台湾が照らす日米の核心 27年前、北朝鮮危機の教訓

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE13BV60T10C21A4000000/

『菅義偉首相は16日、ワシントンでバイデン米大統領との会談に臨み、台湾海峡の安定など対中国抑止を話し合う。台湾が照らす北東アジアの安全保障は日米首脳会談の核心だ。北朝鮮危機が進行していた27年前の細川護熙首相とクリントン米大統領の首脳会談は一つの教訓になる。

1994年に官房副長官だった石原信雄氏をその16年後に取材すると「細川、クリントン会談で、経済の話は、ほぼなかった。北朝鮮一色だった」と明かしてくれた。

当時、日米は包括経済協議で対立し、この会談も貿易不均衡が主題とみられた。

会談後、日米双方は是正策で折り合えなかったと発表した。この会談でクリントン氏は日本側が想定していなかった米国が北朝鮮への軍事行動に踏み切った際の協力を要請した。
クリントン氏の要求は伏せられた。細川氏の指示で政府は石原氏を中心に秘密裏に米軍支援を検討した。海上封鎖での機雷掃海は戦闘行為になる。

今なら安全保障関連法で日本の存立が危ぶまれる「存立危機事態」と認定して集団的自衛権を行使できる。当時は「何もできない」が米側への回答だった。

95年の沖縄米兵の少女暴行事件をきっかけに日米は険悪になる。北朝鮮危機と、この沖縄の事件の2つは日米同盟を問いただした。

日米は96年に安保共同宣言、97年には防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、99年に日本は周辺事態法を制定した。一連の同盟強化は2015年の安全保障関連法に続く。
北朝鮮危機と現在が重なるのは台湾海峡をはじめ北東アジアの安保が脅かされていることだ。1949年に中国と分断した台湾は「一つの中国」を掲げる中国にとっていまなお統一の対象になる。

中国が力による現状変更を試みて台湾を攻撃した場合、沖縄県・尖閣諸島も巻き込まれる可能性が高い。

台湾海峡や尖閣周辺はインド太平洋地域に展開する米軍の安保上の要衝。この地域における日米の抑止力低下はアジア全域のみならず世界に影を落とす。台湾が日米首脳会談の核心である理由はここにある。

「米国は世界の警察官ではない」(オバマ元米大統領)。台湾など北東アジアの抑止力を維持・強化するには日本など同盟国の協力が欠かせない。

27年前の教訓は完全な準備不足と法律の未整備だった。その点は解消されつつあるが、米側の要望と期待にすべて応えられるかはわからない。トランプ前米大統領は任期中に在日米軍駐留経費の増額を求めた。

人件費だけでなく、米軍のオペレーションを含めた試算とみられた。大統領がバイデン氏に代わっても同盟国と負担を分かち合う方針は変わらない。

バイデン氏は対面で会う初めての首脳に菅氏を選んだ。英国やカナダではなく、日本の首相だったところに中国への抑止力の意識と日本の戦略的価値の高さをうかがわせる。

首脳会談のテーマは脱炭素からワクチン確保、半導体の供給網、人権まで多岐にわたる。日米が背負う課題は多く、重い。日米同盟は新時代を迎える。菅―バイデン関係がそれを象徴することになる。

(政治・外交グループ長 吉野直也)

政治・外交、経済・社会保障のグループ長らが独自の視点でニュースを読み解きます。

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