ワクチン接種の「菅モデル」 100万回と政局で勝負

ワクチン接種の「菅モデル」 100万回と政局で勝負
ニュース・エディター 丸谷浩史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB050IY0V00C21A7000000/

 ※ もう一個、重要な「要素」があるだろう(ヘタすれば、これが「最大の要素」かもしれんな)。

 ※ 日本国内の政局の問題を考えるとき、「この要素」を外すわけにはいかない…。

 ※ さらに「細分化」すれば、外交機関の意向、軍事機関の意向、情報機関の意向、さらには「世論」まで…。

 ※ そして、そういう「考えにいれるべき要素」が、複数生じるから、話しは「複雑化」する…。

『「ワクチンに勝負をかける」と菅義偉首相が話すのを聞いた人は多い。

新型コロナウイルスのワクチン接種で最初に「1日100万回」を掲げたのは5月7日。積み上げた数字ではなく、閣僚や事務当局が「なかなか難しい」との見通しを示したのをさえぎって「俺はやる」と退路を断った。行き詰まっている部分があると聞くと、自ら電話で調整した。

結果として接種速度は加速し、職域接種は申し込みが殺到して一時停止の状態になった。』

『こうした状況は両面の見方ができる。需要と供給の目算を誤った責任は首相官邸にある、担当する閣僚が多く、トップが口を出しすぎて首相らしくないとの批判的な声は、永田町・霞が関にも多い。

一方で混乱はあっても、とにかく接種回数を増やすのが重要で、トップダウンでなければできなかったとの見方もある。

1日100万回、希望する高齢者すべてに7月末までにワクチンを2回接種する。具体的な目標と期限を区切ってプロジェクトを実行するのは、デジタル化のスピードに追われる企業では一般的な手法でもある。進捗状況をリーダーが確認し、うまくいっていなければボトルネックがどこにあるのかを探して現場の目線を離れ、解決策を提示する手法に似る。

今回のワクチン接種で首相が厚生労働省だけでなく総務省も使ったのは、この観点からみれば理にかなっている。首相のもとには民間から「産業医を使えばスピードがあがる。協力したい」との声が早くから届いていた。「1日100万回」を打ち出す前に、民間の企業接種と総務省を組み合わせれば十分に可能だ、との目算が首相にはあった。トップが目標を示し、仕事を分解して実行にも直接、関与する運営は伝統的な永田町の手法とは異質な「菅モデル」とも言うべき手法である。』

『自民党総裁の任期が9月末、衆院議員の任期も10月21日に満了となる。選挙の季節が本番を迎え、都議選の結果を踏まえた衆院選の予測で、自民党内はかまびすしい。

前哨戦は既に終わっている。半導体から外交まで、あらゆるテーマで議員連盟が乱立した。そこでは二階俊博幹事長のグループと、安倍晋三前首相、麻生太郎副総理・財務相、甘利明税制調査会長の「3A」との対立構図が取りざたされた。議連に参加したほとんどの議員は「菅氏の総裁再選」を支持する。狙いはトップの交代ではなく、幹事長ポストをどのグループが握るか、にある。

なぜ総理総裁ではなく、幹事長の争奪戦になるのか。』

『背景には衆院選を前に首相交代論で党内が乱れれば、野党に転落しかねないという本能的な恐怖がある。しかも、いまはコロナ禍で誰が政権を担当しても局面打開は難しい。本格的な勝負の機会を来年の参院選前後に設定し、1年間の時間軸をとる。党内にまとまった基盤を持たない首相は「いつでも交代させることができる」とみて、まずはナンバーツーの獲得に全力をあげる考え方といってもよい。』

『幹事長ポストがターゲットになるのは、菅氏のほかに衆目の一致する総裁候補がいないことを意味する。「議連政局」では、安倍前首相が主役と目された。憲政史上最長の政権を担当し、次があれば3度目の登板となる安倍氏がクローズアップされるところに、自民党の深刻な人材難がうかがえる。

安倍氏が最初に総裁選で勝った時、舞台回しは菅氏が主導した再チャレンジ議連が担った。議連で党内の主導権を争うのは、派閥の力が衰えているからでもある。だからこそ、無派閥であっても菅氏が勝利できた。自らが最初に動いて勝ち馬となり、総裁選に勝つ。これが政局での「菅モデル」だとすれば今回、その流れをつくるのはワクチンになる。政権運営と政局の両面で、首相はワクチンに勝負をかけた。

ワクチン接種に手間取れば内閣支持率に響き、衆院選前に人事刷新や首相交代論も出てきかねない。一方で接種が再加速すれば、空気は変わる。「党内ではなく、国民がどう受け止めてくれるかだ」と首相は漏らす。「菅モデル」の成否は来年の参院選までつながっている。』