「デジタル・フォレンジック」…。

中国が隠したい真実 100年目の秘密主義
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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA226210S1A620C2000000/

『「デジタル・フォレンジック」と呼ばれる技術を初めて耳にした人も多かったのではないか。

パソコンやスマートフォンから消されたり、書き換えられたりした電子メールなどの情報を復元する。2020年7月の東芝の株主総会に関する弁護士の報告書は、この技術を駆使して同社と経済産業省の生々しいやり取りを世にさらした。

報告書によると、東芝側には電子メールをほとんど使っていなかった関係者がいるという。前社長兼最高経営責任者(CEO)の車谷暢昭氏である。

いったんデジタルで記録した情報は消せないし、書き換えられない。車谷氏はそれを一番よくわかっていたのかもしれない。

20年夏に米テキサス州ヒューストンの中国総領事館で起きた「事件」を思い出した。大量の書類が燃やされ、消防車が出動する騒ぎになった。

中国と激しく対立していた当時のトランプ米政権が、総領事館の閉鎖を求めた直後だった。中国側が何を燃やしたかはわからない。しかし、外には決して出せない文書であったことは容易に想像がつく。

デジタル化で世界の先端を走る中国も、機密性の高い情報ほどアナログな管理を続けているという話を聞いたことがある。

さもありなん。紙の上にだけ残る記録なら、いざというときは燃やしてしまえばこの世から消せる。

20年末、習近平(シー・ジンピン)国家主席が執務室から演説する様子を伝えた国営中央テレビの映像が印象に残る。

机の上には、共産党内で「赤い機械」と呼ばれる幹部専用の真っ赤な電話機が置かれていた。習氏は指導部のメンバーとこの電話で大事な話をするのだろうか。中国の最高指導者が、電子メールで部下に指示を出す姿は想像しにくい。

中国共産党は7月1日に創立100年を迎える。非合法の革命政党だった当時から、その秘密主義は変わらない。新たな党員は入党式で、いまも100年前と同じように右手の拳を肩の上にあげて「党の秘密を守る」と宣誓する。

何か隠しているのではないか。国際社会は中国への疑念をぬぐえない。

「新型コロナウイルスの起源に関する調査の実施を求める」。英国で13日に閉幕した主要7カ国(G7)首脳会議は声明にこう明記した。念頭にあるのは、ウイルスが武漢の研究所から流出したという説だ。

直後には、米CNNテレビが広東省の原子力発電所から放射性物質が漏れた可能性を報じた。中国政府は「安全は保たれている」と強調しつつ、燃料棒の破損を認めた。CNNが報じなければ、事実を闇に葬っていたかもしれない。

国内に言論や報道の自由がないから、それができる。中国共産党に批判的な香港紙の蘋果日報(アップル・デイリー)は、当局の圧力で発行を続けるのが難しくなった。党の秘密を暴くメディアは、もはや香港でも生きられない。

党が認める情報だけが、ときに都合よく書き換えられて表に出る。そこではデジタル・フォレンジックを使っても、真実をあぶり出すのは難しい。

正しい情報が伝わらなければ、自由で公正な市場は根底から揺らぐ。企業も無縁ではいられない。G7が対中国で結束する理由の一つである。』