「新皇帝」、台湾統一の思惑

「新皇帝」、台湾統一の思惑 ライオネル・バーバー氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD283B50Y1A720C2000000/

『秦の始皇帝は、中国の名だたる歴代為政者のなかでも、領土や文字などを統一したという偉業で知られる。秦朝は紀元前221年から同206年までしか続かなかったが、万里の長城をはじめ後世に長く残る遺産も生み出された。

秦の時代から2千年以上がたったが、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「中国の夢」や「中華民族の復興」といったスローガンを軸に、偉勲を立てようとしている。武力などによる台湾の統一も、習氏が(本気で)最高指導者としてかなえたい夢に含まれるのかという疑問は、差し迫った重要性を持つ。

英フィナンシャル・タイムズ前編集長のバーバー氏

7月の中国共産党の創立100年記念式典で、習氏は「台湾独立」の動きを粉砕する決意を表明した半面、台湾との平和統一プロセスを推進するという姿勢を踏襲した。強気ながらも計算された言葉遣いによって、基本方針を維持したかたちだ。

とはいえ中国は、台湾周辺の軍備を増強しており、米国は本音を探りかねている。中国は国内のウイグル族の弾圧や香港の民主主義の締め付け、インドとの国境対立の扇動といったかたちでも強硬さを増す。米国のバイデン政権は中国をけん制しつつ、摩擦や戦争を引き起こさない方法をみつけなければならない。

米国は(中国との国交樹立に伴い台湾関係法を成立させた)1979年以降、中国の武力行使も台湾の一方的独立も認めないような「戦略的曖昧さ」を打ち出してきた。米国が台湾問題で武力介入するかどうか決まってなかった。

米シンクタンク外交問題評議会のリチャード・ハース会長らは2020年、戦略的曖昧さは役割を終えたと指摘した。「戦略的明確さ」に切り替えるべき時期が到来したという主張だ。台湾の独立には引き続き反対だと中国政府に伝えつつ、現状を変えようとする中国の試みがあれば、断固として対処すると宣言すべきだとの見方だろう。

米国に残された時間は少ないという。習氏の軍事顧問の一部は、中国人民解放軍が、米国に効果的な反撃を許さずに台湾を急襲できると考えている模様だ。米国は、日本や韓国などとの同盟関係の絆を確かめる必要もある。

バイデン政権の外交チームは、習氏が15年、当時のオバマ米大統領に対し南シナ海を「軍事拠点化はしない」と表明したのを念頭に置いているようだ。実際は、中国は軍事拠点の整備を進める。

米政府は現状を踏まえ、国際的な協調を通じ、台湾統一の代償が高すぎると中国に思わせようとしている。日本などと合同で、南シナ海や東シナ海での緊張を想定した軍事演習を実施してきた。

米国は、台湾との外交的な接点も増やしている。台湾の駐米代表を1月のバイデン大統領の就任式に招いたほか、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で台湾海峡の安定の重要性を記した首脳宣言を採択するなどしている。ただ危険なのは、台湾に期待を持たせすぎることだ。

一方、台湾への軍事侵攻は、中国にとってリスクが高い。台湾の防衛力は、決して侮れない。素早く勝利に持ち込めなければ、米国を巻き込んでの衝突がエスカレートする恐れがある。

ロシアのプーチン大統領による14年のウクライナのクリミア併合を手本に、中国が台湾に触手を伸ばすとみる向きもある。ロシアは特殊部隊などを動員、クリミア半島の編入を既成事実化した。もっともロシアの代償は大きく、欧米から制裁を科され、プーチン氏は国際社会で孤立した。

習氏にとって比較的リスクの低い戦略は、台湾の人々の独立の期待をもみ消し抵抗を抑え込みながら、中国本土と台湾の統一が歴史的な必然と受け止められる機運を高めることだろう。「煙のない戦争」とも呼ばれる方法だ。中国軍が28機を使って台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したり、台湾を外交的に孤立させる動きを強化したりする最近の対応も、習氏の戦略に含まれる。

習氏は台湾にどれだけ魅力を感じているのだろうか。既に68歳の習氏が、あと10年待とうとするだろうか。権力の座にとどまり続けるだろうか。習氏の思惑は、新たな皇帝として君臨する本人にしか分からない。

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