米「中国のサイバー攻撃に50の手口」 日欧と包囲網

米「中国のサイバー攻撃に50の手口」 日欧と包囲網
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC195OC0Z10C21A7000000/

『日米欧などが一斉に中国をサイバー攻撃の攻撃元だと名指しする異例の措置をとった。中国の関与が指摘されるケースが各国で相次ぎ、一国での対応には限界があるからだ。米政府は今回、50程度の具体的な手口を挙げて注意を喚起した。手法は基本的なものが多く、人海戦術も組み合わせて弱点を執拗に攻撃する姿が浮かび上がる。

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米国や欧州連合(EU)が今回、特に強調したのが、今年3月に表面化した米マイクロソフトのメールシステム「エクスチェンジサーバー」への攻撃だ。米国は攻撃者が「中国国家安全省と関係がある」と明記した。英国は攻撃の被害を「世界で25万台超のサーバーに影響した」と推定し、中国政府に関連する「ハフニウム」というグループが実行したと名指しした。

少なくとも12カ国で数年にわたりサイバー攻撃を行った中国系ハッカーらを訴追したことや、エボラウイルスワクチンの研究データが奪い取られたことなども明らかにした。

米国が挙げた50程度の具体的な攻撃手法は、いずれも珍しいものではなく突出した技術を使わない。中国は人手をかけて大規模な攻撃を繰り返すことで「成果」を出しているようだ。

例えば、ビジネスに使うソフトウエアや、在宅勤務の拡大などを背景に利用が広がるクラウドサービスなどが対象になっている。中でも、旧バージョンのソフトの弱点を、ソフトの制作者が修正する前に攻撃する「ゼロデイ攻撃」が多い。

マイクロソフトのビジネスソフト「オフィス365(現マイクロソフト365)」の脆弱性などを、プログラミング言語「パイソン」を使って効率的に収集し、攻撃する手法などが紹介されている。システムを補強するために弱点を探す「コバルトストライク」というセキュリティーツールを悪用するケースもある。

攻撃が基礎的な水準だけに、米国が対策として掲げたのも不正アクセスの監視や多要素認証の導入など一般的に推奨されている手法が中心だ。そういったセキュリティー対策さえ徹底していない組織が、中小企業などを中心に、なお多い。

サイバー攻撃はかねて、国の支援を受けた組織的な攻撃が指摘されてきた。目的は様々で、ロシアは政治的かく乱、北朝鮮は暗号資産などの外貨獲得が目立つのに対し、中国は産業情報を奪うケースが多いとされる。

サイバー攻撃分析を手掛けるサイント(東京・港)の岩井博樹社長は「中国は国家戦略としてサイバー攻撃をしている」と分析している。全国人民代表大会の経済政策で重要とされた技術を外国から不正に入手するために攻撃することもあるとの見方だ。

標的とする企業内でのスパイ活動を組み合わせた長期的な攻撃が特徴で、実行は少なくとも30超の民間ハッカー集団に担わせており、詳しい実態は不透明だという。

中国のサイバー攻撃は日米欧のみならず、周辺国の安全保障環境をも揺さぶる。2020年6月には豪政府が、中国の関与が疑われる大規模サイバー攻撃を公表。20年10月にインドの商業都市ムンバイで発生した大規模停電では、中国のコンピューターウイルス攻撃が原因の可能性があると米社は指摘している。

企業の事業拠点や取引先は世界中に広がっており、外国での攻撃でも被害は自国の企業や安全保障に及びかねない。グローバル化が進んだ結果として、サイバーセキュリティーでは各国、地域の連携が不可欠になっている。

(渡辺直樹、サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信)

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授

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ひとこと解説 EU諸国にとってこれまで最大の安全保障上の懸念は常にロシアであり、地理的に離れた中国への脅威認識は相対的に薄かった。このため、アメリカや日本との共同歩調が取れなかったが、ここ数年、EU諸国の間で中国からのサイバー攻撃による被害が相次ぎ、中国への不満が蓄積してきた。今回はアメリカ、EUのみならず、日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドも加わり、サイバーセキュリティ分野で共通の対中脅威認識が形成されたといえよう。
2021年7月20日 8:12いいね
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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員

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分析・考察 G7サミットに代表される米欧における協議で、安全保障や人権での対中懸念が共有された中で、「サイバー空間から宇宙まで、世界経済及び社会の将来の先端領域が全ての人々の繁栄及び福祉を増進させることを確保するために協働する」とし、ランサムウェアに対する懸念も共有されたが、名指しされた国はロシアだけでした。今回、日米欧が中国を名指しして懸念を共有したことは、記事でも指摘されているように、市民がそれぞれに自衛すべきだという自覚が不可欠だからだと思います。それに加え、民間へのサイバー攻撃であっても、それが国家間の安全保障と密接に関わり、切り離せなくなっているという深刻な状況も反映しているのでしょう。
2021年7月20日 8:55いいね
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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授

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ひとこと解説 今回はマイクロソフトのメールソフトという、世界的に広く使われているものであり、共同歩調が短期間で調整できたのだと思います。同時に、サイバーの問題を、積極的に外交の道具として使っていこうとしているバイデン政権の手法が鮮やかに現れたケースでもあります。今後、情報共有などが西側で進むにあたり、日本も積極的に関与できるよう体制を整える必要があります。また、ロシアが選択的にこの問題での協調を選んでくるのかどうかは、新たな対立の方向性を示唆する材料の一つとなり注目されます。
2021年7月20日 8:53 (2021年7月20日 8:54更新)
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