[FT]モロッコ、仏大統領ら盗聴か

[FT]モロッコ、仏大統領ら盗聴か 西サハラ巡り疑心暗鬼
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『アフリカ北西部のモロッコが旧宗主国フランスのマクロン大統領の電話を盗聴しようとしていた疑いが浮上している。その前から、モロッコと欧州主要国との関係は緊張していた。

モロッコ国王のモハメド6世(左)と話すフランスのマクロン大統領(2017年11月、アビジャンでの国際会議)=ロイター

モロッコは同国が領有権を主張する係争地西サハラを巡るスペインの姿勢に反発し、同国への移民の流入を黙認した。西サハラ問題ではドイツとの関係も悪化している。

最近では複数の国がイスラエルのNSOグループが開発したハッキング用スパイウエア「ペガサス」を盗聴目的で使っていた可能性が明らかになった。これでモロッコによる盗聴疑惑が一段と注目されるようになった。マクロン氏への盗聴疑惑は仏NPO「フォービドゥン・ストーリーズ」とメディア17社の調査報道でわかった。

仏紙ルモンドは、モロッコはサイバー情報戦の一環としてマクロン氏とほかの仏閣僚15人の携帯電話や、アルジェリアの当局者や政治家らの携帯電話計6000台を盗聴の対象にしていたと報じた。フランスから独立したアルジェリアは(西サハラの独立運動勢力を支援しており)、モロッコと国境を接する最大の競合国だ。

フランスはイスラム過激派対策でモロッコと連携している。モロッコの最大の貿易相手国でもある。

シンクタンク国際危機グループ(ICG)で北アフリカ部門を統括するリカルド・ファビアーニ氏は「モロッコはすでにスペインやドイツと外交面で厳しい状況に陥っている。このタイミングで盗聴疑惑が明らかになったのは都合が悪かった。(こうした状況で)フランスとも関係を悪化させるのは得策でないからだ」と指摘した。

スペインは今年、アルジェリアに拠点を置く西サハラ独立運動組織「ポリサリオ戦線」の指導者ブラハム・ガリ氏の治療を引き受けた。これでモロッコとスペインの関係が悪化した。5月にモロッコから数千人の移民がアフリカ大陸北端のスペイン領セウタに流入したのは、ガリ氏のスペイン滞在に不満を持つモロッコが国境管理を緩めたためだ。

西サハラの大部分を支配するモロッコはドイツとの関係もぎくしゃくする。トランプ前米政権は、モロッコがイスラエルと国交正常化で合意する見返りとしてモロッコの西サハラ領有権を認めた。だが、ドイツは西サハラ問題で(モロッコの領有権を認めないという)姿勢を変えなかった。

駐ドイツ大使を召還

モロッコは5月、駐ドイツ大使を召還した。国連は西サハラ問題に決着をつけるため何十年も前から現地での住民投票の実施を模索しているが、実現には至っていない。

米国の調査会社、北アフリカ・リスクコンサルティング(NARCO)は「欧州におけるモロッコの地位はかつてないほど低下しているようだ」と推定する。マクロン氏らへの盗聴疑惑は「強硬に傾くモロッコの外交政策と整合する」と分析した。

ICGのファビアーニ氏は、西サハラを巡る米政府の立場がトランプ前政権で変化したことで「モロッコの西サハラに対する姿勢がさらに強気になった」と指摘する。モロッコは西サハラの領有権をもっと多くの国に認めてほしいと考えるようになったというわけだ。

フランスは盗聴疑惑の捜査を始めた。マクロン氏が22日に治安当局トップと協議した後、仏大統領府は「大統領はこの問題を重視しており、捜査の進展に注視する」と表明した。だが「現段階では何も解明されていない」と付け加えた。

モロッコは盗聴活動や、携帯電話(のネットワーク)に侵入するためソフトウエアを購入したとの疑惑を強く否定している。

モロッコのチャキブ・ベンムーサ駐フランス大使は仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュに対し、盗聴疑惑を巡りモロッコに不都合な報道をしたメディアなどに証拠の提示を求める姿勢を示した。「モロッコはこの件で被害者だ。モロッコの安定を損なおうとする企てだ」とまで言い切った。

調査報道支援のアムネスティなど提訴も

仏メディアによると、モロッコの代理人のフランス人弁護士、オリビエ・バラテッリ氏は「モロッコは(NPOの)フォービドゥン・ストーリーズと国際人権団体アムネスティ・インターナショナルを相手取り、名誉毀損の訴訟をパリで起こす」という方針を示した。

アムネスティは今回の調査報道を支援した。モロッコがペガサスを使い、国内のジャーナリストや人権活動家の携帯電話に侵入した証拠があると指摘したこともある。

これに対し、モロッコ政府は、アムネスティがジャーナリストへの盗聴に関する証拠を一切明らかにしていないと主張している。

フランスはモロッコにとって最大の貿易相手国で、投資をもたらす国でもある。国連の安全保障理事会では、西サハラの領有権を巡るモロッコの立場を一貫して支持してきた。

フランスの元外交官は「モロッコはフランスのサハラ政策に関する本音を常に知りたがっていた」と打ち明ける。「フランスの様々な関係者がこの問題についてどう考えているかを気にかけていた」

フランスは西サハラにおけるモロッコの立場を強く支持してきたが、「モロッコの姿勢が強引だとたしなめることもあった」とファビアーニ氏は明かした。仮に「モロッコがフランスを監視しようとしても」驚きではないと語った。フランスはポリサリオ戦線の後ろ盾であるアルジェリアとも緊密で、モロッコは疑心暗鬼に陥ったとも指摘した。

今回の盗聴疑惑でモロッコは気まずい思いをし、フランスは慌てたかもしれない。だが、両国は治安面での協力を維持するため、問題を広げないようにするとみられている。

前出のフランスの元外交官はモロッコの情報当局について「非常に機敏で有能だ」と評価する。「2005年に(スペインの首都)マドリードで起きたテロ、欧州のイスラム過激派の監視については、フランス当局の捜査に大いに貢献してきた」と語った。

「ほかに大きなニュースが起き、世間の関心がそれに移ったら、フランスとモロッコは盗聴問題をうやむやにするだろう」とも述べた。

By Heba Saleh in Cairo and Leila Abboud

(2021年7月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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