大統領暗殺のハイチ、混乱深まる

大統領暗殺のハイチ、混乱深まる 9月大統領選へ暗雲
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『【メキシコシティ=宮本英威】カリブ海の島国ハイチの混乱が深まっている。7日未明にモイーズ大統領が自宅で武装集団によって暗殺され、ジョゼフ暫定首相は国家非常事態を宣言した。大統領任期をめぐって年初から与野党が対立する中で殺人事件が発生し、9月に迫る大統領選の行方にも暗雲が漂っている。

「米麻薬取締局(DEA)の作戦だ」。武装集団は現地時間7日午前1時(日本時間同午後2時)頃、DEAの職員を装って、首都ポルトープランス郊外のモイーズ氏の自宅を襲った。モイーズ氏は53歳で亡くなった。妻も銃撃されて負傷しており、米マイアミの病院に搬送された。

暗殺されたハイチのモイーズ大統領(2019年8月、ポルトープランス)=AP

警察当局は7日夜、銃撃戦の末に容疑者4人を射殺し、2人を拘束した。武装集団の背景は伝わっていないが、外国の雇い兵との見方も出ている。

ジョゼフ暫定首相は同日、犯人の行為を批判したうえで「国の治安は警察と軍によってコントロールされている」と語った。「民主主義は勝利する」とも述べて、国民に対して冷静な対応を呼びかけた。

モイーズ氏はバナナ輸出業者から転身して、2017年2月に大統領に就任した。大統領の任期は5年。米メディアの報道によると、任期の4年が経過以降に大統領が空位となった場合、議会が臨時の大統領を選出する仕組みだ。ただ議会の機能は現在停止しており、選出は容易でなさそうだ。政治空白は長引く可能性がある。

国際社会からは暗殺を非難する声明が相次いだ。国連のグテレス事務総長はツイッターへの投稿で「暗殺を最も強い言葉で非難する」と指摘した。8日には安保理緊急会合を開く。バイデン米大統領は犯人を非難したうえで「ハイチの安全を確保するために支援する準備がある」との声明を公表した。

ハイチでは政治混乱が続いていた。2月にはモイーズ氏の殺害を計画していたとして国家警察幹部らを含む23人が逮捕された。モイーズ氏の退任を求めるデモが大規模化して、混乱の中で死者も出た。

9月26日には大統領選が予定されている。16年には自然災害で投票日が延期になっており、今回も日程に何らかの影響が出る可能性がある。

与野党の対立が激化したのも前回の大統領選の結果に関係している。モイーズ氏は15年10月の選挙で勝利したが、不正疑惑から選管が結果を取り消す事態となった。16年11月の再選挙でもモイーズ氏は勝利し、17年2月に就任した。

モイーズ氏は22年2月までの5年間の任期を主張してきたが、野党側は前大統領の任期が満了した16年2月を起点に、21年2月の退任を求めていた。

モイーズ氏は大統領権限を相次いで行使することで政策を進めており、強権的な姿勢には国内に反発があった。ハイチでは1957~86年までフランソワ・デュバリエ氏とその息子のジャンクロード氏が軍事独裁を敷いてきた過去がある。

世界銀行によると、ハイチの人口は19年時点で1126万人。1人当たり国民総所得(GNI)は1330ドルと、貧困国として知られる。10年の大地震では30万人以上の死者が出て、16年には大型ハリケーン「マシュー」で1000人以上が亡くなった。新型コロナウイルスも重荷になっている。』