EVが崩す「自動車ピラミッド」

EVが崩す「自動車ピラミッド」 部品産業、雇用1割減も
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『ホンダが電気自動車(EV)への移行を見据えて2000人超の社員を早期退職で減らす。EVシフトでは複雑な加工が必要となるエンジンなどが不要になって部品数が半減する。国内の車部品メーカーで働く約70万人のうち、1割の雇用がなくなるとの試算もある。日本の製造業出荷額の2割を占める基幹産業に「脱炭素」の大波が構造変化を迫る。

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栃木県真岡市。ここにEVシフトによる産業構造の移り変わりを象徴する工場がある。エンジン部品やガソリン車の駆動部品を生産するホンダのパワートレインユニット製造部だ。
6月4日、2025年の閉鎖が発表された。約900人の従業員は他の拠点へ配置転換する。ホンダは4月に40年にガソリン車を全廃して新車をすべてEVなどにする方針を打ち出した。同工場の閉鎖も電動化でエンジン部品の生産量が減少することなどが背景にある。

EV化を見据えて今春に募った55歳以上の社員を対象とする早期退職には2000人超が応募した。国内の正社員の約5%に当たる規模だ。

崩れる自動車ピラミッド

ガソリン車で3万点ある部品数はEVになると4~5割減るとされる。中でも車の最重要部品であるエンジンがなくなる影響が大きい。

世界の大手自動車メーカーはこれまで一貫してエンジンを自社で開発、生産して乗用車に搭載してきた。車大手が関連部品を生産する多数のメーカーを束ねて産業ピラミッドをつくり、利益を部品会社と囲い込むことで競争力を維持してきた。東京商工リサーチによると、自動車メーカーに直接部品を納入する国内の一次取引先は7500社、一次に部品を納める二次取引先は1万5000社に達する。

EVの駆動部品はモーターやインバーター、それらを一体化した「eアクスル」などの駆動装置に置き換わる。いずれも構造はエンジンよりも単純だ。車メーカーが部品会社を囲い込む巨大な産業ピラミッドの重要性は薄れ、異業種からの参入障壁も大幅に下がる。新規参入組を含む「自動車メーカー」は車の設計やデザイン、ソフトウエアなどの開発に専念し、生産は別の企業に任せるデジタル家電と同様の「水平分業」モデルが広がる可能性がある。

電子機器の受託生産世界最大手の台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業はEVの受託生産を始めることを決めた。鴻海に委託すれば、工場を設けて生産設備を持たなくても自社ブランドのEVが容易に造れるようになる。スズキの鈴木修前会長は水平分業が進むと「既存の産業ピラミッドは崩れ去る」と語る。

雇用1割減も

EVへの移行で懸念が大きいのが雇用への影響だ。コンサルティング会社のアーサー・ディ・リトル・ジャパンによると、国内で68万6000人の自動車部品に関連する雇用のうち、EV化で50年までに8万4000人の従業員が減る可能性がある。エンジン関連などの基幹部品ほど国内で生産している企業が多く、雇用への影響が大きくなる。

エンジンがなくなることで雇用が減る

日本と並ぶ自動車大国のドイツでは早くもEVシフトで雇用が減り始めた。独Ifo経済研究所は5月、EVシフトが進むと、30年までに少なくとも同国で21万5000人の雇用に影響が出るとの調査をまとめた。内燃機関にかかわる雇用は19年に61万3000人だったとし、約4割に影響が及ぶことになる。

独ボッシュのフォルクマル・デナー社長は「エンジンの燃料噴射装置の生産に10人が必要だった。モーターは1人だ」と話す。同国の車大手ではフォルクスワーゲン(VW)やダイムラーなどがすでにEVへの移行を見越して工場従業員の整理を決めた。

EV市場の拡大を見込み素材価格が上昇している

素材価格は高騰

EV化はサプライチェーン(供給網)の上流にある原材料の価格にも影響を及ぼす。電池の材料に使う希少金属(レアメタル)の「リチウム」は、最大輸入国である中国で炭酸リチウムの取引価格が4月に9万元と2年半ぶりの高値を付けた。

モーターなどに使う銅もEV向けの需要などを見込んだ投機マネーが流入し、指標となるロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物価格が5月、10年ぶりに最高値を更新した。モーター用磁石などに使われる希土類(レアアース)の「ネオジム」の国際価格も高い。国際エネルギー機関(IEA)の予測ではEV関連のネオジムの需要は40年に20年の6倍になる。

リチウムや銅などは家電などにも幅広く使われている。EVへの移行が生活に欠かせない様々な家電製品の価格を引き上げる可能性もある。

(山田遼太郎、阿部晃太朗)』