中東戦略、中国マネーに落とし穴(The Economist)

中東戦略、中国マネーに落とし穴(The Economist)
欧米の二の舞いにならないと自信深める中国だが
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1113S0R10C21A4000000/

『中国指導部は、世界の大国が遂行すべき中東政策を書き換えようとしている。

近年は中東の主要な国々と通商協定など様々な協定を次々に締結している。その多くは長年、互いに敵対関係にある国々だ。イスラエルとパレスチナのいずれとも良好な関係にあると主張したり、2013年には双方の代表を別々に北京に招いたりした。

中国の王毅外相(左)とイランのザリフ外相は3月27日に、イランと経済や安全保障を巡る25年間の協定に署名した=ロイター
信頼関係の構築が難しい中東で中国はアラブ諸国にも、非アラブ諸国にも新型コロナウイルスワクチンや監視技術を提供し、信頼できる国という評判を築いた。

シーア派の盟主を自任するイランと敵対するスンニ派の盟主サウジアラビアの両国にとって、世界最大の原油輸入国である中国は代えがたい貿易相手国だ。中国はそのイランとサウジと、数週間の短い間隔しか空けずに、それぞれと海軍の合同軍事演習まで一度ならず実施している。

中国政府は外国人はほぼ金で動かせると思い込んでいるらしく、イデオロギーといった価値観より経済的利益を重視する姿勢を鮮明にしている。自分たち独自の中東外交を展開する限り、米国や中東をかつて植民地として支配した欧州諸国が頻繁に泥沼に陥った二の舞いは回避できるとの自信を深めているようだ。

イランと協定、ホルムズ海峡近くに港湾も整備か
中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は3月24~30日に中東6カ国を歴訪し、「域外からの介入が中東にひどい爪痕を残した」と嘆いた。イランとは27日、経済や安全保障を巡る25年間の協定に署名した。

その詳細は明らかになっていないが、イランが原油を割安で提供する見返りに中国が通信網や病院、地下鉄の整備を支援するのに加え、世界有数の戦略的要衝に港湾を複数整備する計画があるという観測も流れている(編集注、バーレーンに司令部を置く米第5艦隊はホルムズ海峡を戦略的に重視しているが、同海峡近くのオマーン海に面するジャスクに中国が港湾設備を整備するとの噂もあり、西側の大きな懸念を呼んでいる)。

中国指導部は、中東では経済を軸に外交を展開するのがよいと考えている。習近平(シー・ジンピン)国家主席は2016年にアラブ諸国で構成するアラブ連盟で演説した際、中国は中東で影響力を及ぼせる勢力圏を築きたいわけでも、中国の利益を代弁してくれる存在を求めているのでもないと発言した。中国の狙いは経済成長を軸とした関係の深化であり、「中東の混乱は経済発展の遅れが原因だとみている」と語った。

イランの激しい反米感情やイスラエルへの敵対心といった難問中の難問もささいな事と片づけ、経済的繁栄で解決できるとの見方を示したのだ。

中国もイランの核開発に反対の理由
中国は、特に自国がイランに約束した様々な投資が、イラン核合意と呼ばれる包括的共同作業計画(JCPOA)にイランを引き戻す取り組みを阻害するというより促進するものだと主張する。JCPOAは15年に米オバマ政権と主要五カ国がまとめたが、18年に当時のトランプ大統領が一方的に米国を離脱させた。トランプ氏は、イランが核兵器の開発を制限する代わりに制裁を緩和したオバマ政権のやり方を批判し、核合意離脱後はイランに対し厳しい経済制裁を復活させた。

中国の政府系シンクタンク、中国社会科学院で中東情勢を長年研究している殷罡氏は、中国はイランとの貿易拡大を目指しているとはいえ、イランの核開発には反対の立場であることをバイデン米政権がなぜ疑うべきではないかをこう説明する。

