人工降雨で気象制御、新興国動く

人工降雨で気象制御、新興国動く 摩擦や環境影響に懸念
国際ルールなく
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS29DPY0Z20C21A6000000/

『一部の新興国が人為的に雨を降らせる技術などを使った「気象制御」に乗り出している。中国は2025年までに国土の約6割で人工降雨技術を活用する計画を立案し、エチオピアも乾燥地帯での農業開発に活用する。干ばつの減少や農業生産の拡大につなげる狙いだが、国際ルールは未整備で、地球環境への影響や国家間の水資源争奪を懸念する指摘が多い。

UAE、猛暑を抑制

「いい雨だ」――。アラブ首長国連邦(UAE)の国立気象局は18日、北東部の都市で激しい雨が降る映像を公開した。英インデペンデント紙などはUAEが50度近くの猛暑を抑えるために人工的に雨を降らせたと報じた。現地メディアによると、一部都市では車の運転が困難になるほどの大雨に見舞われたという。

人工降雨は気象制御の一種で、航空機で化学物質を雲にまいて雨を降らせる。第2次世界大戦直後に米国で技術開発が進んだとされる。世界気象機関(WMO)の17年の調査によると、世界で50カ国以上が挑戦している。ドローンなどの技術革新により、その取り組みが近年加速している。

中国、国土の6割で

中国は21年1月、同国初の気象制御ドローン「甘霖-I」の試験飛行に成功した。「恵みの雨」という意味で、従来の有人航空機に比べ、より低いコストで効率的に運用できるのが強みという。

このドローン開発は、中国が20年末に発表した大規模な気象制御計画の一環だ。計画では25年までに国土の約6割、日本の面積の約15倍に相当する550万平方キロメートルで人工的に雨や雪を降らせる能力の獲得を目指すという。史上最大級の気象制御プロジェクトとなるもようだ。当局者は「35年までに中国の気象制御は世界的に進んだレベルに到達する」と自信をみせる。

エチオピア、農業に活用

国営のエチオピア通信社によるとエチオピアも4月、人工降雨技術の実証実験を行った。農業生産を増やすことが目的で、アビー首相は「乾燥地帯の生産性を上げたい」と期待する。タイは専門部署「王立人工降雨局」が関連技術の活用に力を入れていて、関連予算を過去5年間で約3割増やした。22年までに国内に7カ所の降雨センターを設け、37年までに干ばつの影響が出る地域の98%で水不足を解消することを目指す。メキシコでは山火事消火に使われた実績もある。

新興国で気象制御への関心が高まる背景には、干ばつなど異常気象が原因の経済損失が膨らんでいることがある。農業生産が落ちれば、飢饉(ききん)や食糧価格の高騰にもつながる。一国の社会を不安定化させる要因にもなりうる。

国連食糧農業機関(FAO)が3月に発表した報告書によれば、自然災害の年間発生率は足元で1970~80年代の3倍以上に増加した。過去10年間の自然災害による経済損失は年平均約1700億ドル(約18兆8700億円)に及ぶ。2000年代から気象災害が大幅に増え、農業への打撃は特にアジアやアフリカ、南米の新興国に集中している。

(バンコク=岸本まりみ、鈴木淳)

見えぬ効果・副作用 中国の計画に反発相次ぐ

人工降雨などの気象制御は、地球温暖化対策として技術開発が進むが、地球環境や生態系への影響は十分には解明されていない。使い方を誤れば、地球環境を破壊しかねず、倫理上の課題を指摘する声は大きい。

スウェーデン宇宙公社は3月末、米ハーバード大による「ソーラー・ジオエンジニアリング(太陽気候工学)」の実験を実施しないと発表した。高度20キロメートルの成層圏にエアロゾル(微粒子)を散布して膜をつくり、地表に届く太陽光を弱めて温暖化を抑制することを目指す実験の一環で、スウェーデン北部の宇宙基地から実験用の気球を打ち上げる予定だった。

環境団体や先住民団体から強い批判が出たことが背景にある。先住民団体のサーミ評議会は2月、「(実験は)壊滅的な結果を招くリスクがある」として実験に強く反対していた。

気象制御の効果や副作用は未知の部分が多い。比較的研究の歴史が長い人工降雨でも、意図した効果を得ることは難しい。中国のSNS(交流サイト)によると、2018年に中国山東省青島で豪雨が続いた。直前に行われた上海協力機構首脳会議の際に、化学物質で雲を消す「消雨弾」を大量に打ったことが、その後の天気に影響したとの指摘もある。

国際ルールも未整備だ。気候工学に関しては国際機関や政府などが技術を公共財として規制する「オックスフォード原則」が提唱されているが、国際的な監督組織や規制づくりは遅れている。

国家間の摩擦を生む可能性もある。中国が大規模気象制御計画を発表すると、インドなどの現地メディアで「大きな脅威」「国際的な紛争につながる」と反発の声が相次いだ。18年にはイランの軍事組織幹部が「雨雲を盗んでいる」と人工降雨に取り組むイスラエルを非難した。

米ピュー・リサーチ・センターが4月に米国で実施した調査では、気候工学や人工降雨に関して、7割超の回答者が懸念を表明した。気象制御の実施には市民への十分な説明など、透明性の確保も欠かせない。

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長

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別の視点 技術の進歩は受け入れるべきだ。月に人が行き、山を削って土地を埋め立てる。人間の欲望と技術進展が合致して成し遂げた人間界の“成果”だが、原始人から見ればそれも自然に対する冒涜であったはず。こうした欲望は今も続く。不治の病を止めたい、自然災害のリスクを減らし損失も最小化したい、など。これらが遺伝子組み換えや気象制御で可能だとすれば、これまでの技術の進歩がよくてこれらがだめな理由はないのではないか。しかし、だ。神の領域に人間はどこまで立ち入ってよいのかはよく考えねばならない。四季の喪失からの文化的発展の阻害から、公害や副作用、国際的軋轢まで、問題は大き過ぎる程大きい。
2021年7月27日 9:18いいね
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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員

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分析・考察 気候制御は、世界の農業開発の最重要課題である干ばつ対策への大きな効果が期待されると思います。アフガニスタンで命を賭して中村哲医師が作り上げてきたものも、乾いた大地に水を通す灌漑施設でした。一方で、囲み記事で指摘されるように、独善的な気候制御は他国に副作用をもたらし、新たな紛争をもたらすリスクもあるようです。今後、気候制御の技術の進展のなかで、国際ルールと協力体制の整備が喫緊に必要となる分野だと思います。
2021年7月27日 8:17いいね
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授

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別の視点 人間活動はこれまで意図せず大気に影響を与えてきたが、気象制御は能動的に意図する方向に大気に影響を与えようとするもの。しかし、大気は循環し、バランスを取ろうとするので、一か所で変化が起きれば、それは他の場所での変化を引き起こす可能性が高い。こうした変化がバタフライ効果でどんどん大きくなっていけば、取り返しのつかないことになる。現状ではリスクの大きな事業であり、短期的な利益のために長期的な損失を生み出す可能性があることに十分留意する必要がある。
2021年7月27日 11:14いいね
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