和平実現向け支援継続を 駐アフガニスタン大使

和平実現向け支援継続を 駐アフガニスタン大使寄稿
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB124XG0S1A710C2000000/

『4月に米軍のアフガニスタン撤退が発表されて以降、タリバンは誰もが予想しなかった速さで支配地域を拡大している。アフガニスタン政府軍は、米・北大西洋条約機構(NATO)軍撤退という状況変化に適応できないままに、タリバンの攻勢にさらされ、いまだ反撃に転じることができていない。

和平交渉は停滞し、激しいテロで一般市民の犠牲は続いている。過去20年、国際社会はアフガニスタンを再び国際テロの温床としない決意で復興を支援してきた。40年にわたる内戦をアフガン人が交渉で終結させる可能性はまだ残されているのか。

筆者は過去40年の中で、今日ほど和平の環境が整ったことはないと考えている。第一にアフガニスタンと米国の指導者の間に、平和にはタリバンを含む政府の樹立が必要とのコンセンサスが存在する。米国は20年の歳月、2兆ドル(約220兆円)の予算、2400人以上の米兵の犠牲を払ったが、最大部族パシュトゥーン族を基盤として、いまだ一部国民の支持を得るタリバンの復活を防げなかった。

岡田隆・駐アフガニスタン大使

一度は国を追われたタリバンは、パキスタン側のパシュトゥーン地域で組織を立て直し、アフガニスタンへ再浸透を図ることができた。長年の内戦で政府が国民への基礎的サービス提供に苦しむ中、多数の地方住民は、生き延びるためタリバンの支配を受け入れざるを得なかった。タリバンは消すことができないというのがアフガニスタンの現実である。

アフガン内戦による難民、麻薬、イスラム過激派の流入に苦しんだ周辺国は一致して平和を求め、タリバンを含むがタリバンに支配されないアフガニスタンを支持している。周辺国はアフガニスタンを通じた交易ルートに関心がある。中央アジアは豊かなエネルギーと資源の南アジアへの輸出を、南アジアは中央アジア市場へのアクセスを求めている。実現にはアフガニスタンの平和が必要である。

さらにパキスタンが和平への支持を明確にしている。パキスタンはかつてタリバン政権を支持した。しかし、政権の脅威である「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が、タリバンの軍事的勝利により活発化することをおそれている。パキスタンは米・タリバン合意に貢献したが、タリバンの暴力停止と和平への取り組みにさらに影響力を行使することが期待される。

また、外国軍隊の撤退はタリバンの大義を失わせる。イスラム世界の有力法学者たちは同胞に対する戦闘をこぞって非難している。タリバン兵士たちのモラル、リクルート、外部からの支援に影響が出よう。その間、米国とNATOは政府軍への間接支援を増強していく。
パトロールする武装したアフガン兵士(同国北東部、7月11日)=ロイター

タリバンに和平への意思はあるのかとの問いにアフガニスタンの多くの指導者たちは「わからない。交渉の中で確かめるしかないが希望はある。タリバンも国に戻りたい。戦闘継続は周辺国が介入する内戦となることを彼らも知っている」と答える。同時に「戦闘激化は避けられないだろう。タリバンは外国軍撤退後の政府軍に対決を挑み、力の限界を知るまでは交渉には戻らない」と、諦めと決意の混じった表情で説明する。ある大臣は筆者に対して「自分は戦争を望まない。しかし平和は戦争によってしか生まれないこともある」と述べている。

アフガニスタンは過去20年で多くのことを達成した。乳幼児死亡率を半減させ、女児の初等教育登録率はゼロから83%まで上昇した。日本は、こうした取り組みを国際社会の先頭に立って支援してきた。2002年にはアフガニスタン復興のための東京会議を主催し、援助額(累計69億ドル)は米国に次ぎ第2位である。

アフガン難民の帰還や復興に尽力された緒方貞子氏や、医師として命を救い、砂漠に緑の農地をひらく灌漑(かんがい)事業の半ばで命を落とされた中村哲医師の記憶はアフガニスタンの人々の心に刻み込まれている。

平和はアフガニスタンの人々の手が届くところにある。その可能性は戦況に大きく左右されようが、国際社会は平和への地域的・国際的コンセンサスを強化し、当事者に対して暴力停止と交渉促進を求め続けねばならない。同時に紛争、干ばつ、新型コロナウイルスに直面するアフガニスタンから20年の成果が失われぬよう復興・人道支援を続ける必要がある。

アフガニスタンの人々は国際社会の支援を必要としている。

(駐アフガニスタン大使 岡田隆)』