「人権か自由貿易か」米国の対中規制、企業の対応難しく

「人権か自由貿易か」米国の対中規制、企業の対応難しく
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD11DGF0R10C21A6000000/

『米国が人権をキーワードに、対中国の規制を強めている。「ユニクロ」のシャツの差し止めで注目された輸入規制が拡大し、企業はサプライチェーンの見直し検討などの難題を抱える。ただ米国の動きは、自由貿易を前提とする国際ルールの例外だ。中国側も対抗措置を取り始めており、日本企業は米中双方の動きに目を配る必要がある。

米国、ウイグル関連で制裁拡大

米国務省など6省庁は13日、米政権がこれまで導入してきた新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由とする対中制裁を列挙し、関連する法令の順守を企業に促す勧告を出した。2020年7月の勧告を更新し高リスク分野の範囲を広げた。

米国は20年12月にウイグル産綿製品の一部を、21年1月には全てを輸入禁止。日本企業も「ユニクロ」製品が輸入を差し止められた。5月には中国の水産大手を、6月下旬には太陽光パネルに使うポリシリコンを扱う企業を一部輸入制限の対象とした。

これらの水際規制は、正式には「違反商品保留命令」といい、1930年関税法307条を根拠にする。強制労働により外国で生産された商品の輸入を制限する条項だ。2016年に適用範囲を拡大した改正法が施行されたほか、21年4月には民主党議員が当局の陣容を拡大するための予算措置を提案した。

6月には米商務省がポリシリコン部材を手掛ける中国の5社・団体への輸出規制もかけるなど、バイデン政権は強制労働を根拠とした規制執行を強化し続ける。

人権保護は重要だが、自由貿易の原則を曲げてまで、米国が規制を打ち出せる根拠はどこにあるのだろうか。

国際ルールの「例外」

関税貿易一般協定(GATT)11条1項は、輸出入の制限を原則禁じている。だが、例外が設けられており、上智大学の川瀬剛志教授は「強制労働による産品については、同20条の『公徳の保護のために必要な措置』と『刑務所労働の産品に関する措置』による例外規定が適用される可能性が高い」と説明する。「公徳」には人権が含まれる。「刑務所労働」は、犯罪を理由にしたものでなくても、自由を奪われた施設において労働が行われるのであれば該当するという。

とはいえ、例外として認められるには、米国に保護主義的な意図や中国を狙い撃ちする意図がないかという点をクリアする必要がある。ウイグル関連製品の禁輸措置については、「同様の強制労働や民族浄化が行われている他の国の製品についての対応が甘いとすれば、恣意的・不当な差別とみなされる可能性がある」(同教授)。

中国政府は現時点では、ウイグル関連の輸入規制について世界貿易機関(WTO)のパネルで争う姿勢は見せていない。だが仮に争われたら「WTOでは例外を認めるのは稀。輸入禁止措置が本当に人権保護という効果を生んでいるのかという点を厳しく精査するだろう」(経団連の森田清隆・統括主幹)という。

日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所の藪恭兵氏は「輸入を差し止められた企業側も個別に、米政府に不服を申し立てることは可能」と指摘する。強制労働で生産されたとされるステビアの粉末を輸入していた米国企業が罰金を命じられた件では、同社は当局と交渉し大幅減額にこぎつけた。

中国も対抗

米中の規制合戦は当初、国家安全保障を自由貿易原則への免責に使っていた。米国は「人権」は「安保」よりもさらに中国をたたきやすい道具とみているのかもしれないが、中国も変化球で対抗している。

6月に中国で施行された「反外国制裁法」は、中国企業に対する外国の差別的措置に協力することを禁止。「違反した場合は、外国企業であっても損害賠償請求の対象になるリスクがある」(石本茂彦弁護士)。

宇賀神崇弁護士は「日本企業は『踏み絵』を迫られている」と指摘する。米中の溝が深まり続ける以上、どちらかの国の規制に牴触する事態は生じうる。企業はいざとなったら平場で自らの行為の正当性を主張し、規制の矛盾を争うぐらいの心構え、準備が必要だ。また、国際的な政治問題に発展している以上、政府も企業単位では収集しきれない情報を提供するなどして日本企業を後方支援すべきだろう。

(編集委員 瀬川奈都子)』