了した人は18歳以上の6割にすぎない。接種を忌避する人にどう働きかけるかが政府など関係者の課題になる」と話す。

国全体の接種率だけでなく、年齢別や地域ごとの接種や感染・入院などの状況を分析し、接種の促進策を練ることが重要になる。東京大学の稲葉寿教授(数理人口学)は「流行の中心に優先的に接種することは有効」と指摘。活動範囲が広くて接触の機会も多い若年層や「3密」の環境で働く人らが想定される。

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