台湾周辺の中国軍機侵入、過去3カ月で半減

台湾周辺の中国軍機侵入、過去3カ月で半減
米中協議にらみ挑発回避か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM262290W1A720C2000000/

『【台北=中村裕】中国軍機による台湾への威嚇行為が大幅に減っている。日本経済新聞の調べによると、過去約3カ月間(100日間)で、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入した中国軍機は延べ112機にとどまり、それ以前の3カ月間と比べて半分以下に減った。足元では中国が米国への過度な刺激を控えるようになっていると専門家らは分析する。

台湾の国防部(国防省)の発表からまとめた日本経済新聞の独自集計によると、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入した数は、4月16日の日米首脳会談を境に大きく減少した。会談後に出た共同声明では、52年ぶりに「台湾海峡の平和」が明記され、米国による台湾問題への関与の意思が明示された。そのため中国の反発も予想されたが、これまで抑制的な傾向が続いている。

これは同会談前の100日間と、会談後の100日間の侵入データを比較すると明らかだ。年明けの1月7日から4月16日までの100日間でみると、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入した日は、70日を数えた。10日間のうち7日間侵入するハイペースで、侵入した軍機も延べ248機を数えた。

一方、4月17日から直近の7月25日までの過去100日間でみると、中国軍機が侵入した日数は30%減の49日と大きく減少した。軍機の延べ数も55%減の112機と大幅に減った。

台湾問題で強気の姿勢を打ち出してきた中国の最近の行動変化の背景には複数の要因があると専門家らはみる。米中情勢に詳しい台湾の専門家の王智盛・中華亜太菁英交流協会秘書長は「バイデン政権発足から半年間、米中は探り合いの状態が続いたが、いまだどのように付き合えばいいのか模索している段階だ」と指摘する。そのため中国は、米国に対して最も刺激となる台湾への威嚇は控えるようになったと分析する。

さらに来年2月の北京での冬季五輪まで残りわずかとなり、22年秋には5年に1度の党大会を控える。「習近平(シー・ジンピン)氏の3期目続投問題が党大会の焦点だ。中国は今後も強気なことを口では言うだろうが、習氏が再任されるまでは、実際の行動は控えめになるだろう」と分析する。

台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の蘇紫雲所長も、中国軍機の侵入減少は、明らかに日米共同声明が影響していると指摘する。これ以上の台湾への威嚇は「米国への過度な刺激になるため、行動を抑制している」と分析する。「南シナ海での米国など各国による活動も、中国へのけん制に大きな役割を果たしている」とも語る。

中国国防省も指摘するように、今年に入って米軍による南シナ海での活動は切れ目無く続いている。直近の7月12日も米駆逐艦「ベンフォールド」が西沙(英語名パラセル)諸島の近海を航行し、中国が猛反発した。2月にはフランスの攻撃型原子力潜水艦も南シナ海を航行している。

英国も20日、新空母「クイーン・エリザベス」率いる打撃群が9月に日本に寄港すると発表した。南シナ海を通過する可能性がある。ドイツも今夏、フリゲート艦をアジアに派遣し南シナ海を航行させるとみられる。

こうした圧力に、中国政府は連日、沿岸部で軍事演習を続け、力を誇示している。だが両岸問題に詳しい台湾の専門家は「演習の狙いは、中国が弱腰と見られないように、主に国民向けにアピールするためのものだ」と指摘する。

台湾周辺や南シナ海を巡る今後の注目点の一つは、米国が計画するミサイル配備だ。中国の後手に回っていた米の配備の進捗次第では、周辺地域での軍事力のバランスは今後、大きく変化するためだ。

米国は既に準備を進めている。19年にまずロシアとの中距離核戦力(INF)破棄条約から離脱した。同条約では、射程500~5500キロメートルの地上配備型のミサイル廃棄と開発が禁じられた。そのため南シナ海などで加速した中国の海洋進出も抑止できなかった面がある。

条約の縛りも取れ、米国防総省はようやく5月、2022会計年度(21年10月~22年9月)の国防予算案で、インド太平洋地域での中国への抑止力を強化する基金「太平洋抑止イニシアチブ」(PDI)に51億ドル(約5600億円)を計上した。

射程500キロ以上の地上発射型中距離ミサイルを、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線に沿って配備し、中国に間近で圧力をかける狙いだ。周辺国と調整を急ぎたい意向で、配備が仮に実現すれば、大きな抑止力になる。

米国は台湾に対しても昨秋から武器売却を急いできた。ミサイルなど合計5千億円に達し、トランプ前大統領は在任中、台湾に少なくとも11回の武器売却を決定した。

一方、中国は南シナ海など周辺に米軍を寄せ付けないようにするため、ミサイル開発を急いできた。米領グアム島も射程に入れ、グアムキラーと呼ばれる「DF26」(射程3千~5千キロメートル)など、中距離弾道ミサイルを既に大量に配備済みだ。』