熱海土石流、盛り土工事に是正命令なく

熱海土石流、盛り土工事に是正命令なく 住民に疑問の声
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『静岡県熱海市の土石流を巡り、事業者による不適切な「盛り土」造成が問題化する中、行政側の対応にも住民から疑問の声が上がっている。県や市は造成に関わった事業者を少なくとも5回指導していたが、工事完了までに、より強く是正を求める命令は出していなかった。一連の経緯について行政の検証が求められる。

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「なぜこんな危険な場所に造成されたのか明らかにしてほしい」。被災者の避難所となった熱海市のホテルに身を寄せる40代女性は8日、厳しい表情で語った。

県によると、土石流の起点周辺の土地を神奈川県小田原市の不動産会社(清算)が取得したのは2006年9月。同社は07年3月、約0.9ヘクタールに約3万6千立方メートルの建設残土を使って盛り土を造成するという内容を熱海市に届け出た。県の土採取等規制条例では、1ヘクタール未満の土砂の盛り土や掘削の規制権限は市にあった。

しかし市からの連絡を受けた県が07年4月に現地調査したところ、盛り土の面積が条例で規定する1ヘクタールを超えていたことが判明。開発の中止と森林の復旧を文書で指導したところ、盛り土の面積を減らしたことを08年8月に確認した。09年にも防災措置と盛り土の面積の計算について、市による指導があったという。

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10年8月には土砂への産業廃棄物の混入が発覚し、県が撤去するよう指導。さらに土砂中に木くずの混入も確認され、市は同9月に工事中止を求めた。だが同社が従わなかったため、翌10月に土砂搬入の中止を指導したところ、同社は土地を11年2月に土地を売却。抜本的な対策は取られないままだった。

県条例には、盛られた土砂の崩壊や流出によって災害が発生する恐れがある場合、防止措置を取るよう事業者に命令できる規定がある。指導に従わなくても罰則はないが、命令に違反した場合は20万円以下の罰金が科される。しかし現場で造成が進められた07~10年の間に命令は出されなかった。

行政側は複数回、現地の状況を確認していた。難波喬司副知事はこれまでの記者会見で「現場は人目につきにくく、簡単には行けない」と説明。「行政の責任が問われる可能性があるかと思う」とも述べた。

一方、同条例は、造成後に災害防止対策が必要と判断された場合は工事完了日から2年間、同様に防止措置を取るよう事業者へ命令できると定めている。造成を終えた後の行政指導や命令の有無について、県は「確認中」としている。

県の推定によると、現場には届け出の約1.5倍にあたる約5万4千立方メートルの盛り土があり、大半が崩落したとみられる。下流域の被害を甚大化させた大きな要因とみられているほか、土石流の起点となった可能性も指摘されている。

県や市は、なぜ行政が業者側に防止措置をとるよう命令を出さなかったのかや、造成の経緯について確認を進めている。

近畿大の河井克之教授(地盤工学)は「造成現場を行政側が頻繁に監視するのはマンパワーや専門知識が十分でなく容易ではない。事業許可を出すかどうかという計画段階で厳しくチェックし、不適切な施工を規制するのが有効だ」と話した。』