中国、米への情報流出警戒 成長より統制優先の滴滴調査

中国、米への情報流出警戒 成長より統制優先の滴滴調査
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM052P30V00C21A7000000/

『【北京=多部田俊輔、上海=松田直樹】中国のネット規制当局は5日までに中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)などネット企業3社に対し、国家安全上の理由で審査を始めた。3社は米市場に上場したばかりだった。データが企業や国家の競争力を左右するなか、中国当局は対立する米国などへのデータ流出を強く警戒するが、中国企業のグローバル成長に悪影響が出る恐れもある。

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中国のネット規制当局は4日に滴滴のアプリで個人情報の収集と利用に関する重大な法律違反を確認し、アプリのダウンロードを停止した。さらに5日には満幇集団が運営するトラック配車アプリとBOSS直聘の求人アプリに対して、国家安全上の理由で審査を始めたと発表した。

当局によると、国家の安全に関する取り締まりを定めた「国家安全法」と、ネット空間の統制を強化する「インターネット安全法(サイバーセキュリティー法)」に基づいた審査としているだけで、詳細は明らかにしていない。

3社に共通するのは、6月に米国上場し、有力株主に米国など外国企業が含まれることだ。滴滴は6月末にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場し、44億㌦(約4900億円)を調達した。筆頭株主は日本のソフトバンクグループ(SBG)で2位は米同業大手のウーバーテクノロジーズだ。

習近平(シー・ジンピン)指導部はテック企業の膨張に危機感を示す。習国家主席は3月の会議で「プラットフォーム経済は重要な時期を迎えている。健全に発展させるには現在抱えている問題を解決しなければならない」と強調。6月にはデータの統制を強化する「データ安全法(データセキュリティー法)」を成立させ、9月に施行する。

中国当局は2020年11月、中国を代表するネット企業、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループの大型上場を延期に追い込んだ。21年4月にはアリババの独占禁止法違反を認定し、過去最大となる182億元(約3000億円)の制裁金を科した。

出前アプリ最大手の美団に対しても4月に独占禁止法違反で調査を開始したことが明らかになった。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)も中国事業の香港か上海での上場計画を凍結した。ネット統制の強化が背景との見方も出ている。

習指導部の本音を反映することが多い中国共産党系メディアの環球時報は4日の論評で滴滴への調査について「ネット大手が国家よりも中国人の個人情報を集めた膨大なビッグデータを掌握することは絶対に許さず、彼らが勝手に利用する権利を持つことはもっと許さない」と国家によるデータ管理の必要性を強調した。

滴滴は16年にウーバーの中国事業を買収し、9割近い圧倒的な市場シェアを持つ。人の移動や利用履歴など「膨大なビッグデータを掌握」している点は、アントの決済事業やアリババのネット通販事業と共通する。

環球時報は「米国に上場し、主要株主が外国企業である場合、国家は情報の安全をさらに厳格に管理する必要がある」と、データ流出への警戒をあらわにした。上場直後の審査入りは、米国流の資本市場のルールを軽視し、企業のグローバルな成長よりも国家による統制を優先することを意味する。

北京大学で教壇に立った経験もある金融専門家の唐涯氏は3日のブログで、「デジタルプラットフォーマーの米国上場のコストは上昇していく」と指摘した。民間の企業経営者は海外での上場や市場開拓よりも、中国での上場や国内中心の事業運営に傾斜せざるを得ないとの見方をにじませた。』