排ガス巡るカルテル 欧州当局、技術擦り合わせにもメス

排ガス巡るカルテル 欧州当局、技術擦り合わせにもメス
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC094OG0Z00C21A7000000/

『欧州連合(EU)の欧州委員会が、排ガスの浄化技術を巡るカルテルを認め、独自動車大手に巨額の制裁金を命じた。環境問題を重視する欧州当局が、価格調整などを取り締まってきた競争法(独禁法)を、技術の擦り合わせにも適用する厳しい姿勢をみせた。メーカーからは「技術開発は限界」との声も上がる。

「あらゆるカルテルに行動」
欧州委が問題視したのは、フォルクスワーゲン(VW)とVW傘下のポルシェとアウディ、BMW、ダイムラーの5社。制裁金の総額は計8億7500万ユーロ(約1140億円)で、VWがグループとして約5億ユーロ、BMWに約3億7千万ユーロが科された。

ダイムラーはカルテルの存在を欧州委に明かし、制裁金を免除された。

欧州委によると、5社は2009年から14年にかけて定期的に会合し、有害な排ガスを浄化する高い技術があるにもかかわらず利用を控えるよう合わせたという。競争激化を避ける狙いとみられる。

今回のカルテルは、15年に問題化したVWの排ガス不正に関連して欧州当局が着手した調査が発端となり、新たに発覚した。

欧州委によるカルテルの摘発は従来、製品の価格や数量などの不当な調整を対象とすることが多かった。今回のように技術の導入を巡って競争法違反に問うのは珍しい。

欧州委のベステアー上級副委員長(競争政策担当)は「グリーンディールの目標達成には排ガス浄化に関する競争とイノベーションが不可欠。今回の決定はあらゆるカルテルに、行動を起こすことを示す」と強調した。

世界の競争政策に詳しい弁護士は「SDGs(持続可能な開発目標)などが世界的なテーマとなるなか、各国の競争当局に価格以外の競争条件も重視する傾向が出ている」と指摘している。

「欧州委は独禁法の未知の領域に踏み込んだ」。BMWは8日の声明で不満をもらした。制裁金の支払いには合意したが「実際に車両に搭載した排ガス浄化用の尿素タンクは、談合で決めたサイズよりも大きい」と主張。会合で話し合った内容は、製品には反映しなかったと反論した。現地メディアによるとVWも同様の主張をしている。

環境規制に苦しむメーカー
EUの環境規制は世界で最も厳しいともいわれ、メーカー側は対応に苦しむ。20年から21年にかけては段階的に、新たな二酸化炭素(CO2)規制を導入。域内で販売する新車(乗用車)1台のCO2排出量を巡り、全社平均で走行1キロメートルあたり95グラム以下に抑えるよう義務付けた。VWは1月、同社の規制値をわずかに超過し1億5千万ユーロ前後の罰金を支払う見通しを発表した。

欧州の排ガス規制は25年には21年の目標に比べて15%減、30年以降は一段と厳しくなる見通しだ。「ガソリン車の燃費改善だけでの規制対応は限界」(日本の大手メーカー幹部)との声も出る。

VWは30年に欧州新車の6割を電気自動車(EV)にする計画など、各社はEVシフトで対応を図る。だがEVへの規制も厳しい。欧州委はEVなどの電池の生産への環境規制案を公表。24年7月からは製造から廃棄までのCO2排出量の報告を義務付け、27年7月には排出上限を定める。VWは電池などEVに数兆円の投資を進めるとみられる。規制対応も含め、各社への負担は重い。

(大本幸宏、フランクフルト=深尾幸生、デジタル政策エディター 八十島綾平)』