バイデン米大統領のアキレス腱とは?

バイデン米大統領のアキレス腱とは? メキシコ国境地帯をゆく
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210712/k10013134171000.html?utm_int=news_contents_tokushu_007

『就任からまもなく半年となるアメリカのバイデン大統領。外交政策ではトランプ前政権からの転換をアピールしているが、国内に目を向けると苦戦している課題も多い。その1つが中米などからの移民の受け入れ政策だ。「移民に寛容なはずだ」という過度な期待が過去最大級の不法移民の流入を発生させている。その数はことし5月には18万人を突破。1か月としては過去20年で最多の人数だ。そうした「敵失」に乗じるかのようにトランプ前大統領は早速、国境地帯に乗り込んだ。米南部テキサス州のメキシコとの国境地帯を取材した。(ロサンゼルス支局長 及川順)

深夜の渡河現場を見た

アメリカとメキシコの国境を流れるリオグランデ川。その川岸にある人口わずか1万人ほどの町、テキサス州ローマを訪れたのは6月上旬だった。

深夜、地元の教会の牧師に案内されてリオグランデ川に着いた。対岸のメキシコ側までは目測でわずか100メートルほど。川幅の狭いここは、川沿いにいくつもある渡河ポイントの1つだという。

リオグランデ川を渡る人々

夜11時を過ぎると20人ほどの移民を乗せたゴムボートが次々に渡ってきた。ゴムボートは、不法移民の斡旋業者に雇われたとみられる少年が、ひざか腰あたりまで水につかって手で引っ張ってくる。

この夜に川を渡ってきた移民は300人以上。彼らの出身国は、何千キロも離れた中米のホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ、中には南米のペルーから来た人もいた。

ここまで来た理由をスペイン語で聞くと、自国での追い詰められた状況が、彼らの決断の要因だったことがうかがえた。

ペルーからの移民

「ペルーは犯罪と貧困がひどいので来ました。長くて厳しい旅が終わって家族ともども安心しています」

子どもだけの危険な旅

ショッキングだったのは、子どもだけの移民が多くいたことだ。中学生、高校生ぐらいが多かったが、中には、エルサルバドルから来たわずか10歳の少女もいた。

バイデン政権は、不法移民は受け入れないとしながらも、未成年だけで来た場合は人道的な観点から保護することを表明している。このため、子どもだけでもアメリカで暮らしてほしいと願う親たちが単独で国境に向かわせるケースが増えているという。子どもたちは「アメリカで仕事をして、お母さんを助けたい」などと話していた。

リオグランデ川を渡った子どもたち

しかし、こうした子どもたちを保護する当局の態勢作りは追いつかず、保護施設は劣悪な環境にあるとして、メディアや支援団体などから批判を受けている。

一方で、川を渡るためのゴムボートを引っ張ってきたのも高校生ぐらいの子どもたち。教育を受ける機会も与えられず、貧困にも苦しんでいる結果、不法移民の斡旋業者の仕事をするしかなかったのだろう。

子どもたちが危険な状況にさらされていることに心が痛んだ。

国境を越えても逮捕されず

こうした現場にはアメリカ政府の国境警備当局が待機している。国境の川を渡ってくることは違法ではないかと思ったが、移民たちは逮捕されないし、メキシコ側に追い返されることもない。

メキシコ側には彼らを保護できる施設がないという事情もあるようだが、彼らにはアメリカで難民申請を行う権利がある。このため、国境警備当局は、彼らがその権利を行使できるようにしているのだ。

移民であふれるNGOのシェルター

難民申請という合法的な手段でのアメリカ滞在を目指す彼らは、審査期間中は、アメリカ国内にいる親戚の家に滞在したり、NGOが運営するシェルター(一時保護施設)に入ったりすることになる。私が訪れた教会運営のシェルターには毎日500人以上が入所しているとのことだった。

住民の不安は募る

しかし、移民の中には難民申請という合法的な手段をとらず、国境を越えた後、いわば雲隠れをして不法に滞在する人も増えている。こうした動きに国境付近に住む住民たちは不安を募らせる。

不法移民の乗った車が警察とカーチェイスになり、農場が荒らされる事態も発生した。

農場経営者のリチャード・ゲラさんは、農場のフェンスが壊されたという。

リチャード・ゲラさん
「不法移民がフェンスを壊してここを通り抜けていきます。家畜が高速道路に出たらとても危険です。川を渡ってアメリカの土地に足を踏み入れるのは不法侵入だと思います。政府は全く機能していません」

「トランプの壁」復活?

ゲラさんのように不安を募らせる住民たちは政治的行動を起こした。共和党のアボット・テキサス州知事に規制強化を要請したのだ。

こうした動きも功を奏してか、テキサス州では6月、不法入国あっせん業者への罰則強化の新法が成立。州レベルではすでに法律が変わるところまで問題は大きくなっている。

そして、バイデン政権のいわば「敵失」に乗じるかのように存在感を高めているのがトランプ前大統領だ。6月下旬にはアボット州知事とともに国境地帯を訪れた。

国境の壁の前で演説するトランプ前大統領(6月30日)

トランプ前大統領

「バイデン氏の失策を最も象徴しているのは国境の大惨事だ。私が退任した時、アメリカの国境は史上最も厳重だった」

アボット州知事もトランプ前大統領に触発されたのか、メキシコとの国境に独自に壁を建設する方針を発表。野党・共和党はバイデン政権に対する批判を強める一方だ。

バイデン政権の「オウンゴール」

記者会見するハリス副大統領(グアテマラにて)

対するバイデン大統領は、移民2世のハリス副大統領を対策の責任者に任命。ハリス副大統領はメキシコとグアテマラを訪問し移民増加の背景にある貧困問題などへの支援を表明した。

ところが、グアテマラの記者会見でのこの発言が波紋を呼んだ。

ハリス副大統領

「国境を越えようと考えている人たちにはっきりと言っておきたい。来ないでほしい。来ないでほしい」

バイデン政権は移民に寛容なはずでは…

バイデン政権は移民の受け入れに寛容なはずではなかったのか。

ハリス副大統領の発言は、与党・民主党を支持する人、特にリベラル色が強い人の反発を招き、アメリカのメディアは政治的なスタンスにかかわらず、各社が大きく取り上げた。
左のリベラル、右の保守、両方からの批判に板挟みなのがバイデン政権の移民政策だ。バイデン政権は、中米諸国への支援強化で移民の流入を減らす方針だが、各国の経済状況や治安情勢の改善は一朝一夕にできるはずもない。

移民をめぐる問題は政権運営上のアキレス腱にもなりかねない。 』