落日の中国企業

落日の中国企業:米証券市場から締め出され資金源枯渇
グローバル化にも失敗し、窒息し始めるイノベーション
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66214

 ※ ちょっと長いので、一部を抜粋して、紹介する…。

『今、激しさを増している米中の対立は証券市場に拡大している。

 現在繰り広げられている米中の対立の根底には、覇権国・米国と新興国・中国の覇権争いがあると筆者は見ている。

 米国の著名な政治学者グレアム・アリソン氏の歴史的検証によれば米中対立は75%の確率で武力衝突に至ると見られている。

(詳細は拙稿「歴史検証が弾き出した米中戦争勃発確率75%」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61554(2020.8.5)を参照されたい)』

『米中の武力衝突を回避するには、中国の軍事力増強の基礎である中国の経済力を弱体化し、未然に米国の覇権に挑戦する中国の意欲をそぐことが最善の方法であると筆者は考えている。

 米国の為政者もそのように考えているのであろう。米中覇権争いは、これまでのところ、武力衝突ではなく、経済分野において、貿易戦争、5G戦争、半導体戦争として繰り広げられてきた。』

『そして、今回は米国の証券市場が戦場となった。米国は、米国の証券市場から中国企業を締め出そうとしている。その理由は3つある。』

『1つ目は、米国の投資家の保護である。

 米国市場に上場した中国企業の不正会計疑惑が相次いでいることを受け米当局は新たな規制を導入し、中国企業に対する監視を強める方針を決めた。そして、「外国企業説明責任法」を制定した。』

『2つ目は、米国の証券市場から調達した資金が、中国軍の能力向上に使用されることを阻止するためである。

 そして、中国人民解放軍と関係があると認定した中国企業に対する米国人による証券投資を禁じる行政命令を発出した。』

『3つ目は、米国の証券市場から調達した資金が、人権侵害に使用される監視技術の向上に使用されることを阻止するためである。

 そして、人権侵害に使用される監視技術に関連する中国企業に対する米国人による証券投資を禁じる行政命令を発出した。』

『他方、中国は、米国市場からの中国企業の排除措置への対抗措置として、米国などに上場する中国企業を誘致するための新たな証券取引所の設立構想を立ち上げた。

 また、中国は、中国人民の個人情報ビッグデータを国家主権に関わるものとみている。

 このため、中国は、中国企業を通じて「国家の安全」に関わるデータが流出することを防止するため、大量の個人情報データをもつハイテク企業やインターネットプラットフォーム企業の海外証券市場への上場を厳しく監督しようとしている。』

『米国証券市場へ上場している中国を含む外国企業は、「外国企業説明責任法」を順守するか、米国から撤退するかの二者択一を迫られるであろう。これらの中国企業の動向が注目される。』

『以下、初めに、中国企業による不正会計の実態について述べ、次に米国の中国企業を自国の証券市場から締め出すための措置ついて述べる。

 次に、中国政府の対抗措置および海外市場への上場を予定する自国企業に対する監督強化措置について、最後に、海外上場をめざす中国企業の将来について述べる。』

『1. 中国企業による不正会計の実態

 米国市場に上場した中国企業の不正会計疑惑が相次いでいる。

 2020年6月末、スターバックスの向こうを張って急成長を遂げた「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」が米ナスダック市場での上場廃止に追い込まれた。

 2019年第2四半期から第4四半期にかけ、22億元(約339億円)の売り上げを水増ししていたのが原因である。

 同社がナスダックに上場したのは2019年5月で、一時は時価総額が約127億ドル(約1兆3260億円)にも達したが、1年しかもたなかった。

 また、2020年11月にはライブ配信大手「歓聚集団(JOYY)」や電気自動車(EV)メーカー「カンディテクノロジーズ(康迪車業)」で新たな疑惑が浮上した。』

『だが、中国企業による不正会計は今に始まったことではない。

 米国の証券取引所では2011年から2012年にかけて、50社以上の中国企業が不正会計などの不祥事で取引停止や上場廃止になり、その後も、毎年のように不正会計で上場廃止になる中国企業が相次いでいる。

 株が上場廃止になって無価値になり、多大な損害をこうむった米国の投資家からは、「米証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)は何をやっているんだ」という怒りの声が上がった。

 こうした状況に対応するため米証券取引委員会(SEC)は、2018年に米国に上場している中国企業に注意するよう投資家に呼びかけた。

 そして、2020年12月18日、ドナルド・トランプ大統領(当時)は、「外国企業説明責任法」に署名した。』

『2.中国企業を締め出すための措置

 以下、米国の主要な措置を時系列に沿って述べる。』

『①2020年11月12日、トランプ大統領(当時)は、中国人民解放軍と関係があると認定した中国企業31社に対する米国人による証券投資を禁じる行政命令13959 号「中華人民共和国の特定の企業に資金を提供する証券投資からの脅威に対処するための行政命令13959号(Executive Order 13959 of November 12, 2020 Addressing the Threat From Securities Investments That Finance Communist Chinese Military Companies)」
に署名した。

