根強い石炭生産、世界で22億トン 低コスト依存

根強い石炭生産、世界で22億トン 低コスト依存
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC3041X0Q1A630C2000000/

『世界で新たに22億トン超の石炭生産計画が進んでいる。発電や鉄鋼の原材料として新興国の需要が根強いとみて、中国などで新規の開発プロジェクトが進む。二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭は先進国を中心に使う量が減る見通し。一方で新興国は経済成長を優先して低コストの石炭に依存する。環境政策の二極化は脱炭素の技術革新を滞らせかねない。

米調査会社グローバル・エナジー・モニター(GEM)によると、着工済みの石炭開発の推計生産量は世界で6億1400万トン。未着工で計画中の案件は16億6300万トンだ。

国際エネルギー機関(IEA)は2021年の世界の石炭需要を74億トンとみる。新たな計画量は世界の需要の3割を占める。

中豪印ロで7割超占める
国別にみると、最も多いのは中国の6億900万トンだ。以下、オーストラリア(4億6600万トン)、インド(3億7600万トン)、ロシア(2億9900万トン)と続く。

4カ国で全体の7割超を占める。調査対象の31カ国のうち先進国は豪州、英国、カナダ、米国の4カ国のみ。ほかは全て新興国、途上国だ。

中国では内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区などで石炭開発が活発だ。生産した分の5割強は火力発電用に、残りは製鉄用やセメントや化学品など工業用に使う。

中国政府は温暖化ガス排出量を60年までに実質ゼロにすると公表した。再生可能エネルギーの普及にも注力するが、当面は電力需要を賄うために石炭に頼らざるを得ない。

世界有数の石炭輸出国、豪州でも多くの開発案件が残る。地場の独立系企業の開発計画が乱立しているという。豪州政府は温暖化ガスの実質ゼロに関する具体的な目標年を示していない。

資源開発の企業が多く、すぐに「石炭ゼロ」に踏み切れない事情がある。インドやロシアも国内需要用や輸出向けに生産増を模索している。

欧州発の脱炭素の波が急速に広まるなか、主要国は石炭火力発電の廃止を相次ぎ打ち出す。ドイツやフランスは20~30年代に全廃すると決めた。日本は高効率の発電所を除いて30年までに休廃止する方針を公表した。

5億キロワットの石炭火力新設

一方、GEMによると20年時点で世界で約5億キロワットの石炭火力の新設計画が残る。石炭への需要は根強い。

脱炭素に取り組むスピードは国・地域ごとにばらつく。国際通貨基金(IMF)のクリスティアン・ボグマンス氏は「脱炭素には数十年を要することが多い」と指摘する。

安く安定した電源としての代替が乏しい、投資回収まで20年以上かかるため一度建てると替えがきかない、既存の産業へのダメージが大きい、を理由に挙げる。

アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、インドネシア、ベトナム、フィリピンでは30年時点でも石炭火力が電源構成の4割を占めると予想する。アジアの新興・途上国の石炭火力の総容量はむしろ増えるとみる。アフリカではいまだに発電所や送電網すらない国も多い。

世界中にくまなく脱炭素を広げるには国際社会の連動が欠かせない。先進国の環境技術を途上国に移転する。石炭へのお金の流れを細め、脱炭素への資金援助の枠組みを整える。石炭開発が今もたくさん残る現状は、脱炭素で一枚岩になりきれない国際社会の現状を映す。

脱炭素の技術革新急げ

二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすのは世界共通の課題なのに、国・地域ごとに取り組みへのスピードや深度は全然違う。経済に余裕がある国は脱炭素時代の覇権を握ろうと新たな技術開発や制度設計に突き進む。資金に乏しい国は電力需要を賄うため、石炭のような低コストで調達しやすい資源を優先する。

脱炭素を普及させるには相当な時間がかかる。水素やアンモニアといった新燃料はコストや供給網づくりで課題が多い。CO2を回収して地中に埋める「CCUS」も実用化への道は半ばだ。風力や太陽光、地熱などの普及には、適地があるか、という「そもそも論」がつきまとう。

脱炭素を主導するのは先進国の責務だ。中国は今も自前の石炭火力の技術をどんどん途上国に輸出している。途上国で中国の存在感が高まれば、先進国にとって安全保障上の脅威にもなり得る。技術で一歩先を行く日米欧が手を組めば、温暖化対策にも貢献できるし、中国の脅威も和らげられるはずだ。

貧しい南の国々と豊かな北の国々に分かれる「南北問題」が顕在化したのは1960年代。21世紀の半ばに「灰色の南とグリーンの北」という新たな南北問題を起こさないためにも、技術革新は待ったなしだ。

(鈴木大祐)』