天然ガスの憂鬱、米独ロの摩擦を横目にEUが包囲網

天然ガスの憂鬱、米独ロの摩擦を横目にEUが包囲網
フランクフルト支局 深尾幸生
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR068U30W1A400C2000000/

『ロシア産の天然ガスをドイツに運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」をめぐってドイツと米国の摩擦が続く。だが、欧州全体を俯瞰(ふかん)すると、このパイプラインだけでなく天然ガスそのものへの風当たりが強くなっている。つい数年前までクリーンなエネルギーとして期待された天然ガスだが、世界が炭素ゼロへ急加速するなかで「化石」のラベルを貼られつつある。世界一の液化天然ガス(LNG)輸入国である日本への影響も大…

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世界一の液化天然ガス(LNG)輸入国である日本への影響も大きい。

「直ちにパイプラインの作業を放棄すべきだ」。3月、米バイデン政権は明確にノルドストリーム2に反対する意向を打ち出した。トランプ前政権からの懸案はバイデン政権にも引き継がれ、制裁を排除しない構えだ。ノルドストリーム2は年内の完工をめざし9割以上が建設済みだ。ドイツは原子力発電と石炭火力の終了を決めており、天然ガスの重要性は増すとして米国との妥協を模索する。

だが、独米ロの政治的思惑とは別のところでもその意味合いは変わりつつある。
「ガスは終わった」とEIB総裁

「控えめに言って、ガスは終わった」。1月、欧州連合(EU)の政策金融機関、欧州投資銀行(EIB)のベルナー・ホイヤー総裁は記者会見で言い切った。「(ノルドストリーム2のことは)ベルリンが決めること」と述べたものの、「脱ガスは過去からの重大な離別だが化石燃料の使用をやめなければ気候目標を達成できない」と強調した。

EUは2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を目指すべく、30年の削減目標を強化している。インフラは耐用年数が長いため今から化石燃料への投資をやめないと50年のゼロは達成できないというのがホイヤー氏の発言の趣旨だ。

発電や都市ガスに使われる天然ガスは燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出が石炭より約4割、石油より約3割少ない。温暖化対策の有力な選択肢として期待が集まり開発やインフラ整備が進んだが、早くもその地位が揺らぎ始めた。

ノルドストリーム2が領海を通るデンマークは20年12月、北海での石油・ガス開発・生産を50年までに終了すると発表し、新たな入札を中止した。スウェーデンやフランスの公的金融部門でもガス開発プロジェクトなどへの支援の終了時期を定める動きが広がる。

ガスの将来性に決定的な影響を与えかねないのが、EUが近く立法する「タクソノミー規制」だ。タクソノミーは持続可能な経済活動を分類し定義する。つまり、気候変動の緩和の目標に照らしてどの技術が投資対象などとしてふさわしいかを定めるものだ。

20年11月に公表された原案では、ガス火力発電はCO2排出の基準値を満たすものだけ適格と見なされると記載された。そのための基準値が発電1キロワット時あたり100グラム未満と非常に厳しい。最新鋭のガスタービンコンバインドサイクルシステムでも310~340グラムと、既存技術では不可能な水準だ。まだ確立していないCO2を回収・貯蔵する技術(CCS)などと組み合わせるしかない。

原案の公表以降、ガス業界や一部の加盟国から見直しを求める意見が噴出し、利害を反映するための最終調整が進められている。3月下旬にはガス火力の基準は緩和される方向で検討されていることが明らかになり、一部の欧州議会議員などが「科学的ではない」と反発している。EUは4月末にも最終案をまとめる見通しだ。
理想と現実のバランスは

企業の間でも、とりわけ新設に対しては対応が分かれる。独シーメンスの火力発電機部門が分離したシーメンス・エナジーは、石炭火力の新設からの撤退を決めた。だが、ガス火力は今後も新設需要は旺盛とみる。同社の取締役会を監督する監査役会のジョー・ケーザー会長は日本経済新聞のインタビューに対し、「ガスはエネルギーと電力を確保するための中期的に現実的なソリューションだ。企業は現実と理想のバランスをとる必要がある」と述べた。

一方、独電力大手のRWEは40年までにガス火力発電からも撤退する。次期社長のマルクス・クレッバー氏は取材に「ガスへの需要は北米や欧州、アジアの主要市場では30年ごろ縮小に転じる」と語った。風力などの再生可能エネルギーの方が発電コストが安いためで原則、新設はしない。ガスは冬場に数週間、風力と太陽光の電力が足りなくなることなど緊急時に備えるためだけに残るとみている。

日本企業にとっても対岸の火事ではない。EUのタクソノミーは、EU域内で操業する外国企業も適用対象との議論もあり、日本企業が開示義務の対象となる可能性がある。機関投資家の銘柄選定に影響を及ぼすことも必至だ。また、EUは19年に持続可能なファイナンスについての国際的なプラットフォームを立ち上げており、国際的な基準作りへも影響を及ぼそうとしている。

ガスが化石燃料であることは避けようがない事実だ。一方でエネルギーの多様化と安定供給の重要性は変わらない。例えばCCSのような、CO2を確実に回収し閉じ込められる技術を、競争力のあるコストで確立できるかどうかがガスの将来を左右する。いずれは再エネ由来の水素に置き換わるとしても、過渡的な役割がいつまで続くのかの見極めも重要になる。