 その内容は、国防長官が国防権限法の規定に基づいて「中国軍関連企業(Communist Chinese military company)」であると認定した企業が発行する上場証券やその関連デリバティブ商品について、2021年1月11日以降、米国民による取引や保有を禁じるというものである。また、既に保有している証券などは同年11月11日までに売却することが求められている。

 ロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官(当時)は、今回の行政命令の趣旨について「米国の投資家が意図せずに、中国人民解放軍と中国の諜報機関の能力向上に向けられる資本を提供することを防ぐ」ためと説明した。

 米国民による証券投資を禁ずる対象企業31社には、華為技術(ファーウェイ)や杭州海康威視数字技術(コウシュウ・ハイクビジョン・デジタル・テクノロジー)のほか、多くの国有企業が含まれている。

 また、2020年12月3日、米国防総省は対象企業を拡大し、4企業を追加した。

②2020年12月18日、トランプ大統領(当時)は、上下両院が可決した「外国企業説明責任法」に署名した。

 同法は、米国の証券取引所に上場する外国企業に関して、外国政府の支配・管理下にないことの立証義務を課すとともに、米公開会社会計監督委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)が監査を実施できない状態が3年連続で続いた場合、当該企業の証券の取引を禁ずるというものである。

③2021年1月6日、ニューヨーク証券取引所は、中国軍関連企業への投資を禁じた行政命令13959に基づき、中国電信(チャイナ・テレコム)、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯(香港)(チャイナ・ユニコム(ホンコン))の3社の米国預託証券(ADR)(注)が1月11日以降取引停止となり、上場廃止手続きが進められることになると発表した。

(注)ADRとは、「American Depositary Receipt」の略称で、もともと米国の投資家が米国以外の外国企業に自国通貨(ドル建て)で投資できるように作られたものである。外国企業の株式を預託機関である銀行または信託銀行に預け、これを担保に現地企業の所有権を示すDR(Depositary Receipt)という有価証券を発行し、通常の米国株式と同じように米国市場で売買できるようにしたものである。

④2021年1月13日、トランプ米大統領(当時)は、2020年11月に発出した「行政命令13959号」を修正する「行政命令13974号」に署名した。

 行政命令13974号では、米投資家は2021年1月11日までに、中国軍が所有もしくは支配していると米国防総省が指定した企業の証券をすべて売却することが義務づけられた。

 2020年11月に発出した行政命令13959では、同日(1月11日)までに該当企業の証券購入を停止するよう求める内容にとどまっていたが、今回これを「すべて売却する」と強化された。

⑤2021年3月25日、米証券取引委員会(SEC)は、「外国企業説明責任法」に基づき、米国の監査基準を満たさない外国企業を米市場から締め出す規制の導入を開始したことを明らかにした。

 米証券取引委員会(SEC)の規制では、企業は外国政府の事業体に所有・支配されていないと証明することが必要になるほか、監査や政府の影響に関する情報開示が義務づけられる。

 米証券取引委員会(SEC)は、規制の適用対象となる外国企業を特定するプロセスについてパブリックコメントを募っている。

⑥2021年5月30日、米公開会社会計監査委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)は、「外国企業説明責任法」における「完全な調査・検査が行えない(海外登記の)会計監査法人」の認定の細則を発表し、パブリックコメントを募っている。

 米証券取引委員会(SEC))と米公開会社会計監査委員会(PCAOB)は2020年12月18日に成立した「外国企業説明責任法」に従って、細則を策定することになっている。

⑦2021年6月3日、ジョー・バイデン米大統領は、防衛および監視技術分野に関連すると見なされる中国企業に対する米国人による証券投資を禁じる行政命令14032号(E.O. 14032:addressing the Threat From Securities Investments That Finance Communist Chinese Military Companies)に署名した。

 ちなみに、同行政命令のタイトルは、トランプ前大統領が発出した行政命令13959号と同じタイトルである。

 今回の行政命令14032号では、2020年11月にトランプ前大統領が導入した措置に関して、対象企業の範囲を拡大し、59社の中国企業を投資禁止対象に指定した。

 同命令により、2021年8月2日以降、米国人は証券などを通じた指定企業への投資が禁止されることに加えて、既に保有している証券などは2022年6月3日までに売却することが求められる。

