EV電池の中国CATL、納入先の自動車メーカーが競合に

EV電池の中国CATL、納入先の自動車メーカーが競合に
秦野貫
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC212A60R20C21A7000000/

『2011年の創業からわずか6年で電気自動車(EV)向け電池のシェア世界一となった中国・寧徳時代新能源科技(CATL)。世界的な脱炭素の追い風を受けるとの評価から、時価総額は直近で20兆円を超えた。だが、EVに欠かせない電池は自動車メーカーの内製化などの動きもあり、積極的な設備投資がもくろみ通りの成長につながらない懸念も浮上している。

CATLは11年、TDKの電池子会社から独立して発足した。供給先を当初の地場メーカーから独フォルクスワーゲン(VW)や米テスラなど海外に拡大し、17年にEV向けリチウムイオン電池のシェアでパナソニックから世界首位を奪取。韓国調査会社のSNEリサーチによると、20年の出荷容量シェアは26%に達する。

18年に上場し、足元の時価総額は1兆2800億元(約21兆7000億円)と、上場後3年で約10倍になった。車載電池で競合するLG化学(62兆ウォン=約5兆9000億円)やパナソニック(3兆2000億円)を大きく引き離す。「CATLは今後10年間世界のリチウムイオン電池市場で圧倒的な地位を維持するだろう」。大和証券キャピタル・マーケッツ香港のケルヴィン・ラウ氏はこう指摘する。

世界的に脱炭素政策が急速に進み、自動車メーカーは一斉にEV化に舵を切った。当然CATLには喜ばしい変化だが、必ずしも先行きは万全とは言い切れない。収益性を示す指標の低下が目につくようになってきたためだ。特に低下が目立つのは総資産利益率(ROA)で、QUICK・ファクトセットによると前期は4.3%と3年で約5ポイント下がった。

ROAは工場や現金といった資産でどの程度稼げているかを示し、総資産回転率と売上高純利益率の積に分解できる。CATLの場合、売上高純利益率は直近3年間は11%前後でほぼ横ばいで、3年前の19%からほぼ半減した。加えて総資産回転率は悪化傾向にある。

ROAの分母となる総資産は前期末に1566億元と3年前から3倍に増えた。うち43%は現預金が占め、工場などの有形固定資産も196億元と3年で2.3倍に拡大している。現金の使途はさらなる増産投資だ。

現状ではEVに対して電池供給は大きく不足している。CATLは中国で10カ所超の工場の新増設を計画しているほか、21年にはドイツで初の海外工場の稼働を予定する。20年から今年にかけて公表した投資額は1000億元規模にのぼる。大和証券によると、生産能力は23年に20年比約5倍の349ギガワット時まで増える見通し。

だが、こうした巨額の設備投資がシェアの拡大や利益率の向上につながるかは不透明だ。QUICK・ファクトセットによると前期の粗利率は25.4%で、この3年で約8ポイント低下。20年末時点の生産能力は年間69.1ギガワット時と1年で3割増え、20年12月期の減価償却費は45億7679万元と前の期から11%増えた。

増産投資が利益を圧迫することに加え、販売価格は下落している。電池の容量1ギガワット時あたりの売上高は前期に8億4100万元と前の期から11%下がった。背景には競争激化のほか中国政府の補助金縮小がある。中国はEVなどへの補助金を段階的に減らしており、納入先の自動車メーカーから値下げ圧力が強まっている。

足元ではリチウムやコバルトなど原材料価格の高騰も重しとなっている。モルガン・スタンレー・アジアのジャック・ルー氏は「21年4~6月期は車載電池事業の粗利率が前四半期比2ポイント程度下がった」とみる。

EVシフトに伴い、自動車メーカーはEV製造コストの3~5割を占め、価格競争力に直結する電池の自社生産に乗り出している。主要顧客のVWは3月、30年までにEV500万台分に相当する規模の生産能力を整えると公表した。

VWは内製化のほか、出資するスウェーデンのノースボルトから供給を受ける。伊藤忠総研の深尾三四郎上席主任研究員は「ノースボルトは30年に市場シェア25%を目指している。欧州の厳しい規制をクリアするための『国策』に近い会社で、CATLにとっては大きな脅威だ」と指摘する。リチウムイオン電池は汎用品化のリスクも抱える。

こうした状況を乗り切るための次の戦略は何か。豊富な資金を生かした同業やカーメーカーのM&A(合併・買収)や一段のシェア拡大で価格競争力を握ったり、8割を占める車載電池以外の収益源の確保などをすすめたりするほか、伊藤忠総研の深尾氏は「環境に配慮したリユースやリサイクル対応も重要」と指摘する。

深尾氏はCATLが29日に発表したナトリウムイオン電池にも注目する。有限な資源のリチウムに比べてほぼ無尽蔵にあるナトリウムを原料とするため、今後を占う上で重要になる。
(秦野貫)』