いつか起こる問題だった LINE、データ管理に甘さ

いつか起こる問題だった LINE、データ管理に甘さ
苦悩のLINE(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14ACN0U1A710C2000000/

『「なぜ事実と異なる説明をしていたのか」。7月19日、LINEを傘下に持つZホールディングス(HD)の本社(東京・千代田)の一室。東京大学教授の宍戸常寿らは社長の出沢剛らLINE幹部を問い詰めた。

宍戸はLINEの個人データ管理問題を調べるため、「ヤフー」も運営するZHDが立ち上げた特別委員会の座長だ。この日求めたのは、日本の利用者の画像・動画データを韓国で保管しながら、官公庁には「データは日本に閉じている」と説明してきた経緯だった。LINE側は「渉外が国内にあると信じて説明してしまった」と答えた。

LINEは3月、韓国でのデータ保管に加え、中国の業務委託先企業で日本の利用者データを閲覧できたことがわかり、消費者への説明不足を糾弾された。だがそもそも、開発担当を除けば、社内の多くが詳細を知らなかった可能性がある。

「主なデータは日本で保管していると開発陣から聞いていた」と役員級の幹部は証言する。宍戸は周囲に話す。「信じがたいが、今分かっている範囲では、社内で一部しか詳細を知らずデータガバナンスが不在だった」

データ管理という重要事項を一部しか把握していない事態があり得るのか。背景にはLINEの特異な歴史がある。

サービス開始は2011年。母体は韓国の検索大手であるネイバーの日本法人だ。韓国企業が日本進出を目指して始めたサービスが、日本中に普及することになるSNS(交流サイト)だった。

システム構築はネイバー出身の技術者が主導した。日本側はサービスの設計と普及に専念した。

「分業」は成功した。喜怒哀楽をボタン1つで伝える「スタンプ」、無料通話といった新サービスを生み出し、SNSは国内最大に成長した。急増したデータの処理・管理で日本側はますますノウハウを持つ韓国の技術者に頼った。その後も体制は変わらなかった。

問題発覚後の3月下旬、出沢は「見落としていたものが多かった」と謝罪した。だが、ある関係者はいう。「韓国側に遠慮し、口を出せなかったのかもしれない」

出沢は上場廃止前の19年12月末時点でLINE株の所有が4万株にとどまる。ネイバー出身の代表取締役シン・ジュンホは約476万株で、ネイバー創業者のイ・ヘジンは同459万株と100倍以上だ。LINEの経営を巡り、ネイバーの存在感は大きい。

LINEのデータ管理のリスクに警鐘を鳴らしたのは、3月1日に経営統合したZHDだった。

両社が統合準備を進めていた1月下旬。ZHD幹部に外部の情報提供があった。「中国企業がLINEの開発を担っている。知っていますか」。ZHDにとっては「寝耳に水だった」(幹部)。

中国の法令では政府が必要と判断すれば企業からデータを集められる。リスクはないのか。ZHDはLINEに問い合わせ、LINEも詳細把握にようやく動き出した。

「日本のデータにアクセスできる」。ZHD社長の川辺健太郎がLINEの報告を受けたのは1カ月以上もたった3月2日。統合の翌日だった。川辺らZHD幹部が官庁などへ謝罪に回った。

LINEは「6月までに、韓国から日本に主要データの管理を移す」と3月に表明しながら「一部は24年までかかる」と後に修正する一幕もあった。調査委のあるメンバーは打ち明ける。「いつか起こる問題だった。重大な法令違反の前に発覚し、むしろ良かった」

一連の問題は違法ではないとされた。個人データを扱う業務の委託先企業に対する監督体制の不備などを問われ、行政指導を受けるにとどまった。出沢とシンは一部報酬を返納した。

ただし、LINEの社会的責任は重くなる一方だ。利用者は8800万人に上る。業務にサービスを利用する地方自治体も全体の6割を超えた。

3月以降、データ流出の懸念から、LINEを使うサービスを止める自治体が続出した。愛知県は心の悩み相談を月平均400件受けていたが、7月7日まで止めた。「命に関わる情報を扱う。対策を徹底してほしい」。同県幹部は訴える。(敬称略)

創業10年を迎えたLINEでデータ管理の甘さが問題になった。国民的サービスの将来を探る。

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