何かと率直な物言いをする殷氏は、中国がイランの核兵器開発に反対なのは中国のマイナスになるという身勝手な理由からだと指摘する。イランが核兵器を持つに至れば中東で軍拡競争が始まる懸念が生じる。「イランが核兵器を開発すれば、サウジやトルコも追随するのは間違いない」と。そうなれば中国にとって直接の脅威にこそならないかもしれないが、「もし中東で核戦争が起きたら、中国の中東ビジネスはどうなるのかという問題が浮上する」と言う。

中国政府はどんなに厳しい経済制裁を科しても中東諸国などによる核兵器開発は阻止できないとみている、と殷氏は北京でお茶を片手に断言した。そして、その代表例が北朝鮮だと指摘した。

そのロジックはこうだ。もし米国が対イラン制裁を解除して、中国や欧州および他地域の企業とイランの企業や組織との貿易の再開を認めれば、イラン側に自制した方がいいと判断する理由が増える。だからこそ中国は米国に制裁の解除を求め、イランには核合意の義務履行を求めているのだ、と。

中国政府が自国の利益のことしか考えていないのを隠そうともしないのは、自らの主張に噓はない証拠だとも考えられる。

イランは米中が協力できる少ない問題の一つ
バイデン政権は今のところ、中国もイランの核開発には反対で、中東への関心は経済が中心で政治的野心ではないという主張に耳を傾ける方向のようだ。

3月18~19日の米アラスカ州での米中外交トップによる協議の後、イランの核合意を巡る対応は米中が協力できそうな数少ない項目の一つに入った。中国がイランとの貿易を拡大しようとしている件について聞かれた米国務省の報道官は、イランによる核開発反対は米中間で「戦術的に連携できる数少ない分野」の一つだと述べた。

中国・北京に駐在する各国の外交官らによると、中国政府は新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族への弾圧をイランやアラブ諸国に支持するよう求めるなど、中東で政治的な目標の達成も追求していると言う。

この点について、殷氏は、ウイグル族はトルコ系民族であり、イランもアラブ諸国もトルコ系民族を嫌っているので、「彼らはウイグル族弾圧のことなど政治的に問題だなどとはみていない」と冷ややかに言い放った。

だが殷氏は、中国が中東で経済的存在感を高めつつ政治的には無関係であり続けようとする戦略を多くの中国の学者らが懸念していることは認めた。中東には様々な機会が豊富に存在するが、「罠(わな)や泥沼も多い」と言う。

中国人の外交専門家には、米国の存在感低下で中東に空白が生じているとみる向きがある。13~17年に東アジア・太平洋担当の米国務次官補を務めたダニエル・ラッセル氏も、中東諸国の間で米国をもはや頼りにはできないとの見方が浮上する中、中国が存在感を発揮しようとしていることを認識している。

中国政府は中国企業に、広域経済圏構想「一帯一路」の実現に向け海外進出を進め、中国の価値観や様々な技術標準を広めるべく先端技術を拡販せよとハッパをかけている。だが、中国が各国と結んだ野心的な協定には政治的リスクが伴う。現在は米国のアジア・ソサエティー政策研究所に所属するラッセル氏は「存在感や投資を拡大させるほどリスクもそれだけ高まる」と指摘する。

それでも野望が行き詰まる可能性
米国が中東への関与を減らしつつあるとはいえ、中国は中東戦略を考える上で米国の存在を常に意識している。中国の最も魅力的な貿易相手国である湾岸アラブ諸国は長年、安全保障を米国に依存してきただけに米国の存在を無視することなど不可能だ。

もし中国が中東で軍用にも商用にも使える港湾を建設したり、重要な技術で中東諸国に協力を求めたりすれば、米国は古くからの同盟国に米国に味方するよう求める可能性は十分ある。

中国は倫理をものともしないビジネス第一主義を貫くことで、これまでは中東で様々な落とし穴に陥るのを回避できたかもしれない。だが今後、中国の野望は行き詰まる可能性がある。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. April 10, 2021 All rights reserved.

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