原油高もうひとつの理由

原油高もうひとつの理由 「バイデンの米国」生産停滞
編集委員 志田富雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1908I0Z10C21A7000000/

『米原油先物は7月、期近取引が一時1バレル77㌦に接近し、6年半ぶりの高値を付けた。ワクチン接種が進んで人の動きが活発になり、ガソリンなどの石油需要が急回復してきたことが主因だ。石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどが協調減産の縮小で18日に合意したことは下げ材料となりそうだが、原油市場にはもうひとつ高値を支える変化がある。相場の急回復にもかかわらず米国の原油生産が以前のように増えなくなったことだ。

米エネルギー情報局(EIA)が毎週更新する石油統計によれば、世界最大の規模を持つ米国のガソリン需要は7月2日時点で日量1004万バレルに達した。季節や週ごとに振れのある統計だが、1000万バレルを超したのはこれが初めてだ。直近9日時点の4週平均で見ても948万バレル台とコロナ前の2019年7月の同時期と並んだ。

米国の接種率は足元で伸び悩み、インド型(デルタ型)感染拡大への警戒感も強まる。それでも米疾病対策センター(CDC)によると、18歳以上の成人で1回でも接種したのは21年7月1日時点で約1億7000万人と66%に達し、新規の感染者数は大幅に減少した。行動制限が緩和されて人の移動が増え、それがガソリン需要の急回復として表れている。

主要油種の中でも米原油相場の上昇は顕著だ。19年4月末には10㌦ほど上にあった中東産ドバイ原油の相場を抜く場面も出て、品質差を反映した本来の序列に戻りつつある。コロナ禍で急落する前に米国とイランの対立で急伸した20年1月の高値も65㌦台で、71㌦台まで下げた16日時点の相場の方が高い。

ところが、米国の原油生産は相場回復の割に小幅な増加にとどまる。EIAの統計によれば9日時点でようやく日量1140万バレルまで回復した。それでも米国で感染拡大が深刻になる前に1300万バレル強まで増えた水準に比べると150万バレル以上も少ない。新規開発を示す石油リグの稼働数にもかつての勢いはない。米石油サービス大手のベーカー・ヒューズ社が発表するリグ稼働数は16日時点で原油・天然ガスを合わせ484と、1000を超えていた19年春までの半分以下だ。

国内生産があまり増えず、輸入も拡大していないのでガソリンなどの需要拡大は米国内の原油在庫の減少につながった。EIAの統計で、20年6月に5億4000万バレルまで膨らんだ原油在庫(戦略石油備蓄を除く)は直近で4億4000万バレルを下回り、過去5年レンジの下限に近づいている。需給統計を見れば、米原油相場の上昇ピッチが中東産原油や欧州のブレント原油より速いのは当然と言える。

石油産業を後押ししたトランプ政権に代わり、環境を重視するバイデン政権が21年1月に誕生した変化は大きい。脱炭素への動きは世界の奔流となり、株主や金融機関の意識を変えた。高値になると生産が急拡大し、それが原油相場を急落させた過去の教訓も影響している。マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表は「こうした圧力が米国のタイムリーなシェール増産にブレーキをかけている」と考える。

環境重視の米バイデン政権が誕生した変化は大きい=ロイター

欧州エネルギー取引所(EEX)グループの高井裕之上席アドバイザーは「収益と配当を重視するようになった米国のシェール企業も相場上昇で生産増に動く気配はある。だが、現場の労働者や機材を確保できるかという問題もある」と話す。

このまま国内生産が大きく増えなければ早晩、米国内の需給は回復した石油需要によって逼迫する。脱炭素に力を入れても、すぐに100万バレル単位で需要を減らすのは至難の業だ。海外油種に比べ米国産原油の相場上昇が速いため、輸入増加や輸出減少につながることは考えられる。そうなると国際需給が引き締まる要因になる。

すでにガソリン価格は全米平均で1?3㌦を超えている。原油高の影響は物価や景気にとどまらない可能性もある。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は7日付のオピニオン面で「米国の(原油や天然ガスの)減産は、需要が急回復する中で世界の供給が削減されることを意味する。それは米国民の負担が増す中で、(米国と対立する)イランやロシアを利することにもなる」と指摘する。脱炭素の過程には複雑な要素がからみつく。』