英仏独、南シナ海に空母・原潜派遣

英仏独、南シナ海に空母・原潜派遣 対中国で米と歩調
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『【シドニー=松本史、ロンドン=中島裕介】英国やフランスが今年に入り、中国が実効支配を強める南シナ海に空母など軍艦を相次ぎ派遣している。中国の軍事拠点化の阻止を目指すバイデン米政権と歩調を合わせる狙い。中国がこうした動きに反発の姿勢を強めるなか、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は緊張の高まりを懸念する。

英海軍の空母クイーン・エリザベスを中核とする空母打撃群は5月に英国を出発、7月中旬にインド洋に到着しインド海軍などと共同訓練を行った。その後、7月最終週に南シナ海に入り数日かけて同海域を航行後、8月1日ごろに台湾の南のルソン海峡を経由してフィリピン海に到達したもようだ。

フィリピン海では米国や日本、オーストラリア、フランス、韓国、ニュージーランドの空軍や海軍と大規模な合同演習を実施する。日本の防衛省関係者は「英空母を交えた訓練は異例だ」とこの合同演習の重要さを強調する。打撃群は9月には日本に到着する予定だ。

フランスも5月末、攻撃艦とフリゲート艦1隻に中国が軍事拠点化を進める南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺を航行させた。年初にすでに攻撃型原子力潜水艦を南シナ海に派遣しており、月内に仏空軍の戦闘機や輸送機がオーストラリアからインドまでに至る東南アジアの空域で大規模な訓練を実施する。ドイツも2日に230人を乗せたフリゲート艦「バイエルン」が独北西部からインド太平洋地域に向けて出発。独外務省は同艦が南シナ海を横断することを明らかにした。

英国のウォレス国防相は一連の訓練に関して「パートナーとの協力で民主主義的価値を守り、共通の脅威に取り組むことに尽力している」と語る。英仏は日米と共に、中国の南シナ海についての主張と活動は国連海洋法条約違反であるとの立場を示している。南シナ海のすぐ東に位置するフィリピン海での一連の演習もこれに沿った軍事行動と位置づけられる。

とはいえ、欧州諸国のアジアでの戦力は強大とはいえない。英国防省の統計によれば、中東を除くアジアやオセアニア地域に配置された英軍の兵力はブルネイを中心に約340人。英軍全体の0.2%ほどで、在外兵力に限っても6%ほどにとどまる。

地理的に遠く、直接的な利害を有さないようにみえる南シナ海の紛争に英仏がここにきて関与度を高めようとしている背景には、経済成長が著しいアジア太平洋での存在感が今後の自国の国際的な地位に大きく影響するとの認識がある。

アジア最大の経済大国は中国で、地域の成長を取り込む上でも対中政策は極めて重要だ。英仏は戦力は限られていても、国連安全保障理事会の常任理事国としての影響力も合わせれば、中国に対する外交的な立場を強化できるとみているようだ。それは中国との経済面での交渉にも役立つカードになる。

実際、中国は英仏の動きに神経をとがらせている。共産党系メディアの環球時報(英語版)は7月29日、クイーン・エリザベスの打撃群が南シナ海に入ったことを受けて「英国が地域で存在感を示そうとする努力だ」と指摘し「中国は南シナ海で軍備を増強してきた。極端な軍事衝突の際にこうした空母は非常に脆弱になる」などと威嚇した。中国人民解放軍は6~10日に南シナ海で軍事訓練を実施する。

ASEAN各国の立場は複雑だ。インドネシア国軍関係者は欧州各国の相次ぐ軍艦派遣について「世界各国から南シナ海に軍艦が集まることは中国に同海域が中国のものではないことを示す対応だ」と好意的に受けとめる。一方で「米国も欧州も中国を過度に刺激する行動は慎むべきだ」ともクギを刺した。インドネシアを含め東南アジア諸国の多くは中国との経済的結びつきを強め、新型コロナウイルスのワクチンも依存している。

英仏にとってアジアへの進出は、19世紀に世界各地に海外領土を持って影響力を広げていた「帝国」としての復活を国民に想起させ、国威発揚を図る意味合いも持つ。

英国のジョンソン政権は欧州連合(EU)離脱の効果をアピールするうえでアジアシフトを重視しており、すでに環太平洋経済連携協定(TPP)入りへの本格的な交渉に入っている。南シナ海問題に関与すれば、中国と対立するフィリピンやベトナムなどとの信頼関係を強化できるとの計算もある。

英国際戦略研究所(IISS)のニック・チャイルズ上級フェローは英仏などの欧州諸国の動きについて「経済的な世界の中心がインド太平洋地域に移っていることの表れだが、国によってアプローチは若干異なる」と指摘する。

例えばドイツは最大の貿易相手の中国との決定的な対立は避けたい考えだ。今回の艦船の派遣の目的を「インド太平洋地域の国際秩序の維持」としつつも中国へも寄港したい意向を示す。米国の対中姿勢とは一線を画しており、フィリピン海での大規模演習にも参加しない予定だ。

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