防衛白書、台湾有事の尖閣波及を警戒 島しょ防衛強化

防衛白書、台湾有事の尖閣波及を警戒 島しょ防衛強化
「台湾の安定重要」初明記
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA09BCT0Z00C21A7000000/

『防衛省は13日に公表した2021年版の防衛白書で、台湾情勢の安定が日本の安全保障に重要だと初めて明記した。台湾有事になれば170キロしか離れていない沖縄県・尖閣諸島の防衛に波及しかねないと警戒する。従来と比べ、具体的な「日本の守り」への言及に力点を置いたのもそのためだ。

台湾情勢について「わが国としても一層緊張感を持って注視していく必要がある」と指摘した。20年版で中国と台湾の軍事力の動向を「注目していく必要がある」などとしていた表現を強めた。

中台衝突が起きて米軍が参戦すれば日本も影響は避けられない。集団的自衛権を行使し、邦人を救出する米艦を防護したり、米軍基地を狙うミサイルを迎撃したりする必要が生じる。政府・与党内で「台湾有事は日本有事と一体だ」との見方が広がる。

台湾から近い沖縄県・与那国島や尖閣諸島は台湾有事の際に戦域になりかねない。尖閣などが巻き込まれれば武力攻撃事態となり日米で離島防衛にあたることになる。

戦後、日本の防衛は旧ソ連の抑止が主題だった。防衛白書も旧ソ連による着上陸侵攻を見据えた対応に記述を割いた。冷戦後は国連平和維持活動(PKO)など自衛隊の国際協力や災害派遣の紹介に重点を置いた。

10年代は北朝鮮の核ミサイルの脅威に焦点を当ててきたが、潜在的な懸念の対象は中国だった。

これまでも尖閣周辺での活動に懸念を示す表現は毎回盛ってきたが、今回はより具体的な国土防衛への言及を前面に打ち出した点で異なる。

島しょ防衛はその一例だ。中国に近い南西諸島を念頭に、攻めてくる相手の攻撃圏外から発射できる国産の長射程ミサイルを開発する計画を挙げた。陸上自衛隊が運用する「12式地対艦誘導弾」の射程を伸ばす。敵艦を離島に近づきにくくし、相手の攻撃を抑止する。

地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画停止と、代替となる艦船導入も記載した。地上配備は北朝鮮からのミサイル対処が目的だったものの、海上で運用すれば南西諸島防衛にも活用できる。

明確な武力攻撃ではないグレーゾーン事態への対処にも紙幅を割いた。相手が武力攻撃にあたらない範囲で現状変更を試みてくる可能性に触れた。中国が海軍ではなく海警局を使って尖閣諸島に上陸してくる事態などを想定しているとみられる。

グレーゾーン事態が長引けば「明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらむ」とも訴えた。武装した工作員に対処するため警察との共同訓練の必要性に触れたコラムも載せた。

今回初めて米中関係に関する項目を設けた。米中対立が激しくなれば日本も無関係でいられないとの認識を映す。人工知能(AI)など先端技術を巡る競争も一層激しくなると予測した。

中国は00年以降、急激な軍拡で戦闘機やミサイルを増やす。東アジアに限ると中国の優勢は明らかだ。大量の対艦弾道ミサイルなどを配備し、米軍が中国近海まで近寄れない戦略をとる。

米中対立の文脈で尖閣諸島の問題に言及したのも従来の白書にない特徴といえる。米軍の対日防衛義務が尖閣諸島に及ぶと重ねて表明する米国に、中国が「強く反発している」と触れた。

尖閣問題を初めて単独のコラムとして取り上げた。尖閣周辺で領海侵入を繰り返す中国海警局の船の活動を「そもそも国際法違反」と断じた。過去の白書では国際法上の評価は触れず「全く容認できない」などと記しただけだった。

海警局を準軍事組織と位置づけた2月施行の海警法も「国際法との整合性の観点から問題がある」と明確に指摘した。一連の表現からは尖閣周辺での海警局の船の活動がグレーゾーン事態や有事に発展しかねないとの危機感がにじむ。

防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画は18年の策定から2年半たつ。防衛白書が記すように、この間の東アジアの安保環境の変化は激しい。台湾や尖閣有事を抑止するためにも防衛力強化の不断の見直しが不可欠となる。

(安全保障エディター 甲原潤之介)

防衛費、GDP1%枠超も視野 中国への抑止力に
防衛白書は9年連続増となった2021年度の防衛関係費も説明した。22年度も増額傾向は続く見通しで、国内総生産(GDP)比で1%以内としてきた目安を超える可能性がある。岸信夫防衛相は1%にこだわらず予算要求する方針だ。

中国が急ピッチで軍備強化を進め、このままでは東アジアで日米と中国の軍事力の差が一層開きかねない。防衛省は日米が連携して防衛力を高めることが中国への抑止力となり、台湾や沖縄周辺での紛争回避につながるとみる。

白書によると20年度の日本の防衛費はGDP比で0.94%となり19年度の0.90%からわずかに上昇した。3%超の米国とロシア、2%超の韓国、オーストラリア、フランスと比べ差は大きい。白書は主要国と比較し「対GDP比は最も低い」と指摘した。

防衛省は予算を増やして離島防衛能力の向上を狙う。島で敵の上陸を阻止する「水陸機動団」の拡充や、装備品や弾薬、食料を運ぶ海上輸送部隊の新設を計画。護衛艦などの新造にも充てる。

東アジアでの中国の軍事的優位が強まるほど、中国と対峙する東シナ海での防衛力強化が重要になる。静音性の高い潜水艦といった日本が優位性を持つ技術への投資も不可欠だ。
現在より探知能力に優れた潜水艦用ソナー開発や、日本周辺の浅い海域を航行する潜水艦の動きを捕捉するためのレーダー、上空から監視する哨戒機やヘリコプターなどの性能向上にも取り組む。

対空戦闘力では最新鋭ステルス戦闘機「F35A」や艦艇からの飛行が可能な「F35B」の購入を進める。現在の主力戦闘機「F15」も電子戦に対応するよう改修する。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員

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分析・考察 防衛白書で指摘する一連の中国の拡張姿勢が、直接に日本の生存への脅威となっている状況が明確になり、その意識を米国だけでなく欧州諸国など広く国際社会が共有するようになっているにも関わらず、日本の防衛関係費がGDP比で1%レベルと群を抜いて低いことは、同盟国の米国だけでなく、国際社会からも疑問視されるようになっています。日本自身の防衛努力が地域と世界の安定に貢献し、逆にそれを怠ることは責任を果たさない態度と認識されるという現実を、今回の防衛白書は指摘しているのだと思います。
2021年7月14日 7:40いいね
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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授

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分析・考察 「日米が連携して防衛力を高めることが中国への抑止力となり、台湾や沖縄周辺での紛争回避につながる」ここが大事だと思います。抑止とは、戦争が起こる前にそれを防ぐことです。日本が防衛努力をすることは、戦争の可能性を高めるのではなく、低めるのだということを、国民にしっかり理解してもらう必要があります。日本周辺での武力紛争の可能性が高まっているからこそ、抑止を考える必要がある。そのために効果的な防衛費の使い方とはどのようなことなのか、を議論する必要があります。
2021年7月14日 12:34いいね
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