EU、エンジン車に引導 自動車各社は戦略見直し不可避

EU、エンジン車に引導 自動車各社は戦略見直し不可避
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1402W0U1A710C2000000/

『【フランクフルト=深尾幸生】欧州連合(EU)の欧州委員会が2035年にハイブリッド車を含むガソリン・ディーゼル車の販売を事実上禁止する。背景には50年に域内の温暖化ガスを実質ゼロにするためには、その時点ですでに市場にあるすべての車両からの温暖化ガス排出を極力ゼロにする必要があるからだ。短期間でのエンジン車から電気自動車(EV)などへの移行を求められ、自動車各社は戦略の見直しが避けられない。

欧州委が打ち出したのは厳密には内燃エンジンを搭載する車の禁止ではなく、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出をゼロとする「ゼロエミッション」の義務付けだ。だが、EU高官は「CO2を排出しない内燃エンジンを発明すればもちろん使えるが、基本的にはすべてが電気モーター駆動に切り替わるだろう」と語るなど、エンジン車に引導を渡すことにほかならない。

欧州委が自動車の脱炭素を急ぐ背景には「ストック」という概念がある。自動車の保有年数は15年前後。新車については35年ごろにはCO2の排出をゼロにしなければ、50年に中古車を含めたゼロエミッションを実現できないからだ。

現実には、新車販売の過半と世界で最もEV化が進んでいるノルウェーですら、全保有台数に占めるEVの比率はまだ14%にとどまる。

新型コロナウイルス禍前の19年のEUの新車販売台数は約1300万台だった。英国などを含む欧州1600万台の市場からエンジン車が締め出される。100年以上にわたりエンジンを中心に回ってきた自動車産業を根本から変えるだけに、消費者やサプライチェーン、雇用への影響は大きい。

独フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長は13日、「禁止への備えはできているが相当厳しい。電池生産の急激な立ち上げが必要になる」と述べた。VWは30年に欧州で新車販売の6割をEVにする計画で、30年までに6つの電池工場を新設する。

独メルセデス・ベンツはこれまで30年にEVとプラグで充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)の合計で新車販売の5割としていた。近くEV比率の引き上げを発表する見通しだ。仏ルノーはすでに6月末にハイブリッド車とEVの合計で30年に欧州の9割としていたのを、EVだけで9割に修正した。

欧州委は30年のCO2規制についても厳格化する。走行1キロメートルあたりのCO2排出量を21年比で55%削減を義務付ける。燃費に換算すると、ガソリン1リットルあたり54キロメートルとかなり厳しい水準だ。

トヨタ自動車は5月に30年の欧州新車販売に占めるEVの比率を40%にする計画を発表したばかり。この計画は同年の削減幅が50%になることを前提にしていた。30年55%減、35年100%減の欧州委案で、移行のスピードアップが求められる。

ハイブリッド車がようやく浸透してきてシェアが高まっているなかでの急激な政策転換は痛手で、英国とポーランドに持つエンジンや変速機の工場への影響も避けられない。

欧州自動車工業会(ACEA)によると、20年のEUの新車販売に占めるEV比率は5%。オランダの21%を筆頭にスウェーデンが10%、独仏が7%とけん引する。一方、ギリシャやポーランドは1%にも満たず、東欧や南欧の多くの国が2%以下にとどまる。

「鶏と卵」のように、充電インフラは7割が独仏オランダの3カ国に集中している。地域間の格差は、欧州委案を法制化するための欧州議会や加盟国の審議・調整の障害となる可能性がある。

欧州委はこうした状況を是正すべく、主要な幹線道路の60キロメートルごとに急速充電設備の設置を義務付けるなどの方策も新パッケージに盛り込んだ。30年までに官民で150億ユーロ(約2兆円)の投資を見込む。

並行してCO2排出の少ない電池生産や電池リサイクルのための法制も整備する。EU高官は「我々がクリーンな車を作らなければ中国から輸入することになる。誰かがクリーンな車を作って世界のほかの地域に売ることになるのだから、EUは最初にそれをする地域になるべきだ」と語った。』