[FT]台湾、香港を逃れた民主活動家への対応に苦慮

[FT]台湾、香港を逃れた民主活動家への対応に苦慮
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『台湾に移住した香港の民主活動家たちが、移住先で身動きが取れずにいる。中国が対外的に強硬姿勢を強めるなかで、台湾の民主的な統治を守るための様々な制約に縛られている。

香港の民主化を求めて台北で行われた集会で旗を振る香港人の参加者=AP
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、中国政府による香港での反政府活動の弾圧を逃れてきた活動家を受け入れた。しかし移住者の多くは思い通りの新生活を築くことができず、失望している。

「蔡氏の活動家へのレトリックは非常に前向きだ」と、米ハーバード大で台湾と香港の政治的抗議運動を研究するポスドク(博士研究員)のレブ・ナックマン氏は述べた。「しかし、その言葉と政府の支援の間には断絶がある」

2020年5月に蔡氏は、香港国家安全維持法(国安法)が施行されたら「香港市民に必要な支援を行う」と明言し、「解決策は銃弾ではなく、自由と民主主義を真に実行することだ」と述べた。

しかし同氏は香港の活動家に永住権や市民権獲得への道を開く難民・政治亡命制度の導入を求める声に抵抗している。ナックマン氏は「中国との間でトラブルを引き起こす」ことを警戒していると指摘した。

中国人民解放軍の軍事力増強に直面する台湾は、中国共産党への反対勢力の前哨基地となって中国を挑発することを懸念している。

20年7月に船で台湾に不法に渡航した5人の活動家は、6カ月間軍の基地で目立たないように過ごした後、人道的見地から米国への入国が認められた。

「台湾が香港市民を助けてきたことは否定できない」と、台北にある銅鑼湾書店の店主で、15年に中国政府の工作員に拉致された林栄基氏は話した。同氏は19年に香港で犯罪容疑者の本土への引き渡しを認める条例案が提出された後、香港を逃れた。「問題はもっと支援できるかどうかだ」

台湾に逃れた香港人にもっとできることがあるのではないかと考える林栄基氏=ロイター
21年1〜5月に台湾当局は4000件近い香港市民からの一時滞在許可申請を認めた。件数は前年同期比44%増加した。

「経済的に恵まれた香港市民は台湾に移住しやすい。しかしより差し迫った状況にあるのは抗議活動の参加者で、その多くは若い学生だ」とナックマン氏は指摘した。

正式な難民申請手続きが存在しないため、多くの香港市民は台湾で短期滞在ビザを切り替え続ける必要があり、安定した仕事を見つけにくい。

台北のシンクタンク「経済民主連合」の江旻諺(ジャン・ミンヤン)研究員は、「永住権や市民権を得られなければ、香港からの移住者は台湾の一員だと感じることはできない」と話した。

移住者の代理としてロビー活動を行う支援者は、台湾のビザ制度が弾圧を逃れてきた人々を失望させていると指摘する。香港からの移住者が就労ビザを取得するには台湾の最低賃金の2倍の月収を得られる仕事を見つける必要がある。民主化運動参加者の大半を占める若い労働者階級がこの条件を満たすのは難しい。

台湾で対中国大陸政策を担う行政院(内閣)大陸委員会の邱垂正・副主任委員(副大臣級)は、フィナンシャル・タイムズ紙に対し、在留許可申請を一つ一つ審査しており、酌量すべき状況があれば追加支援を行うと述べた。

国安法が施行された1カ月後の20年7月、台湾は香港市民への人道支援を調整する専門の部門を開設した。香港から逃れてきた活動家に財政面や心身の健康に関する支援を提供している。

香港から台湾に移住した人に仕事の機会を提供している台北のレストラン・イージスで食事をする人々=ロイター

中国国務院(政府)台湾事務弁公室は、蔡氏の活動家に対する支援を、台湾と香港の独立運動を後押しする「分離主義的謀略」の一部だと批判している。中国は台湾を自国の一部だとみなし、台湾が正式に独立しようとすれば軍事攻撃を行うと警告している。

台湾では、香港からの移住者の急増に伴い、香港の民主化運動に入り込んだ中国政府の工作員が台湾にも入ってくるのではないかという懸念も強まっている。

「台湾は中国に関するあらゆることに非常に神経質だ」と国安法施行後に香港から台湾に移住したサイモン(仮名)さんは話した。

サイモンさんは退職した母親の滞在許可申請の結果を1年以上待っている。母親は中国本土の企業に買収されたテクノロジー企業に勤務した経験があり、台湾当局がこの情報を得て以降、審査が止まっている。

香港市民の台湾での在留許可申請を手伝う団体を運営する弁護士の桑普(サン・プー)氏は、中国本土企業の傘下にある会社に勤務していた人からの申請が却下されていると話した。

邱氏は当局の慎重な姿勢を擁護した。「香港は変わった。今は中国共産党の支配下にある。そのため、香港からの移民への緩い政策を利用して中国の工作員が台湾に入り込む可能性を排除しなければならない」

香港との関係が悪化し続けるなか、台湾当局は香港にある代表部が閉鎖された場合に備えて緊急時の対策を立て始めている。台湾は香港に特別な地位を付与し、中国本土の市民より香港市民の台湾への移住を容易にしてきたが、民主活動家は蔡氏がこの地位を取り消すのではないかと懸念している。

「台湾の香港への扉は徐々に閉じつつある」と桑氏は話した。「閉じてしまう前に、台北は民主主義の支持者が入ってこられるようにすべきだ」

By Eleanor Olcott in Taipei

(2021年7月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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