[FT]原子力で仏世論二分、政策示せぬ推進派大統領

[FT]原子力で仏世論二分、政策示せぬ推進派大統領
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『マクロン仏大統領は明確な原子力発電支持派であり、2020年12月には、二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力はフランスのクリーンエネルギーへの移行の鍵になると主張した。だが、巨費を投じて原発を増設するか否か、大統領選まで残り1年を切ってこの問題がますます大きな争点となるなかで、マクロン氏は決断を下さずにいる。

15日、自転車ロードレース、ツール・ド・フランスのセレモニーを見守るマクロン大統領=ロイター

56基の原発で電力の70%を賄うフランスは発電容量で米国に次ぐ世界第2の原子力大国で、おかげでCO2排出量はドイツと比べてごく少ない。だが、原発の寿命を延ばすために25年までに推計490億ユーロ(約6兆円)を充てることが決まっている一方、フランス電力公社(EDF)が北西部フラマンビルで建設中の1基を除き、マクロン氏は新設計画を打ち出していない。

過去の選挙には「偽善的、冷笑的にこの問題を避ける候補者たち」しかいなかった。そう話すのは中道政党「民主運動」の党首で、20年にマクロン氏からフランスのエネルギーに関する報告書の提出を託されたフランソワ・バイル氏だ。

だが、「直視する必要がある。現実問題として、これ以上避けて通るわけにはいかなくなっているからだ」とバイル氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。「(原子力に関する)決断は急を要する」。同氏は原発増設を求めている。

世論調査で接戦が予想される大統領選において、マクロン氏の左側には強硬な反原子力派で再生可能エネルギーの推進を訴える緑の党がいる。右側にはおおむね原子力に賛成する有権者と、農村部の有権者を支援して風力発電に反対する政治家たちがいる。

「風力発電だらけ」

伝統的な右派陣営から大統領選に出馬するグザビエ・ベルトラン氏は、フランスは「風力発電機だらけで、これ以上は無理」であるとして、雇用をもたらす原発新設を訴えている。大統領選(2回投票制)の決選投票でマクロン氏との対決が有力視される極右指導者のマリーヌ・ルペン氏も、風力発電を激しく批判している。

中間に立つマクロン氏は、都市部のエリート層と農村部の有権者にまたがる支持基盤を築き上げるべく、自身が直面する難局の縮図のような原子力問題をうまく操ろうとしている。最近のある世論調査では、回答者の半数が原子力を環境への「脅威」とみなす一方、47%は「機会」を生み出すものと受け止めている。

フランス北部に立ち並ぶ風力発電機=ロイター

今のところマクロン氏はこの問題を回避し、「遅くとも」23年には、と原発新設に関する決定を先送りしている。建設に大幅な遅れが生じた次世代の欧州加圧水型炉(EPR)がフラマンビルで運転を開始する予定の年だ。EDFは改良型EPRの建設計画についても作業を進めている。

「この問題に関して、マクロンの立場はいささかこんがらがっている。『両にらみ』の構えだ」とシンクタンク、政治革新財団のドミニク・レイニエ氏は指摘する。別々の有権者層に同時にアピールしようとする戦術だという。

マクロン氏は、再生エネと蓄電システム、新たな送電網への大規模な投資により、フランスの電源構成に占める原子力の割合を35年までに50%へ引き下げる方針を示している。だがその一方で、モンテーニュ研究所のエネルギー専門家バンジャマン・フレモー氏によると、フランスは今後10年にわたり「原発のクリフエフェクト(急激な経年劣化)」に直面し、老朽原発の寿命を延ばすだけでも巨額の投資が必要だという。

「問題は、マクロンが公の場でこの議論を全くしようとないことだ。大統領府内で片付けようとしているのだと思う」とフレモー氏は言う。

「原子力は危険」

批判派は、原子力は危険で総合的なコストが低く見積もられているとしている。日本の福島原発事故は電力業界への信頼を揺るがし、ドイツは原発廃止を前倒しした。

支持派は原子力の長所の一つとして、出力が不安定な風力・太陽光発電を下支えするベースロード電源になると主張する。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長がフランスの原発を「セーフティーネット(安全網)」と呼んだのも、それが理由だ。
「フランスは原子力発電のおかげで、全ての先進国のなかでCO2排出量が最も少ない」とビロル氏は言う。「ドイツとフランスを比べると、1キロワット時の発電に伴うフランスのCO2排出量はドイツの6分の1だ」

EDFの送電部門子会社RTEは、50年までのフランスの電源構成に関する選択肢について分析した報告書を最近公表した。蓄電技術の改良に基づく再生エネ100%のシナリオも含まれている。これほど細かい分析がまとめられたのは初めてだ。

仏南西部のゴルフェシュ原子力発電所=ロイター

今秋に公表予定の最新分析では、原子力と再生エネのコスト比較が示される。仏政府は議論の論点を定める鍵になるとしている。

4年前に発足したマクロン政権の4人目の環境相であるバルバラ・ポンピリ氏はFTに対し、「全てをテーブルの上に載せてコストを見る」と話した。

議論が政治化

技術的問題が焦点となった時期はとうに過ぎ、もはや政治の領域に入っている。そのため、過度に単純化された基準で決断が下されることを危惧する専門家は懸念を募らせている。

「政治的な議論のせいでエネルギー安全保障が犠牲にされることがあってはならない」と、エネルギー規制委員会のジャン・フランソワ・カレンコ委員長は仏経済紙レゼコーに語っている。

RTEの戦略・立案・評価担当エグゼクティブディレクターのトマ・ベラン氏は、「風力対原子力に関心が集中しているが、それが課題の全てではない」と指摘する。

マクロン氏が再選を目指す選挙戦で原子力問題をどう扱うのかは不透明なままだ。「民主運動」のバイル氏は、最終的に「この問題は取り上げられる」ことになり、候補者による討論があるべきだと考えている。その一方で、マクロン氏の政治的なためらいが議論の完全な回避につながることを懸念する向きもある。

「悲しいのは、私たちがしようとしている選択が実際には選択にならないということだ」とモンテーニュ研究所のフレモー氏は話した。

By David Keohane

(2021年7月19日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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