中国論文、質でも米抜き首位

中国論文、質でも米抜き首位 自然科学8分野中の5分野
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05A1O0V00C21A8000000/

『自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。文部科学省の研究所が10日、最新の報告書を公表した。研究者による引用回数が上位10%に入る「注目論文」の数で初めて米国を抜いた。分野別でも8分野中、材料科学や化学、工学など5分野で首位に立った。学術研究競争で中国が米国に肩を並べつつあり、産業競争力の逆転も現実味を帯びてきた。

科学論文の数は国の研究開発の活発さを測る基本的な指標だ。文科省科学技術・学術政策研究所が英調査会社クラリベイトのデータを基に主要国の論文数などを3年平均で算出・分析した。中国が学術研究の量だけでなく、質の面でも実力をつけている姿が鮮明だ。

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注目論文の本数を調べたところ、中国は2018年(17~19年の平均)に4万219本となり、米国の3万7124本を抜き首位になった。米国も08年に比べて3%増えたが、中国は約5.1倍と急増。シェアは中国が24.8%、米国が22.9%と、3位の英国(5.4%)を引き離した。

注目論文のうち上位1%に当たる「トップ論文」でも、中国のシェアは25%と米国の27.2%に肉薄した。文科省科学技術・学術政策研究所の担当者は今後について「中国のいまの勢いは米国を追い抜く様相を見せている」と指摘する。

注目論文の世界シェアを分野ごとにみると、材料科学で中国は48.4%と米国(14.6%)を大きく引き離した。化学が39.1%(同14.3%)、工学は37.3%(同10.9%)などと計5分野で首位となった。

米国は臨床医学(34.5%)や基礎生命科学(26.9%)で首位となった。バイオ分野で強さが目立つものの、産業競争力に直結する分野で中国が強さを示した。

全体の論文数では昨年の集計に引き続き中国が首位になり、米国を上回った。中国は35万3174本、米国が28万5717本で、その差を20年調査時の約2万本から約7万本に広げた。

一方、日本は論文の質・量ともに順位が低下し、科学技術力の足腰の弱さが浮き彫りになった。注目論文のシェアではインドに抜かれ、前年の9位から10位と初めて2ケタ台に後退した。トップ論文のシェアも9位と前年から横ばいだった。10年前と比べた減少率はともに10~15%と大きく、論文の質が相対的に下がっている。

日本の全体の論文数は6万5742本と米中の20%前後の水準にとどまった。米中のほか韓国、ドイツ、フランス、英国などは10年前と比べ増えているが、日本は横ばいにとどまる。長期化する研究力低下に歯止めをかけるのに「特効薬」はなく、衰退を食い止めるのは難しい。

科学論文の量や質を左右するのは資金力だけではない。中国が量と質をともに高めている背景には、圧倒的な研究人材の厚さと伸びがある。世界一を誇る研究者数を年々増やしている。一方、中国・米国に続いて3位の日本は横ばい水準で伸び悩む。

中国の19年時点の研究者数は210万9000人と世界首位だ。前年から13%増と高水準で伸びた。日本は68万2000人(20年時点)と中国・米国に続く3位だが、増加率は0.5%にとどまる。

研究人材の育成で日本は中国以外の国にも大きく出遅れている。文科省科学技術・学術政策研究所によると、日本で大学院の博士号を取得した人数は06年度をピークに減少傾向だ。米中や韓国、英国では15~20年前に比べて2倍超の水準で伸びている。ドイツやフランスは横ばい水準だ。

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授

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ひとこと解説 自然科学分野の論文の注目度の高さを示す指標で中国が初めて世界一になった。世界一になった理由として、一般には研究開発費の増加が指摘されている。なかでも大学に配分される科研費は文系、理系を問わず、潤沢である。研究者の人数が多いことも一因であるが、その多くは欧米で教育を受けた研究者であることは忘れてはならない。さらに、中国の論文を網羅した学術データベースの存在も中国の論文の引用回数の底上げに貢献した。国際競争力を目指すには、科研費の充実をはじめとした日本政府の政策支援が求められる。

2021年8月10日 19:33 (2021年8月10日 20:14更新)
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竹内薫
サイエンスライター

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分析・考察 主にアメリカと中国の科学技術力の逆転現象を扱った記事です。中国は指導部の理系色が強く、国家戦略として科学技術に力を入れています。第四次産業革命のトップに立とう、という確固たる意思が見て取れます。とはいえ、アメリカにもクリエイティブな人材と多様性という強い武器があり、今後の両者の対決がどうなるのか、予断を許しません。で、記事の趣旨とは少しはずれるとして、一つだけはっきりしているのが日本の長期低落傾向です。「日本は科学技術力の足腰の弱まりが浮き彫りになった。日本の論文は質・量ともに低下している。」残念ながら、日本の科学技術力が落ち続けているという、科学的な分析結果です(ため息)

2021年8月10日 19:12いいね
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赤川省吾
日本経済新聞社 欧州総局編集委員

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別の視点 日本が得意としてきた自然科学ですら苦戦。もともと苦手な社会科学を考慮すれば、全体的な水準はさらに厳しい状況にあるといえます。

もっとも凋落の原因は大学の研究体制だけにあるのではありません。企業の人事・採用制度を含めたガラパゴス化が苦境を招いているのではないでしょうか。例えば企業は…

1)学校歴を重んじ、学歴は「学士で十分」と認識
2)ローテーションを重んじ、専門知識を軽んじる
3)入社年次で人事管理。大学院修了のメリットが小さい

日本は社会人教育(生涯学習)でも出遅れ。年功序列・滅私奉公の気風を排し、意欲のある学生・社会人の皆さんが大学院で学べる社会にしていくことが必要だと思います。

2021年8月10日 19:20いいね
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