 バイデン大統領は同命令で、人権侵害に利用され得るとして、対象企業の範囲に監視技術分野も加えるとともに、対象企業を指定する権限を財務長官に移管した。

 これまでに、国防総省が作成した対象企業には35(31+4=35)社が指定されていたが、これに代わり、財務省は59社を対象企業に指定した。

 ちなみに、行政命令13959 号に基づき国防総省が対象企業に指定した企業は、新たな対象企業リストにも掲載されている。』

『3.中国政府の対抗措置と監督強化措置

 以下、中国の主要な対抗措置などを時系列に沿って述べる。』

『①2021年3月31日、ロイター通信は、「国務院(内閣)は証券監督管理委員会に対し、新たな証券取引所を設立し香港や米国などに上場する中国企業を誘致する証券取引所の構想について調査を指示した」と報じた。

②2021年6月10日に開催された全人代常務委員会で「データ安全法(データセキュリティ法)」が可決され、9月1日から施行される。

 データ安全法では、データの収集や加工などの行為が「国家安全、公共の利益、個人や組織の合法的利益に危害を及ぼしてはならない」と規定している。

 さらに、国家安全機関の法に基づくデータの調査には、協力する義務があるとも定めている。

 また、2017年には、データの国外持ち出しを制限する「インターネット安全法」が施行されている。個人情報の国外持ち出し制限を含む「個人情報保護法」も全人代常務委員会で審議中である。

③2021年7月3日、中国・国家インターネット情報弁公室(CAC)は、ホームページで滴滴出行(ディディチューシン)(以下DiDi(ディディ)とする)に対するネットワークセキュリティ調査を実施することを明らかにした。

 そして、翌4日、検査・確認の結果、DiDi(ディディ)のアプリは、違法に個人情報を収集・使用しており、重大な問題があると発表した。

 さらに、サイバーセキュリティー法の関連規定に基づき、アプリストアに対し、DiDi(ディディ)のアプリを削除するよう通知した。

 その上で、DiDi(ディディ)に対して、ユーザーの個人情報の安全を確保するため、法律にのっとり、指摘された問題を改善するよう求めた。

 また、中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は社説で、「巨大インターネット企業に、国家よりも詳細な中国人の個人情報データベースを掌握させることも、それを許可なく利用できる権利を与えることも決してすべきではない」と主張した。

 さらに、「特にDiDi(ディディ)のように、米国で上場し、主要株主の第1位、第2位を外国企業が占めるような企業に対しては、国は、情報安全についての管理監督をより厳格にすべきだ」と指摘した。

④2021年7月6日、中国共産党と政府は、連名で出した文書で、中国企業の海外上場に関する規定を改正するとした。

 これを受け、6日の米ニューヨーク株式市場で、中国のIT企業の株価が軒並み値下がりした。

⑤2021年7月10日、中国のインターネット規制当局は、海外に上場を予定する中国企業について、個人情報登録ユーザー数が100万人超の場合は当局が審査すると発表した。』

『4.海外上場を目指す中国企業の将来

 米中対立が激しさを増す中でも、米国で上場する中国企業は増加傾向が続いている。

 調査会社ディールロジックによると、中国企業は2021年1~6月に36社が米国市場に上場し、統計上比較できる1995年以降で最多だった2010年の39社に迫る勢いになっている。

 米中の市場問題に詳しい米ハーバード大フェローのタマル・グロスワルド・オザリー氏は「上場廃止になる恐れがあっても、中国企業にとっては早く資金を調達できる利点が大きいのだろう。米上場で世界的に知名度を高められる点も魅力なのではないか」と分析している。(出典:読売2021.07.08)。

 今、中国企業は「外国企業説明責任法」を順守するか、米国から撤退するかの二者択一を迫られている。』

『おわりに

習近平氏が共産党総書記になってから中国社会は大きく変化した。

「依法治国」(法によって国を治める)を掲げる習近平政権のもとで様々な法規が施行されてきた。

 これらの法規は、社会の安定を保持するためのルールであるというより、中国共産党のよき統治のための道具である。

 その上、中国は、国際法より国内法を優先している。さらに厄介なことに、中国は国際法違反を全く意に介していないことである。

 中国の傍若無人ぶりは目に余る(詳細は拙稿「国際法を無視する中国の傍若無人、その根拠と対策」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64312(2021.3.3)を参照されたい)。』

『習近平国家主席の下で、再び国家統制色を強めていく中でも、中国経済がイノベーションに支えられた高い成長ペースをこの先も維持できるのか、不確実性が増してきている。
 中国が、米国の米国証券市場からの中国企業の排除措置に対抗して、新設する国内証券市場のグローバル化に失敗すれば、中国の民間企業は資金調達ができず、結果、中国のイノベーションは窒息死するであろう。それは米国の思惑どおりである。』