トランプ氏の威光と暗影 米共和党はどこへ向かうのか

トランプ氏の威光と暗影 米共和党はどこへ向かうのか
本社コメンテーター 菅野幹雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN160E30W1A710C2000000/

『1月6日の連邦議会襲撃事件で厳戒下にあったバイデン米大統領の就任式から半年。1年3カ月後の米中間選挙を控え、ホワイトハウスと上下両院の優位を失った共和党で、トランプ前大統領が活動を再開した。共和党はどこに向かうのかを探ろうと、フロリダ州サラソータの集会を訪ねた。

今月3日、屋外会場は6時間前から数千人規模の聴衆で埋まった。激しいスコールを物ともせず、びしょぬれで主役を待つ支持者たち。取材した全員が「2020年の大統領選は不正」と答えた。

「私はダイ・ハード(屈強)なトランプファン」。そう語るサンフランシスコ在住のエリザベス・キロスさんは「24年? とんでもない。今にも選挙が覆りトランプ氏が返り咲くわ」と声を弾ませる。近郊に住むデービッド・クライトン氏は「性格は破滅しているが言ったことは全部実行する。こんな人物は初めてだ」と激賞する。

「今の政権は5カ月で我々が積み上げた成果を襲撃した」。トランプ氏は演台につくやいなや、バイデン攻撃を始めた。「あれは本当にジョー本人なのか。誰か知ってる?」と小ばかにして笑いを集める。移民急増やガソリン高を失策だと非難する一方で、「共和党には新しいリーダーが必要だ」と上院トップのマコネル院内総務の退陣を求めた。選挙結果の転覆を企てたトランプ氏と、それを非難したマコネル氏は絶縁状態だ。

トランプ氏の威光、党内を照らす

毒づくトランプ氏の人気は衰えない。保守政治活動会議(CPAC)が集会で実施した非公式の調査で、24年の大統領選でのトランプ氏の出馬を70%が支持した。

前大統領は中間選挙の党候補を決める予備選で、意に沿わない者を追い出す荒技に出ている。

大統領選の集計後、バイデン氏との差を逆転するための「票を見つけろ」という要求を拒んだジョージア州の州務長官に、トランプ氏は改選阻止の「刺客候補」をぶつけた。選挙不正を否定する共和党議員には「RINO(名ばかりの共和党員という略語)」とレッテルを貼る。人気と資金力を盾にした同氏の「威光」は、党内をトランプ色に照らしている。

新大統領が就任した翌年の中間選挙では、ホワイトハウスを逃した野党側が議会の議席を伸ばす例がほとんどだ。共和党ストラテジストのマーク・ウィーバー氏は、トランプ効果が共和党を一段と有利に導くと読んでいる。「共和党の柱となる支持者には奪われた者の『怒り』がある。『怒り』は投票率を高める一番の要因だ」

党の再生不可能と不安視する声

一方、取材を通じ、トランプ氏の「暗影」への懸念が共和党で蓄積している実態もみえてきた。

「共和党は保護主義、孤立主義の党に変わり果てた。いまの党に親近感は全く感じない」。ルイジアナ州選出で05~17年に下院議員を務め、自由貿易を巡る法案作りに奔走したチャールズ・ブスタニー氏は嘆く。予備選の苦戦を嫌う上院議員の引退表明が相次ぐなど伝統的な共和党員がトランプ信奉者に置き換わっているとみる。「中間選挙で共和党が勝てばトランプ効果は永続し、党の再生は不可能になる」と心配する。

24年の大統領選にも霧が立ちこめる。次世代の候補としてはペンス前副大統領、ポンペオ前国務長官、女性のヘイリー元国連大使や若手の上院議員の名が挙がる。最近、注目を浴びるのが42歳のデサンティス・フロリダ州知事だ。新型コロナウイルスでの経済制限を積極的に緩め、前大統領に次ぐ支持を集める。トランプ氏は出馬に含みを残しつつ、結論は口にせず隠然と影響力を示す姿勢をとる。

ここでも「対トランプ」の距離感が明暗を分ける。1月6日に議会でバイデン氏の大統領選出を進めたペンス氏はトランプ支持者からは反逆者扱いだ。デサンティス氏も早くから支持を高めすぎると宿敵を容赦なくたたくトランプ氏の標的になりかねない。忖度(そんたく)が党内を支配する。

国際的な信頼失墜、再び孤立主義に懸念

共和党が掲げてきた小さな政府、自由貿易、国際協調といった理念の揺らぎを心配する声も多い。「トランプ効果は短命だ。長期にわたる理念や問題解決策を示すことが、共和党の直面する最大の懸案だ」とウィーバー氏は指摘する。現在25~40歳前後の「ミレニアル世代」や、人口が増加する都市部の支持テコ入れが構造的な課題だが、手つかずになっている。

トランプ氏が復活すればグローバルな協調路線が再び否定されることになりかねない=ロイター

トランプ路線に逆戻りすれば、気候変動への対応や法人税制改革などのグローバルな協調がまたも否定され、世界の信頼は失われる。米国が再び孤立主義に陥れば、中国やロシアなど強権主義の勢力には願ってもない展開になる。

地方でも未来を案じる声を聞いた。共和党の地盤であるウェストバージニア州モーガン郡の行政委員を務める35歳のショーン・フォーマー氏は「トランプ主義はいつか去る。共和党は小さな政府や市民の自由の確保といった理念を守れるのか。子供たちの将来に悪影響を残したくない」と訴える。

「目を覚ます必要がある。伝統的な共和党支持の有権者を抜きにして選挙には勝てない」。5月、保守系経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルで、レーガン元大統領のスピーチライターを務めたペギー・ヌーナン氏が評した。党有力者はトランプ氏の見せかけの力に惑わされすぎだとの警告だ。

民主党の手回しか。冒頭のトランプ集会の上空で「LOSER(敗者)」と機体に投影した飛行機が旋回していた。思考停止の共和党を風刺する光景にもみえた。

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