真珠湾も登場した米中ミニ「アラスカ会談」の不穏

真珠湾も登場した米中ミニ「アラスカ会談」の不穏
編集委員 中沢克二
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK251OF0V20C21A7000000/

 ※ 米中の対立は、「構造」から来ている問題なんで、一回や二回、「高官同士が会談」したところで、どうこうなる問題じゃ無い…。

 ※ オレらが、見ておかなくちゃならないことは、「対立の因って来る(きたる)構造」に変化は生じるのか、変化の「兆し」はあるのか…、ということだ…。

 ※ そういうことの「観察眼」が、国家の生き残りの死命を制する…。

『中国時間26日午前10時(日本時間同11時)前、中国のインターネットメディアが、天津で始まった中国外務次官、謝鋒と訪中した米国務副長官、シャーマンの会談について、中国側が相手にぶつけた発言だけを一方的に速報形式で報じた。

「米側の一部の人は、米中衝突や米国が直面する挑戦を誇張する際、いわゆる『真珠湾(攻撃)』や『スプートニク(ショック)』を挙げる」。米側は中国を第2次世界大戦時の日本や、冷戦時のソ連にたとえて中国という「仮想敵」をつくり出し、妖怪・悪魔のように扱うことで米国内の不満をそらし、構造的矛盾を中国のせいにしようとしている、という趣旨だ。

中国がもっとも重視する対米関係を巡る第一報が、国営通信の新華社や国営の中央テレビなどでないのは珍しい。

会談中から「強い立場」をネットで宣伝

26日、天津で開かれた米中高官会談に出席した中国の謝鋒外務次官(右)=AP
真珠湾攻撃にまで言及した外務次官発言の詳細だけを真っ先に報じたのは、外交問題を多く取り上げるミニブログの字幕付き映像ニュースである。これを上海を拠点とする比較的、新しい民営のネットニュースメディア「観察者網」などが引用して、中国の一般国民が携帯するスマートフォン向けに速報し、拡散させる。

その傍らで中国外務省は会談中から米国を批判する謝鋒の発言を絶え間なく発表した。今回の会談は冒頭以外は非公開とされたが、中国側は隠れたところで激しい宣伝戦を展開していた。ネットメディアを巻き込む、よく考えられた複雑な形式である。

観察者網は民営とされるが、7月上旬には謝鋒とは別の外務次官(筆頭格)が米中関係について語った独自の長いインタビューを掲載しており、特別な役割があるのは間違いない。そこには、いわゆる「戦狼(せんろう)外交」を含めた中国の強い姿勢を一般国民に宣伝する意図もあるようだ。

よく海外メディアに引用される環球時報、環球網も「強い姿勢」という点では似ているが、こちらは共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙の系列であり、直接、中国外務省から指示をうけているわけではない。ネット全盛の時代になり、外交・安全保障政策の国内宣伝は多様化している。

つまり天津での米中会談は、中国サイドの報道・宣伝方式だけを考えれば、3月に米アラスカで中国外交トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)と米国務長官のブリンケンが互いにテレビカメラを入れて1時間もやり合った雰囲気を大筋、踏襲している。

対米基本スタンスに変化なし

いわば出席者のレベルを副大臣級に下げたミニ「アラスカ会談」である。中国側の小道具としてはテレビがネットメディアに変わっただけだ。3月には楊潔篪が使った「米国に上から目線でものをいう資格はない。中国はその手は食わない」といった言い回しが中国内で流行語になったが、今回、謝鋒は「仮想敵」という言葉に焦点を当てた。

そして仮想敵を説明する材料として日本軍による真珠湾攻撃と、1957年10月、ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」打ち上げ成功の発表によって、米国をはじめとする西側に走った衝撃を指すスプートニク・ショックを使った。こちらは宇宙を含むハイテク技術の激しい米中覇権争いを象徴している。

中国共産党創建100年の祝賀大会の演説で、拳を振り上げる習近平国家主席(7月、北京)=新華社・共同

それにしても中国の外務次官が対米外交という重要な場の冒頭から1941年の日米開戦につながった真珠湾攻撃に言及するのは不穏である。真珠湾攻撃当時の日本と一緒にするな、という先制パンチだとしても、外交を理解する関係者なら、米中関係が置かれた深刻な状況に気が付くだろう。

中国側は、アラスカ協議から4カ月を経た今も対米外交の基本スタンスは変えていないとアピールした。外交トップの楊潔篪が今回の対米協議に出ていない以上、そもそも急転換は不可能だ。そればかりでない。重要な中国外交の全ては、国家主席の習近平(シー・ジンピン)が自ら決めているのだ。

問題は強い姿勢を貫くアピールを誰に向けてしているのかである。主要な対象は、ナショナリズム的な傾向が少しずつ強まる中国内の一般国民だ。これは国務委員兼外相の王毅(ワン・イー)が、米中協議が始まる直前に「米国が他国と対等な姿勢で付き合うことを今日まで学んでないのなら、我々は国際社会と共に米国に対し、しっかり補習の授業をする責任がある」と上から目線の強気な発言をあえてしたことからもわかる。

米中首脳会談は話題にならず

ワシントン近郊のアーリントン国立墓地でスピーチするバイデン米大統領(5月)=ロイター
米側によると、今回の一連の会談で10月の20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた米中首脳会談の開催は議題にのぼらなかったとされる。いわゆる目にみえる合意点がない率直に物を言い合う会談が予想できたからこそ、当初から中国側は国内宣伝に重点を置いた。
米国務省によると、シャーマンは王毅と米中関係を管理する方法を協議するなかで中国との厳しい競争に言及。一方で「衝突は望まない」と伝えたという。

王毅は米側に新疆ウイグル自治区、チベット自治区、香港、台湾の各問題で主権を侵さないよう要求するなど、3つのボトムラインを示した。3月のアラスカ会談以来、途絶えていた米中両国による直接の外交接触はようやく再開したものの、先行きは見通せない。

ちょうど80年前の真珠湾攻撃は日本の運命を変えてしまった。その原因は、米国を中心とするABCD包囲網による制裁で経済が行き詰まったからである。確かに現代の中国に対する国際的な圧力は、当時の日本への包囲網とは質が違う。しかし、真珠湾攻撃の前、日本が置かれた立場と、今の中国の類似を暗に指摘する声は、中国の「体制内」からも出ている。

天津で会談する中国の王毅国務委員兼外相(右)とシャーマン米国務副長官(26日)=ロイター

駐サンフランシスコ中国総領事を務め、外交官を養成する外交学院の共産党委員会トップを歴任した学者、袁南生は昨年、発表した論文で「四方を全て敵にするのは外交の失敗」と習近平政権による「戦狼外交」を暗に批判。真珠湾攻撃で米、英、仏、オーストラリア、中国、最後はソ連まで敵にした日本の例を挙げた。中国にいまだ強硬姿勢から転換する兆しがないのは気になる。(敬称略)』