ミャンマー混迷、国内に2つの「政府」 政変3カ月

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『【バンコク=ドミニク・フォルダー、ヤンゴン=新田裕一】ミャンマーはクーデターから3カ月目を迎えた。全権掌握を主張する国軍と警察は市民の抗議デモを重火器も使って弾圧。死者は計700人を超えた。一方、民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏の政権を支持する勢力は「臨時政府」をつくり、国軍と対峙する。難民が周辺国に逃れ、混乱は地域に広がる。混迷するミャンマーを追う。

砲撃は夜10時ごろまで続いた。中部の古都バゴーで9日、国軍側がデモ参加者を攻撃し、少なくとも80人以上が死亡した。ミャンマーで尊敬される仏教の僧侶が負傷者の介抱を申し出たが、拒否されたという。

軍事法廷は8日、最大都市ヤンゴンで国軍兵士を殺害したとして19人に死刑判決を下した。

バチェレ国連人権高等弁務官は13日の声明でミャンマー情勢について「2011年にシリア内戦が始まった当時の状況を思わせる」と指摘。今後、シリアのような状態に陥る可能性があると示唆する。

ブリュッセルに本部を置くシンクタンク、国際危機グループ(ICG)の上級顧問リチャード・ホーセイ氏は9日、国連安全保障理事会で「ミャンマーは破綻国家への瀬戸際だ」と報告した。

5年間のスー・チー氏の政権は、2月1日の政変で終わった。15年の総選挙でスー・チー氏の政党、国民民主連盟(NLD)が圧勝。同氏は16年、国家顧問兼外相に就き、事実上の政府トップになった。20年の総選挙で連邦議会の議席数を伸ばしたNLDを警戒した国軍のクーデターは経済発展も台無しにしようとしている。

クーデター直後にスー・チー氏の政権の正統性を主張する15人の連邦議会議員が設けた連邦議会代表委員会(CRPH)は「臨時政府」の装いだ。外相を含む多くの閣僚ポストで大臣代行を任命し、軍政下で制定された現行憲法の廃止を宣言した。国軍が設立した最高意思決定機関、国家統治評議会を「テロ組織」と非難する。

国軍はクーデター当日、スー・チー政権の閣僚を解任し、新たな大臣を任命した。クーデターは「憲法に則した正当な措置」と言い張り、4月上旬の記者会見では「2年以内の総選挙実施」を表明したが、デモに加わる市民の多くは懐疑的だ。

ミャンマー国内は2つの「政府」が並立する分裂状態だ。

国軍は欧米諸国の強い非難を受けるが、国際社会での孤立を意に介さない。人口の7割を占めるビルマ族による支配を固めることが責務だと考えている。

国際軍事情報大手IHSジェーンズの軍事アナリスト、アンソニー・デービス氏はバンコクで記者団に「ミャンマー国軍の兵士は残忍」と指摘する一方、国軍がまとめないとミャンマーもアフガニスタンと同じような混乱した国家になりかねないと主張した。

ヤンゴンの民間団体「責任あるビジネスのためのミャンマー・センター(MCRB)」は「事態への懸念を強めている」という内容の共同声明を作成し、外国の68社と国内の164社が署名した。人権の尊重と民主主義への回帰、法の支配を求めた。

仏エネルギー大手トタルは、CRPHの要請に従わず、ミャンマー沖で天然ガスの産出を続け、納税している。ガスの輸出はミャンマーにとって重要な外貨獲得源だ。ガス全体の輸出額は20年が33億ドル(約3600億円)で、ミャンマーの総輸出額の2割を占めた。輸出先はいずれもミャンマーと国境を接するタイと中国だ。

非政府組織(NGO)「国際法律家委員会」のサム・ザリフィ事務局長は「市民殺害のペースは、シリアのアサド政権よりも速い」と指摘した。シリア難民は世界最悪の水準だ。ロヒンギャなど少数民族が多いミャンマー難民の総数は減る傾向だったが、国内の混乱を受け、タイとの国境地帯などで再び目立ってきた。

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