デジタル決済、勝者なき消耗戦 グーグル参入の衝撃

デジタル決済、勝者なき消耗戦 グーグル参入の衝撃
キャッシュレス新世紀(中)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB14EGK0U1A710C2000000/

『米グーグルがスマートフォンの決済アプリを運営するpring(プリン、東京・港)の買収を決めた。2022年春にも送金・決済事業を本格展開するとみられる。大手銀行は「ユーザー層の厚みを考えると脅威」(メガバンク幹部)と警戒する。キャッシュレス後進国の日本。決済サービス乱立は、勝者なき消耗戦を長引かせることになる。

【前回記事】塗り替わる世界金融地図 フィンテック、低所得層に恩恵
プリンは社員わずか12人。グーグルがそれでも目をつけたのは送金サービスの潜在力だ。利用者同士ならアプリ内の送金は無料で、3メガ銀など50行以上で入出金できる。法人向けサービスでも約400社を顧客に持つ。グーグルには「グーグルペイ」があるが、クレジットカード保有者などに利用が限られる。

グーグルは検索エンジンや地図サービス、動画配信に強みがある。連絡先一覧から友人とお金をやり取りしたり、地図アプリで目当ての飲食店に事前に注文して決済をすませたりできる。プリン買収で想定される金融サービスは多様だ。

20年の国内個人消費に占めるキャッシュレス決済比率は約3割にとどまる。7~9割の韓国や中国に遠く及ばない。日本は1人当たり約10の銀行口座を持つほど金融インフラが整っているにもかかわらず、「現金信仰」が根強い。グーグルはその落差を市場拡大の好機ととらえた。

実はグーグルの買収劇には対抗馬がいた。米ペイパル・ホールディングス。米国の個人間送金で9割超の利用率を誇るガリバーだが、プリンが最後になびいたのはグーグルだった。総額200億円程度の買収額だけでなく、「我々の送金機能と掛け合わせたサービスの広がりが決め手になった」。プリン関係者は語る。

日本はデジタル決済のサービスが乱立する。セブンイレブン店頭では電子マネーからQRコードまで30を超える支払い手段がある。各社は大型還元を先行させ、登録者が4000万人を超える最大手PayPay(ペイペイ)でさえ、21年3月期は700億円超の営業赤字を計上した。
グーグル買収の報は、収益化を狙うペイペイなどが今秋にも中小加盟店への手数料を有料化しようとする矢先に舞い込んだ。思わぬライバル登場で消耗戦がさらに長引く公算が大きい。

東京五輪に伴う訪日観光客の増加がキャッシュレス決済の起爆剤になるとの期待もあった。例えば、国際ブランドのビザはクレジットカード内蔵のICチップをかざす「タッチ決済」の普及を狙っていたものの無観客開催で目算は狂った。

グーグル買収劇は伝統的な金融機関の限界も露呈させた。18年にプリン買収に動いたみずほ銀行は、金額で折り合えずに最終的に断念した。その後独自にスマホ決済「Jコインペイ」を立ち上げたものの、メガバンクや有力地銀は参加を見送ったままだ。

米国は大手銀が外部とのデータ連携に必須の技術「API」を提供する。フィンテックの台頭を受け、大手銀もデジタル決済に参入して協業する道を選んだ。米ゴールドマン・サックスなどはオンライン決済のストライプと組み、ネット通販業者など新たな顧客開拓を進める。

日本は伝統的な金融機関が収益基盤を守るために自前主義にこだわり、フィンテックとの連携が進まない。その鈍重な動きはデジタル金融における日本の周回遅れを定着させるリスクもはらむ。

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