ずぼらなリカちゃん、なぜ元気をくれるのか
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210719/k10013147211000.html?utm_int=news_contents_netnewsup_002
※ リカちゃんも、「ズボラな姿」がウケてるのか…。
※ だんだん、みんな「お人形のように綺麗なもの」に、共感できなくなってきたんだろう…。
※ 「等身大の」「飾らない素顔」に、癒されるのか…。
※ さりとて、昔から「秘すれば花」と言って、「現実そのまま」「リアルそのもの」は、また、「目を背けたい現実」でもあるんだよね…。
※ そこいら辺が、難しいところだ…。







『あるところにお姉さん(私)がいました。
お姉さんは仕事に疲れて帰宅。
ベッドに横になりスマホの動画を眺めていました。
その動画を見て元気がわいてきました。
動画には、ちょっとずぼらなリカちゃんが映っていたのです。
(ネットワーク報道部 記者小倉真依 柳澤あゆみ)
同じだ!
リカちゃんとはあのリカちゃん。
50年以上前に販売が始まり、連々と新シリーズが登場する人気の人形です。
タカラトミーのホームページでは
「常に時代や流行を反映しながら、子どもたちの憧れや夢を形にした商品」と紹介されています。
ところが私が見た動画やインスタの中では、帰宅したとたん、着替えもせずにソファーで倒れる。
スエット姿になって、たまった食器や洗濯物の片づけは後回し。
なのにベッドに寝転がって、スマホを見ちゃっている。
「私は洗い物はためないけど、結構、同じだ」
そう思い、元気が出たのです。
そうです。
冷蔵庫を足で閉めちゃうなんて、そのほうが早いので当然、やっちゃってます。
みんな、そうなんだ
ただこれは人に言えたことではない。
社会人になったころなんて特に
「あーあ、だめだな、だめだめ。もっとちゃんとしなきゃ、だめじゃん」と思う私がいた。
そして「毎日、忙しいんだよ。これぐらい許してよ」と、だめだと思う私にこい願う私もいた。
みんなはどう思うんだろうと、同僚に動画を見てもらうと、彼女は(柳澤)は私よりつわものだった。
「わかります、わかります。食器って使うと勝手に台所にたまっていきません?」
食器に意志はないから、そんなことはないのよ。
「私はみんな仕事がんばっているんだなって思いました。余裕があればきちんとしたいけれど、現実は疲れてそうはいかないじゃーないですか」
「だめだなっ私って思っていたのが、みんなそうなんだなって肯定された気持ちになりました」
どうも同僚は私より、気持ちをことばで表現するのがうまそうだ。
共に社会にもまれる
この動画はいくつかあがっていて話題になった。
中でも仕事から帰ってきて部屋でうだうだするリカちゃんと、仕事に行く前の朝、うだうだするリカちゃんがよく再生されていた。
仕事がONとすれば、ふだんはOFF。
そのOFFの姿に自分を重ねるコメントが多く寄せられている。
「私を見ているようで泣けてきた」
「あの頃、遊んでたリカちゃんと共に今は社会にも揉まれる切なさ…」
動画を、おもしろいと思って見ているだけではない姿が浮かんできた。
投稿した女性は
この動画ってどんな思いで作ったのだろう。
連絡をとると投稿していたのは20代後半の女性だった。
「会社員です、事務も外回りもやってます」と丁寧に答えてくれた。
リカちゃんは小さいころから好きで、リカちゃんの家族がそろったセットもあったそうだ。
女性
「私、家族にもだらしないと言われていたし自分でもだめだなって思っていたんです」
「“女性はかたづけをちゃんとしないといけない”、育つ中でそう感じていて、まあ、あまり深刻な意味ではないんですけど、負い目がありました」
動画を作るきっかけは、自分がリカちゃんだったらどんなんだろう、自分を投影してみようと思ったことだったという。
女性
「それはきっとキラキラした感じじゃなくて、ずぼらでだらしない感じになる。でもきっとかわいいんじゃないかと思ったし、作ってみるとやっぱりかわいかった。それなら自分も、はた目からみたら、いとしい存在なんじゃないかと思えました」
「だからこの動画は自分のためにあげています。家の中くらいこんなんでもいいじゃんって自己肯定感を高めているんです」
きちんとしているほうが…
このリカちゃんの動画について、同僚はなんと国連に取材の手を伸ばした。
国際の平和および安全を維持することが目的のあの、国際連合。
その中にジェンダー平等などに取り組むUN Womenという機関があって日本事務所の所長に話を聞いてきた。
石川雅恵所長
石川雅恵所長
「反響の多さはたくさんの人たちが、女性はきちんとしているほうがいいというステレオタイプにさらされているからではないでしょうか」
「仕事を頑張り、家もきれいに片づけて、家事もきちんとこなすのが当たり前という考えがあるから、それができない自分を恥ずかしいと感じてしまう」
「それには企業CMやメディアの影響もあります。いまはそうしたステレオタイプを打ち破る先進的な取り組みが求められていると思います」
シミや毛穴、消しません
彼女の取材はどんどん進む。
ステレオタイプを打ち破る取り組みを探し、世界的な企業に取材先を定めた。
大手日用品メーカーのユニリーバ。シャンプーやボディソープ、メーク用品などを世界で取り扱っている。
“世間が決めた美意識にとらわれない”
“ありのままの美しさに気付いてもらおう”
聞くと20年ほど前から、そうしたメッセージをコマーシャルとかで発信し続けているらしい。
ダヴという売れ筋の商品シリーズでは、コマーシャルでシワや毛穴を消したりスタイルを修正したりする画像加工を取りやめた。
モデルをやめて一般の人に出演してもらうことにした。
そしてあるイメージCMにちょっと心を打たれた。
嫌いな部分からでいいですか
CMの現場は実在する高校。
女子生徒たちに、学生証の写真について、話をしてもらうと…。
「きらいなところは肌の色が悪いのと目が小さいのと…」
「好きな部分?…嫌いな部分からでいいですか」
自分に否定的なことばが、どんどん飛び出てくる。
そして生徒たちは学生証の写真を撮り直すと告げられる。
そんなもの、なくしたいんです
カメラの前に座る生徒。
すると突然、側にあるモニターから同級生からのメッセージが流れてきた。
「目がやさしくて内面がにじみでてるなって思う」
「シンプルに笑ったらかわいいんじゃないかな」
同級生が語ったのはその人が持つ、気付いていないかもしれない魅力。
ことばを聞いた後の写真はみなとびきりの笑顔だった。
学生証の写真
撮り直した後
“社会が決めた役割” “社会が思う美しさ”
そこに一石を投じたかったと担当者は話してくれた。
ユニリーバ・ジャパン担当者
「女性はこうあるべき、男性はこうあるべき、母はこうあるべきという認識で窮屈に生きなくてはならないなら、そんなステレオタイプをなくしたいんです。ひとりの人として、その人らしさを大切に描きたいと考えてます」
うれしい
ずぼらを取材して、それが国連やワールドな企業までかけめぐるとは思わなかった。でも、自分を否定せず、大切にしていこうという動きは確かにあるみたいだ。
それがうれしい。
私が疲れて寝転んだベッドで見たずぼらなリカちゃん、それを投稿した女性はこんなことも話してくれて、それもまたうれしかった。
女性
「苦労と無縁の華やかに見えるリカちゃんも、もがきながら頑張っているんだって見てもらえたのかなと思います。優雅に泳いでいるように見える白鳥でも水の下では足をばたばたさせてもがいているように。これはみんなだよ、みんなで自分をほめようよって思います」』