ヨーロッパ “想定外”の洪水被害

ヨーロッパ “想定外”の洪水被害 その実態は?原因は?
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210803/k10013177551000.html?utm_int=news_contents_netnewsup_008

『7月中旬にドイツとベルギーを中心に起きた洪水被害。

死者数はこれまでに200人を超え、市民生活への深刻な影響がいまも続くなど、未曽有の被害が出ています。

その実態は?原因は?

ベルリン支局の山口芳支局長に話を聞きました。

Q なにが起きたの?
7月14日から15日にかけてヨーロッパ各地で大雨による洪水が発生しました。

特に被害が大きかったのは、ドイツ西部ラインラント・プファルツ州のアールワイラー郡です。

ヨーロッパを縦断するドイツの「父なる川」、ライン川の支流アール川があふれて流域の家屋が倒壊したり浸水したりしました。

7月29日現在、134人が亡くなり、行方不明者は69人に上っています。

ノルトライン・ウェストファーレン州では47人が死亡。

さらに隣国ベルギーでも38人が死亡、1人が行方不明になっています。

Q 被災地の様子は?

7月17日、NHKの取材班はアールワイラー郡に入りました。

川沿いの道路や鉄道は地盤がえぐられて崩れ落ち、線路は浮いた状態に。

橋脚が折れている橋もあり、当時の水の流れの激しさがうかがえました。

中世の趣を残す商店街は石畳の道が一面泥に覆われ、多くの店が2メートルほどの高さまで水につかったそうです。

現地では片づけ作業が始まっていましたが、泥をかぶった商品は売り物にならず、店主のひとりは「40年以上ここで店を続けてきましたが、もう営業の再開は無理です」と疲れた様子で話していました。

Q 暮らしにはどんな影響が?

被災地では広い範囲で電気やガス、水道が止まったほか、通信インフラも被害を受けて携帯電話が不通となりました。

依然として復旧作業が続けられるなど、市民生活に大きな支障が出ています。
公共交通機関への影響も甚大です。

鉄道は土砂の崩落などで600キロにわたって線路に被害がでたほか、多くの駅や50か所以上の橋が被災しました。

鉄道事業者によりますと被害総額はおよそ13億ユーロ、日本円にしておよそ1700億円に上るといいます。

また、ノルトライン・ウェストファーレン州では135の学校で校舎が被害を受け、夏休み明けの8月下旬に通常どおり授業が再開できない学校が出てくる可能性も指摘されています。

被災地の子どもたちの心のケアも大きな課題となっています。

Q 洪水が起きた原因は?

直接の原因は集中豪雨です。

アール川の流域では1日だけで、7月の平年の1か月分の雨量を超えました。

洪水が起きる3週間前から断続的に雨が降った影響で、土壌の水分量が増したところに集中豪雨が重なり、山あいを流れるアール川に、土壌で吸収しきれなかった大量の水も流れ込んだことから、川の水位が急上昇したとみられています。

Q 被害が広がった理由は?

地元メディアは、住民たちに、事前に災害の危険性が十分伝わっていなかったのではないかという見方を伝えています。

それぞれの被災地では「自分が住む地域では警報が出ていなかった」とか「大雨の警報は出されていたが、まさか洪水が起きるとは思わなかった」といった声が聞かれます。

これについて、地理学が専門で災害対応に詳しい、ボン大学のロタール・シュロット教授は次のように指摘しています。

ボン大学 ロタール・シュロット教授

「警報が出された地域でも、すぐに自宅を離れて避難する必要があるといった、具体的な行動を、切迫感をもって伝えていなかったことが大きな問題だ」

Q 気候変動も要因としてあげられるの?

被災地を視察したメルケル首相

今回の洪水との直接の因果関係は、今のところ分かっていません。

ただ、18日に被災地を訪れたドイツのメルケル首相は「科学を信じるならば、気候変動との関連がある」と述べました。

また、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長も、気候変動が影響しているという見方を示しています。

北欧フィンランドの首都ヘルシンキでは、6月の平均気温が史上最高を観測するなど、ヨーロッパ各地は熱波にも見舞われています。

ヨーロッパの人々の間では気候変動に対する危機感が一層強まっていて、ドイツでは気候変動対策が9月に行われる連邦議会選挙でも重要な争点となりそうです。
Q 選挙にはどんな影響があるの? 
およそ16年にわたってドイツを率いてきたメルケル首相の後任が決まる重要な選挙で、ラシェット氏が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」をベアボック氏が率いる野党「緑の党」が追う展開となっています。

7月28日に発表された世論調査では、与党の支持率が26%だったのに対して「緑の党」は21%と差が縮まっています。

「緑の党」はこれまでも気候変動対策の強化を訴えてきただけに、今回の洪水被害をきっかけに選挙に向けて支持を広げていく可能性もあります。

行方不明者の捜索や復旧が急がれる一方で、ドイツの政府与党にとっては、防災・減災への取り組みや気候変動対策が喫緊の課題になっています。』