米中分断、危うい増幅 中国が海外上場の規制強化

米中分断、危うい増幅 中国が海外上場の規制強化
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB074B70X00C21A7000000/

『米中のデカップリング(分断)が貿易や技術からマネーに及んできた。中国政府は6日、海外上場の規制強化策を発表し、米国に上場する中国テック株は軒並み下落する展開となった。米中対立は制御できるかわからないまま、危うさを増す。経済の相互依存度が高い分、傷口を広げるリスクがある。』

『米中関係は、トランプ前政権下で相互に追加関税を科す貿易戦争が始まり、近年は香港や新疆ウイグル自治区の人権問題などを巡って悪化が続く。バイデン政権誕生後も関係改善の兆しが乏しい。

6日の米国市場で、週末にアプリのダウンロード停止を命じられた中国配車アプリ最大手、滴滴出行(ディディ)株は前週末比で20%、電子商取引大手のアリババ集団株は3%下落した。両社は7日も続落で始まった。

【関連記事】
・中国、海外上場の規制強化 データ越境を警戒
・米中、資本市場でも分断 中国が海外上場を規制

習近平(シー・ジンピン)指導部が海外上場の規制強化に動いた理由のひとつが、米国で昨年成立した「外国企業説明責任法」だ。中国企業を担当する中国の監査法人が米当局による検査を受け入れなければ、上場廃止となる厳しい内容だ。

さらに、バイデン政権は6月に従来の軍事企業に加えて監視技術を提供する中国企業も、米国人による株式投資の禁止対象にした。トランプ前政権からの対中強硬姿勢継続を鮮明にしている。

習指導部の今回の決定は、マネーの面でも対中締め付けを図る米国への意趣返しの側面もある。2021年の中国企業の米新規株式公開(IPO)は過去最高ペースだったが、今後の減少は必至だ。未上場の中国企業に投資する米企業や投資ファンドによる資金回収や上場利益の確保のハードルは上がる。

国内では、国民の移動や購買履歴などのビッグデータを握るテック大手への統制を一段と強める。

米国に上場するネット通販で中国トップを争うアリババと拼多多(ピンドゥオドゥオ)が約8億人、京東集団(JDドットコム)も約5億人の利用者を抱える。「中国版ツイッター」の微博(ウェイボ)は5億人以上の利用者を抱え、政府高官や企業経営者らがアカウントを保有する。

6月には、国家安全の観点からデータ統制を強化する「データ安全法(データセキュリティー法)」を成立させており、9月に施行する予定だ。

冷戦時代の米ソ対立ではヒト、モノ、カネの往来が制限されていた。現在の米中対立は経済面での相互依存が強い分、決定的な対立には発展しにくいとの楽観論もあった。実際には、貿易、技術や人権問題に加え、米中の分断はマネーにまで及んだ。

米調査会社ローディアム・グループの推計によると、米国から中国への証券投資総額(資本と負債の合計)は公式の統計よりも大きい1.2兆ドル(約130兆円)、中国から米国は2.1兆ドルに達する。対立に歯止めがかからなければ、双方への打撃は一段と大きくなる。

米国の投資家にとって懸念されるのが、海外に上場する中国企業の多くが規制を回避するため採用する「変動持ち分事業体(VIE)」と呼ぶ仕組みだ。VIEでは投資家は企業の株式を直接保有するのではなく、契約を通じて株主と同等の権利を得る。中国の法律上あいまいさが残り、中国政府の意向次第で海外投資家が株主としての権利の制約を受ける可能性がある。

中国が保有する米国債の扱いも焦点となる。4月時点で1兆961億ドルと日本に次いで2番目に多く保有する。米財政を支える米国債市場の安定は基軸通貨ドルの信認に直結する。中国による売却観測が浮上するだけで、緩和マネーで膨張した世界の金融市場は大きく動揺する可能性がある。

中国にとっての懸念は、一時に比べ小康状態にある貿易戦争の再燃だ。最大の輸出先である米国との対立が深刻になれば、供給網からの「中国外し」が一段と進み、製造業への打撃は避けられない。輸出で稼ぐ貿易黒字は先細りとなりかねない。

マネーの分断は中国企業が海外市場開拓や人材獲得でグローバル競争に後れを取ることにもつながる。成長が鈍化すれば共産党の一党支配の正統性は揺らぎかねない。

(上海=土居倫之、多部田俊輔、ニューヨーク=宮本岳則)』