中国が日本を核攻撃する動画が与えたインパクト

中国が日本を核攻撃する動画が与えたインパクト
https://kotobukibune.at.webry.info/202107/article_29.html

『1.六軍韜略

このほど、中国が日本を核攻撃するという動画をネットに挙げて海外で大きく取り上げられています。

これは、中国の民間軍事評論グループのオンライン軍事チャンネル「六軍韜略」が制作した5分50秒ほどの動画で、「日本が台湾有事に軍事介入すれば、中国は即座に日本への核攻撃に踏み切る」という内容です。

「六軍韜略」とは六つの陸軍戦略という意味で、中国人民解放軍の幹部だった人物らを中心とし、独自のサイトを運営しています。サイトは昨年11月に開設され、約130本の動画を掲載している。各動画は5万~2000万ほどの再生回数があり、影響力のきわめて大きな軍事情報サイトだといわれています。

件の動画は7月11日に一般向けの動画サイト「西瓜視頻」に掲載されました。

その主な内容は次の通りです。
・日本では安倍晋三前総理が進め、菅義偉総理が続けた極右反中路線や新軍国主義が蔓延し、中国に戦争を宣言する国民的な基礎を固めた。とくに最近では麻生太郎副総理が「中国が武力で台湾を併合しようとすれば、日本はアメリカとともに台湾を防衛する」と言明し、岸信夫防衛相、中山泰秀防衛副大臣らも同様の趣旨を語っている

・もし中共の台湾武力統一に日本が介入した場合、たとえ一兵卒、一機一艦の戦力を出動させても、中共は対等に反撃するだけでなく、日本と全面的に開戦し、初戦から日本が2度目の無条件降伏を宣言するまで核兵器を使い続ける。中共は、日本の戦争に対する忍耐力を攻撃し、戦争の代償を払える余裕がないと認識させることができれば、日本はうかつに台湾のために出兵できない。

・「中国の平和的台頭」を保障するためには、核政策の調整が必要である、日本は最近何度も率先して中国人に危害を加えている。日本は世界で唯一の被爆国であり、政府も国民も原爆のことをよく覚えているのは、日本がそのような「独特の感情」を持っていたからこそであり、したがって中共の日本に対する核での抑止力は「効果が倍になる」。中国の対日核攻撃はごく小規模でもその目的を達成できるだろう。

・中国は1964年に核兵器を開発して以来、たとえ有事でも核兵器は戦争の相手国より先には使わないという「核先制不使用」の政策を明示してきた。核攻撃は中国が核の被害を受けた場合のみの報復に限るという方針だが、日本だけは例外とする。中国が日本を先制核攻撃の標的という例外にする背景には、近年の国際情勢の変化があり、これまでの不先制使用が時代遅れになったという面もある。また中国は日本への核攻撃の際には、尖閣諸島(中国名・釣魚島)と沖縄(中国側は琉球と呼称)を奪回する。両域とも中国の領土に戻すか、あるいは独立を認めるかは、その後、検討していく。
この動画は233万回以上も再生され、瞬く間に拡散し、多くのネットユーザーの間で話題になりました。

2.拡散した問題動画

7月12日、アメリカのRFA(Radio Free Asia)がこの動画をツイッターでつぶやき、アメリカにまで拡散し始めました。

すると、中国政府はすぐさまこの動画を削除し、さらにウェイボーに投稿されたこの動画へのコメントまで徹底して削除したのですね。これがまたアメリカで大きな話題となりました。

7月14日には、アメリカのNEWSWEEKが「China Officials Share Viral Video Calling for Atomic Bombing of Japan(中国当局が日本への原爆投下を呼びかける動画をシェアした)」というタイトルで事の顛末を報道しました。

もっとも、この記事本文では「中国共産党の宝鶏市委員会が運営するアカウント」が件の動画を投稿したとなっていますからChina Officials(中国当局)というよりは、地方政府当局といったほうがよいかもしれません。

件の動画について、一部のネットユーザーは、「中共が同意しない観点は放送されないので、放送できるということは、少なくとも中共が反対していないことが窺える。しかし確かに、中共は狂気の沙汰と言えるほどの非情な悪魔であることがわかるだろう。21世紀において、人権の価値はすでに世界のほとんどの国や人民に認められている。戦争や特に大量破壊的兵器の使用は、目的を問わず罪悪であり、反人類のものである」と非難しているところを見ると、削除したとはいえ、中国政府の本音がここに潜んでいるのかもしれません。

3.背後に中国人民解放軍がいる

この動画について殆ど報じない国内メディアは問題外として、いろんな見方がされています。

産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏はこの動画について、「この日本核攻撃論は中国政府の公式方針ではないとしても、共産党委員会サイトに転載されたということは、政府が暗に日本への威嚇の効果を認め、拡散を容認しているということになる」として、中国の軍事戦略に詳しい前アメリカ海軍大学教授で、ワシントンの大手研究機関「戦略予算評価センター」上級研究員のトシ・ヨシハラ氏の見解を紹介しています。それは次のとおり。

