欧州ポピュリストの勢いに陰り?

【地球コラム】欧州ポピュリストの勢いに陰り?
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021071400833&g=int

『◇権力への接近と支持拡大のジレンマ

 一時、欧州各国で破竹の勢いを見せてきたポピュリスト政党だが、ここにきて頭打ちの傾向が見える。先月フランスで行われた地域圏議会選挙で、マリーン・ルペン氏が率いる国民連合(RN)が獲得予想を大きく下回る結果に終わった。ドイツでもポスト・メルケルをめぐる今年9月の総選挙を前に「ドイツのための選択肢」(AfD)にかつての勢いはみられない。

 中東・アフリカの難民流入への反発を背景に、自国第一主義を掲げたドナルド・トランプ米前大統領の影響もあって勢いが加速された観のあるポピュリスト政党とその指導者たち。「トランプ劇場」の終焉とともに、その時代も過去のものになりつつあるのか。それともこれは一時的な退潮にとどまり、再び頭をもたげるのか。欧州の核となるフランスとドイツの最新の動向から探る。(時事通信社解説委員、元パリ特派員 市川文隆)

◇「脱悪魔化」が招く支持者離反

 コロナ禍で延期されていたフランスの広域地方自治体である地域圏議会選挙が6月20、27日に行われた。結果は、マクロン大統領与党の「共和国前進」は敗北、ドゴール元大統領以来の右派共和党と、ミッテラン元大統領を生んだ社会党という旧来の政治勢力が現状維持の形で勝利した。投票率は30%台と極めて低かった。
 日本ではマクロン与党の低迷が新聞の見出しを飾ったが、現地では選挙ごとに支持を拡大してきた極右政党「国民連合」(旧国民戦線)の勢いにブレーキがかかったことに注目が集まっている。

 過去の欧州、国政、地方いずれのレベルの選挙でも大幅に議席を拡大してきた同党党首のマリーン・ルペン氏は、最近では来年の大統領選で予想される候補者の支持率世論調査で、現職エマニュエル・マクロン大統領を超える数字まで出ていた。今回の地域圏選挙でも複数の地域圏で勝利するとの調査があった。しかし結果は、主要地域圏で一つも議長を獲得できず、唯一同党の牙城でもある南仏での第1回目の勝利も決選投票で共和党に逆転された。

 今回のルペン氏の低迷の主因は歴史的といえる低投票率だが、「国民連合の敗北は、投票率だけでは説明できない」というのが評論家の見方だ。また、党の牙城で逆転されたことは次期大統領選で決選投票に進めても、結局「アンチルペン」連合が結成され決して大統領にはなれない、との絶望感も支持者には漂う。ルペン氏は、地域圏選挙直後の党大会で党首としての再選を果たしたが、仏メディアでは同党支持者の潜在的な不満を伝えている。

 マリーン・ルペン氏が2011年の党首就任後に推し進めてきたのは、党の近代化だった。「脱悪魔化」と称されるこの改革で、同氏はユーロ廃止や反ユダヤ主義という看板政策からの決別を行い、そして党名の変更などを主導してきた。こうした改革は、特に中道左右の政権に批判的な低所得層に支持を広げた半面、旧来の支持者からは「他の政党と変わらない」といった反発が根強い。政権奪取への選挙への勝利が固定支持層の離反を招くジレンマに陥っている。

◇「マクロン前」に回帰か

 地域圏選挙の結果で息を吹き返した感があるのが、右派の共和党だ。特に北部オードフランスで再選されたグザビエ・ベルトラン氏(正式には同党離脱中)は、世論調査でマクロン、ルペン両氏に迫る3番手につけるなど、有力候補に浮上している。同じくパリを含むイルドフランスで再選されたヴァレリー・ぺクレス氏(同)も候補の一人だ。今秋に予定される右派一本化が実現できるかどうかが焦点になる。

 ここに来て注目されているのが、評論家のエリック・ゼムール氏だ。歯に衣着せぬ極右的な主張が若年層を中心に人気を広げており、同氏は立候補こそ明言していないが、インタビューなどで前向きのニュアンスを打ち出している。国民連合が地域圏選挙で敗北した直後に支持者が同氏のポスターをパリ市内などに張った。一方、左派は有力な統一候補がなお見いだせない状況にある。

 いずれにせよ、これまでマクロン対ルペンという2017年の前回大統領選と同様の構図が予想されていたが、地域圏選挙を機に流動化の兆しが現れはじめた。

◇AfD、メルケル後継選びで蚊帳の外

 ドイツでも反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)にかつての勢いはみられない。

 ドイツ政治に詳しい森井裕一東京大学大学院教授によると、2017年の連邦議会選挙で野党第1党に躍進した時のような勢いはみられないという。発足以来路線対立を抱えてきたAfDだが、最近では「より極右に近い議員が党の主流」であり、「連邦議会では他党から完全に無視されているため政策実現の余地がなく、9月の選挙でも議席を伸ばす見通しはほぼない」と指摘する。

 ポスト・メルケル首相をめぐる争いはキリスト教民主党(CDU)のアルミン・ラシェット党首と緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同代表の2人に絞られつつあり、AfDが入り込む隙はないようだ。

◇内外に問題抱えるオルバン・ハンガリー首相

 他の欧州のポピュリストも、その多くは勢いを失っている。
 イタリアでは「反EU」を掲げて支持を拡大してきた極右政党「同盟」は、2月に発足したドラギ政権に加わっており、極右的な政策を実現する勢いに欠ける。オーストリアでも前回の総選挙で議席を減らした極右自由党が、政権から下野している。
 注目されるのがハンガリーのオルバン首相だ。メディア規制など強権的な手法で知られるが、議会与党の多数を背景に民族主義的色彩を強めている。一方、首都に誘致した中国系の大学が多く市民の反対運動に遭い、また性的少数者(LGBT)の権利を規制する同国の法案に欧州議会が「EU法令に反する」と決議するなど、内外に多くの問題を抱えている。

◇「権力に近づき失速」

 なぜ、欧州の極右・ポピュリストの勢いは頭打ち傾向にあるのだろうか。まず、彼らの攻撃対象だったEUが、単一通貨ユーロの採用など経済統合に近づきつつも政治統合につまずき、さらに英国の離脱、難民政策の失敗などにより弱体化。その目標が失われたことが挙げられる。また、最近のコロナ禍では多くのポピュリストと言われる政治家が政府の対策を批判して「マスク着用反対」と訴えたことなども支持を失う結果につながったといえよう。

 フランス政治に詳しい吉田徹同志社大学教授は、ルペン氏の不振について主要因は低投票率だとした上で、「RNの戦略は、トランプ前米大統領と同様、棄権者に訴え取り込み動員することで伸長してきた。今回はそれができなかった」と見る。

 また、欧州の極右政党の推移については、「権力を批判しながら権力の側に行ってしまった。そこで何かを変えられるかというと変えられない。そうすると期待して投票した人たちの期待に応えられない」と分析。「そこで過去のような勢いは無くなる。そこで民意の空白が生じ、それが今回の仏の地方選挙の低投票率に表れている」という。

 米中の世界規模の覇権争いが続く中で、日本では副次的な要素にとらえられがちな欧州の動向。とはいえ、欧州の民主勢力の動向に影響を与え続ける極右・ポピュリストの盛衰は今後の地政学上の展望を占う点で無視できない動きといえそうだ。』