[FT]西バルカン3国が自由経済圏構想

[FT]西バルカン3国が自由経済圏構想 EUにいら立ち
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『セルビア、アルバニア、北マケドニアの首脳は欧州連合(EU)加盟に向けたプロセスが遅々として進まないとEUを批判し、EU加盟承認を待っている間にヒト、モノ、カネの自由な移動を保障する自由経済圏をバルカン地域に立ち上げると表明した。

セルビアのブチッチ大統領㊧、北マケドニアのザエフ首相㊥とアルバニアのラマ首相は、EU加盟のプロセスの遅れを批判する=ロイター

セルビアのブチッチ大統領はインタビューで「EUに拡大疲れがあるのはわかっている」としたうえで「我々単独で何ができるか、国民のために何ができるか、どうすれば市場を拡大できるかを検討しなければならない」と述べた。

EUは約束を果たしていない
北マケドニアのザエフ首相は「EUは約束を果たしていない」といら立ちをあらわにし、「市民が具体的な恩恵を得られるように政策に弾みをつけなければならない」と付け加えた。

再選を果たしたばかりの アルバニアのラマ首相は、EUとの加盟交渉プロセスは劇作家サミュエル・ベケットの実存主義的な戯曲「ゴドーを待ちながら」のようだと述べた。この作品では、2人の登場人物が不条理な会話をかわしながら、現れることのないゴドーという人物を待っている。

3カ国の計画は域内の自由な移動を保障するEUのシェンゲン協定をモデルとする「ミニ・シェンゲン協定」であり、29日に正式に公表される。具体的には、人の移動に関する規制の段階的緩和、通関手続きを迅速に行う「グリーンレーン」 の導入、貨物輸送の待ち時間短縮、就労許可を受けやすくする施策が盛り込まれる。

ブチッチ大統領によると、この構想はうまくいけば年内にも実現する運びとなる。最終的にはモンテネグロとボスニア・ヘルツェゴビナも対象地域に入る見通しだが、独立をめぐって論争が続くコソボが入るかどうかは不透明だ。

1991年のユーゴスラビア崩壊後、バルカン地域では民族や宗教をめぐる紛争が続き、経済発展が遅れている。ブチッチ大統領は、もうEUの加盟承認を待ってはいられないと述べた。

3カ国がEU加盟の承認を得るには選挙制度や司法、経済などの面で大幅な改革が必要だが、3カ国は正式承認までの手続きが煩雑になりすぎたとみる。ブチッチ大統領は親EU路線を掲げて権力の座についたが、アルバニア、北マケドニアと同様、EUに対するいら立ちを募らせるようになっている。

バルカン諸国のあり方を変える
ブチッチ大統領は、ミニ・シェンゲン協定の狙いは域内外でのバルカン諸国のあり方を変えることだと主張する。域内では民族間の対立を和らげ、域外に対してはEU加盟と域内への投資促進を求めるためだとして、「所得が増えれば、人々は生活が向上すると考えて過去にとらわれなくなる」と説明した。

北マケドニアはEU加盟国ギリシャの警戒感を和らげるために19年に国名を変更し、20年に北大西洋条約機構(NATO)加盟を果たしたが、EUはまだ同国との加盟交渉を開始していない。ザエフ首相はバルカン諸国が「置き去りにされている」とEUを非難している。

ザエフ首相は「最終目標はEU加盟だが、EUが承認するまで我々は、欧州化に向けて歩み続けるために方策を探らなければならない」と述べた。

アルバニアのラマ首相は、他のバルカン諸国の「先例を踏襲することもなく、EUのように全てにおいてコンセンサスを求め1カ国でも拒否権を発動すれば何も決まらないという膠着状態に陥ることもなく」構想は進んでいると述べた。

EU加盟に向けた改革の進捗状況を評価する欧州委員会は、単一市場の原則を反映させ、EUのルールと基準を適用すると表明している。そのうえで、西バルカンの全6カ国をEUの共通市場に迎えるためのあらゆる努力を支援する考えを明らかにしている。欧州委の報道官は「最終的な目標はEU加盟であり、それは変わらない」と述べた。

先延ばしにされたEU加盟交渉
EU加盟交渉の遅れについて欧州委は、アルバニアと北マケドニアとの交渉開始に向けて加盟各国に「できるだけ速やかな」対応を求めているという。両国は20年に加盟交渉に入る予定だったが、ブルガリアの反対を受けて交渉はまだ始まっていない。

たとえ交渉に入ったとしても、EU主要国は拡大路線に消極的だ。特にバルカン諸国のEU加盟を支持してきたドイツのメルケル首相が9月の連邦議会選(総選挙)後に引退するとあって、EU拡大路線に対する政治的な推進力は弱くなる。

3カ国の首脳はEUの判断を待つと述べる一方で、米国からはEU加盟を目指す方針に全面的な支持を得ていることを明かした。

ラマ首相は「米国の外交方針の成果が現在のバルカン諸国だけということはないにしても、最大の成果であることは間違いないだろう」と述べた。「バルカン諸国で我々が今日享受している自由は、米国の外交が産み落とした最初で最大の成果だ」

アナリストらは、バルカン諸国が時間の経過とともにEU以外の陣営に取り込まれる可能性が高まると危惧する。北マケドニアは国名変更以前も含めるとEU加盟候補国の認定を受けて18年、セルビアは9年、アルバニアは7年になる。

人間科学研究所(ウィーン)のフェロー、イワン・ベイボダ氏は「中国やロシアだけでなく、トルコやアラブ首長国連邦もバルカン地域で活発に動いている」と指摘する。「EUはそうした国々に立ち入る余地を与えたことを認識し、結束して行動しなければならない」
By Marton Dunai and Valentina Pop

(2021年7月28日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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