・米欧側では、「中国の政府や軍の公式の戦略ではない」としてこの動画を軽視する向きも出てくるだろう。動画が中国当局によりすぐに当初のサイトから削除されたことも軽視の理由になるかもしれない。だがこの動画が示しているのは、中国側全体の日本に対する国家的、国民的な感情だという大きな構図を見失ってはならない。憎悪に満ちたナショナリズムの扇動なのだ。

・この種の対外嫌悪は中国共産党政権により意図的に奨励されている。とくに日本の国家と国民に対する敵対心は中国の一般だけでなく、エリートと呼べる政策形成層にも深く根を下ろしている。この種の歪んだ対日観は、戦略的な危機に際して間違った判断、錯誤の決定を生む危険が高い。だから日米両国はともに中国のそうした歪みを是正する必要がある。

・さらに懸念されるのは、どのような条件下で中国当局が公式の核戦略から逸脱するのかという疑問を、この動画が提起した点だ。中国政府が日本への核の威嚇をどんな状況で行使するのかを、日米同盟として考えなければならない。近年、人民解放軍が核戦力を拡大し、とくに米国には届かないものの日本を射程に納めたDF-26のような中距離弾道核ミサイルの増強を急いでいることを日米両国は警戒すべきだ。
古森氏は、今回の動画は日本側が決して無視することはできない中国側の新しい日本核攻撃論だと警鐘を鳴らしています。

一方、中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は、件の動画が「宝鶏市人民政府の公式ウェブサイトではなく、たかだかその中の政法委員会という一部局の、しかも『西瓜視頻』におけるアカウント上での動画に過ぎない」と述べています。

そして、人民解放軍との関連についても、「六軍韜略」のアカウント上に人民解放軍の軍人が登場したのは過去一度、2012年12月に退役した元中国人民解放軍南京軍区副司令官の王洪光氏だけだとし、その彼も過激な言動をすることから、軍から「軍のスポークスマンではない王洪光の発言は、彼の個人的な見解でしかなく、ネットユーザーたちは王洪光の言動を過大に評価したり、過剰に反応して騒いだりしてはならない」と睨まれた人物だったと指摘しています。

そうしたことから、「六軍韜略」の背後には「中国人民解放軍がいる」と位置付けるのは適切ではないと遠藤氏は述べています。

遠藤氏は、「米中が覇権争いをしている最中に、日本を敵に回して、習近平には何一つ良いことはない」とし、台湾が「現状維持」を選択する限り、台湾武力攻撃は中国にはいかなるメリットもなく、国際社会からの非難を浴びて孤立を招くよりも、中国経済がアメリカを追い抜く日をじっと狙っている、と述べ、習近平主席が恐れているのは、「中国内のナショナリズムだ」と結論づけています。

4.中国の心理作戦

更に、アメリカ歴代政権の国務省、中央情報局(CIA)、国家情報会議などで対中国政策を担当した専門家で、ジョージ・ワシントン大学の教授を務めるロバート・サター氏は件の動画について次のような見解を示しています。
・今回の動画で明らかにされた日本への核攻撃という戦略は、中国年来の日本に対する敵意や憎悪を示すだけでなく、自国の政策の追求のためには軍事力行使、さらには核攻撃の意図を表明して相手に圧力をかけるという中国の近年の恫喝外交の典型だといえる。

・日本への核攻撃という戦略は、中国が示してきた「たとえ戦争が起きても先には核兵器を使わない」という原則や「核兵器を持たない相手には核攻撃はしないと」いう原則にも反する。だからこの動画によって、中国の「公約」は信用できないことが証明されたともいえる。

・日本としては、この動画に代表される中国の基本的な対日姿勢や、日本に対する威嚇や脅迫という要素を改めて認識して、対中姿勢の強化に努めるべきだ。この動画の内容に、日本側として懸念を強めるべきである。

・ただし、現在の中国指導部は米国との軍事衝突を避けたいというのが本音だという点も認識しておくべきだろう。中国政府は強硬なレトリック(言辞)を用いるが、米軍との全面衝突につながる台湾への武力侵攻は現段階では避けたいとしている。だから日本の台湾有事への参戦という事態も、現在はまだ現実的ではない。

・中国の習近平政権が米国との軍事衝突を回避し、米国との経済面での絆の断絶を避けたいと考えていることは、最近、米国に亡命した中国政府高官らの証言からも確実だといえる。いま米国と軍事衝突しても中国側に勝算がなく、経済断交も中国経済への打撃が大きすぎるという計算が、習近平政権の現在の対米政策の基本だとみられる。
このようにサター氏は「言葉だけで日本の政策を変えようとする中国の心理作戦」というのですね。筆者もこの線が一番可能性が高いと思います。

けれども、だからといって日本は何もしないというのもおかしな話です。

この動画は台湾、インド、韓国、欧州などのメディアですぐに報じられ、特にアメリカのフォックスニュースは、「中国共産党は日本に対して、台湾有事に介入すれば核攻撃と全面戦争を仕掛けると警告する動画を発信した」などと激しく反応しています。

せめて国内メディアもフォックスニュースといわずとも、こんな動画が流されているということくらいは報じるべきですし、日本国民もオールドメディアだけでなく、幅広く情報を収集し自分で考えていく。対中世論を形成していくことも大事になってくるのではないかと思いますね。 』