日米、南西諸島で防衛訓練 中国念頭に対空迎撃

日米、南西諸島で防衛訓練 中国念頭に対空迎撃
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『陸上自衛隊と米陸軍は1日、鹿児島県・奄美大島で対空戦闘の訓練を実施した。沖縄県・尖閣諸島周辺で活発に活動する中国への対処を念頭に、日米が結束して日本の離島を守る姿勢を示した。中国共産党が創立100年の記念式典を開いた日にあわせた。

「Move a few meters(少し動かして)」。「OK(了解)」。午後2時、曇天のなか、海を見下ろせる小高い丘の駐屯地で英語が飛び交う。

陸自の奄美駐屯地で陸自40人、米陸軍30人が一緒に活動した際の一幕だ。約5メートルの対空ミサイルを積める巨大車両の配置を日米の隊員で調整した。発射装置、レーダー、指揮通信車両などで航空機やミサイルを迎え撃つ態勢をとった。

施設内の一室では日米の司令官がモニターに向き合っていた。日米のレーダーの情報が、伊丹駐屯地(兵庫県伊丹市)にある指揮機関などを通じて集まってくる。ここでもやりとりは英語だ。同じ目標を別の部隊が狙ったり、味方を撃ったりしないよう注意して迎撃の判断を下す。

陸自は中距離地対空誘導弾の発射装置を2基、米陸軍は地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)を2基、展開した。射程や特性が異なるミサイルを駆使し、戦闘機やミサイルを地上から撃ち落とす。

実弾は使わないものの、手順は実際の戦闘と同じだ。万が一の際に素早く正確に対処できるよう経験を積む。

今回は6月18日から7月11日まで実施する日米共同訓練「オリエント・シールド」の一環だ。全国の駐屯地や演習場を利用し、日米で3000人が参加する。北海道の演習場では実弾の射撃訓練もした。

2つの意味がある。1つは離島にミサイル防衛の装備と部隊を初めて運び込んだことだ。陸自は青野原駐屯地(兵庫県)から陸路とフェリーで3日かけて移動した。米軍は嘉手納基地(沖縄県)から輸送した。

米ソ冷戦期、仮想敵はソ連だった。北海道で戦車などの地上部隊を展開する訓練が中心だった。いまは中国が最大の脅威になる。台湾や尖閣に侵攻すれば、日米は素早く部隊を展開して防衛体制をとる必要がある。

広い駐屯地や演習場がある北海道なら普段から多くの部隊や装備を配備できる。南西諸島の離島は大規模な駐屯地が少なく、緊急時に速やかに全国から駆け付ける準備が重要になる。

訓練のもう一つの意味は、陸海空の区分とは別の「新領域」と呼ばれる分野にも対応したことだ。今回の指揮をとった伊丹では、奄美での訓練と並行してサイバーや電磁波による攻撃にも対応した。

過去の軍事作戦は陸海空の物理的な戦闘が中心だった。現在はサイバーなどを駆使して指揮系統や装備の機能を妨害する攻撃がある。物理的な攻撃と合わせれば大きな打撃になる。2014年のウクライナ危機ではロシアが電磁波攻撃を使った。

伊丹での取り組みは中国やロシア、北朝鮮など新領域の戦闘力に磨きをかける相手への対処能力につながる。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は1日の演説で、台湾について「祖国の完全統一を実現することは共産党の歴史的任務だ」と言及した。

日米が4月の首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」と盛り込んだことに回答したように映る。

台湾は尖閣諸島から170キロメートルと至近にあり、南西諸島の防衛と連動する。中国共産党の式典の日に訓練をしたのは政治的なメッセージだ。日米が緊密に防衛体制を整えていると伝わる。

日米共同訓練で記者会見する吉田陸幕長㊧とヴァウル在日米陸軍司令官(中央)=1日、鹿児島県奄美市

吉田圭秀陸上幕僚長は1日の訓練後、記者会見で「奄美大島はわが国の防衛の焦点となる南西諸島の主要な島しょだ。地政学的に重要だ。より強固になった日米同盟を国内外に発信する良い機会になった」と強調した。

在日米陸軍のヴァウル司令官は「南西諸島は敵対勢力に対する脆弱性を持つ。有事の際に日米がともに守ることができる能力を示すのは重要な意味を持つ」と指摘した。(安全保障エディター 甲原潤之介)』