米、ワクチンで中国に対抗 東南アジアへ供給拡大

米、ワクチンで中国に対抗 東南アジアへ供給拡大
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0428V0U1A800C2000000/

『【ワシントン=永沢毅、ジャカルタ=地曳航也】米国は新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)が猛威を振るう東南アジア諸国連合(ASEAN)各国にワクチンの供給を拡大する。地域では中国製のワクチンが広く普及しているが、効果に対する不安も広がっている。デルタ型に対しても比較的高いとされる欧米製の有効性をテコに、中国のワクチン外交に対抗する戦略だ。

ブリンケン米国務長官は4日のASEANとのオンラインによる外相会合で、バイデン政権としてASEANへのワクチン支援を加速する考えを示した。地域には計2400万回分を供与済み。これに加え、米国として世界に提供を約束している5億回分の一部をASEAN加盟国に振り向ける方針だ。

意識するのは中国だ。米国務省高官は「コロナとの戦いで(ASEANの)信頼できるパートナーになりたい。私たちは無料でワクチンを提供し、見返りを期待していない」と話した。

中国は東南アジアでの影響力を高める戦略の一環として、ASEAN各国に積極的にワクチンを提供してきた。王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は3日のASEANとの外相会合でこれまでに地域に1億9000万回分以上のワクチンを提供したと述べ、実績を強調した。人口規模が大きいインドネシアやフィリピンでは国内調達済みの半数超が中国製だ。

ASEAN各国は、接種を完了した人の割合が相対的に低く、中国製のワクチンの効果を示す明確なデータはない。ただ、ここに来て効果を不安視する人も増えている。

インドネシアの医師団体によると、同国ではワクチンの国民接種が始まった1月から7月27日までの間、医師348人が新型コロナにより死亡した。国内調達済みのワクチンの8割超を中国科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製が占め、医師の大半が接種を受けていただけに、中国製の有効性を巡る不安感が広がった。

中国製ワクチンが5割を占めるタイでも、保健省が4月から7月10日の間にシノバック製の接種を完了した医療従事者のうち618人がコロナに感染したとのデータを公表した。その中には死者や重篤者も含まれる。

インドネシア政府は7月からワクチン接種を済ませた医療従事者に米モデルナ製のワクチンを追加接種する措置を始めた。マレーシア政府は7月に予定していたシノバック製の調達を終え次第、米ファイザーや英アストラゼネカ製の確保を急ぐ方針を決めた。

タイでは医学会で追加接種の必要性の議論が始まった。ASEAN内の指導者でも特に中国寄りとされるカンボジアのフン・セン首相もアストラゼネカ製を接種した。接種完了率が高い英国やイスラエルでは、ファイザー製やアストラゼネカ製はデルタ型にも有効とのデータがあり、ASEAN各国も欧米製に期待を寄せる。

インドネシアのルトノ外相は今週、ワシントンを訪れ、コロナ対応の支援を引き出すためホワイトハウス高官や製薬関連企業幹部との会談を重ねている。2日には製薬大手のイーライ・リリーや、バイオ企業アークトゥルス・セラピューティクスの幹部と会談したと自身のツイッターで明らかにした。

中国もワクチンの質で逆風に立たされていることを意識している。シノバックの広報担当者は7月下旬、マレーシアの国営ベルナマ通信の取材に同社製ワクチンは重症化を防ぐなどの点で変異ウイルスにも有効だとの見解を示した。一方、追加接種に対応するため、デルタ型への効果がさらに高い製品の開発を進めていると表明した。

中国は6月時点で21種類の新たなワクチンの臨床試験を実施している。王氏は3日のASEANとの外相会合で地域へのワクチン支援を継続する考えを示したうえで、巻き返しを狙う米国を念頭に「科学上の課題の政治化に断固反対する」と訴えた。』