中国政府が向き合う投資家心理のアヤ

中国政府が向き合う投資家心理のアヤ(NY特急便)
米州総局次長 田口良成
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN070120X00C21A7000000/

『米独立記念日の連休明けで名実ともに下期入りした6日。前週末に最高値を更新したダウ工業株30種平均は反落した。米長期金利が1.3%台に低下するなか、市場参加者は下期のポートフォリオ見直しに余念がない。中期的なテーマとして浮上したのが中国発のニュースだった。』

『中国政府はこの日、中国企業の海外上場の規制を強化すると発表。ネット企業に対して国家安全上の理由で審査を始めた。これを受け、滴滴出行(ディディ)株は一時、前週末比25%安と急落した。滴滴に対しては前週来、中国政府の監視強化が伝わっていただけに、休み明けの6日に売りが膨らんだ。

滴滴は6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したばかりだ。6日終値は12ドル49セントと公開価格の14ドルを下回り、含み損を抱える投資家が続出したことになる。昨年11月にはアリババ集団傘下の金融会社アント・グループの大型上場が延期に追い込まれた。市場の困惑は別として、アントは上場していないので滴滴のように株安で損失を抱える投資家はいない。』

『米オアンダのエドワード・マヨ氏は「中国政府は最近、間違った方向に進んでいるようだ。今回の取り締まりは米国での新規株式公開(IPO)を危険にさらす」と指摘する。「こんなことがあった後で、お金をリスクにさらす必要などあるのか」。率直な物言いで知られるジム・クレイマー氏は滴滴を巡る混乱をこう表し、市場の雰囲気を代弁した。』

『余波は広がった。

マカオでカジノを手がけ、代表的な中国関連銘柄とされる米ウィン・リゾーツ株は6日、4%下げた。中国版ツイッターと呼ばれる「新浪微博(ウェイボ)」の株価は乱高下した。一部報道で経営陣が非上場化を検討していると伝わり急騰したが、その後に否定コメントが出た。』

『バイデン政権になっても米中対立が和らぐ兆しはない。それでも金融面に限れば、中国政府は米国を中心とする海外マネーを時間をかけて受け入れるだろうとの見方は多かった。もちろん、習近平(シー・ジンピン)指導部の意向に沿う限り、という条件付きだ。

現在の米中対立の大きな構図に照らせば、中国企業の海外上場の規制強化は中国政府による長期戦略の布石の一つなのかもしれない。上場先を香港などに移して中国企業のIPOブームが続く可能性もある。ウォール街の中国ウオッチャーからは楽観論も漏れる。

だが、中国政府は海外投資家の心理の綾(あや)まではコントロールできない。株価指数の「MSCIチャイナ」は6月末までかろうじて年初来のプラスを保っていたが、7月以降はマイナスに転じた。主要市場で中国株の出遅れは覆い隠せなくなっている。

資産運用最大手のブラックロックは6月の投資家説明会で、中国市場の重要性を改めて強調した。存在感の高まる中国は「逃すには大きすぎる」として、中国への投資基盤を長期的に整える方針を示した。

50年前の7月9日。キッシンジャー大統領補佐官(当時)は極秘訪中した。翌年のニクソン大統領訪中で米中関係が前進した節目であり、今週は関連イベントも予定されている。ウォール街でも米中関係を巡るより大きな見取り図が必要になってきた。

(ニューヨーク=田口良成)』